3年かけて描き下ろした「恐竜✕SF」。描き込みが芸術的な『舞う竜の記憶』。

岐部 淳一郎2014年11月14日 印刷向け表示
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『舞う竜の記憶』菅原雅雪
作者:菅原 雅雪
発売日:2014-11-14

作家が「描きたいから描いた」作品

『暁星記』という作品を夢中になって読んだ。その後出た『光の王国』も一気に読んだ。そんな2作品があって、それを描いた作家が「描きたいから描いた」作品があると聞けば、それがどんなに短くても、長くても、ネームであっても読みたいと強く思う。その先生からコルクに連絡をいただき、3年の年月をかけて描いた100ページがあると聞き、何が何でも読みたいと思った。

アフタヌーンの四季賞を経てデビューし、読者(僕)の予想を横殴りするような衝撃を世界観を見せてくれた『暁星記』の作家・菅原雅雪さんが、自前の特設サイトで新作をリリース。その作品は『舞う竜の記憶』。

舞台は、恐竜が生息していた時代の地球。

ある種の恐竜のオスにとっては、その踊りの習得が生涯を左右する重大事だった。それは、つがいを得るための求愛行動であり、主人公である「彼」は幾度の失敗を経た後にパートナーを得て、子供が生まれた。――感じる達成と充足。しかし、異変は、彼が子供のための獲物を追っている時に起こる。彼が、異質な何かを感じ見上げた視線の先に、黒く巨大な「それ」があり、それには宿主を求める寄生型の侵略者が乗船していた。

……と「恐竜✕SF」がテーマ。
 

 「予定不調和」「不可解」「予想外」が魅力の菅原流SF

『暁星記』を読んだことがある人なら共感してくれるのではないかと思うが、菅原雅雪のSFの魅力は、「予定不調和」「不可解」「予想外」の3本柱。

平たく言い過ぎると「わかりにくい」と言えなくもない。

が、「理解しないと気が済まない!」なんて性格でないならば、細かなことを気にしないのであれば、その壮大な世界感と綿密に書き込まれた絵(トーンが貼ってないんです!)に身(目)を預けつつ、むしろの、その理解できない……理解を越えた、物語の奥行きや世界観に、ぐいぐい引っ張り込まれて、次へ次へとページを繰ってしまう。

200ページの単行本に慣れていると、100ページを短いと思う人もいるかもしれない、が、その熱量、読んだ後の読後感の腹にずしんとくる感じは、勝るとも劣らない。むしろ『暁星記』は重厚感がある上に、長いから疲弊しつつ読み進めていたとすら言える。

「恐竜」が主人公と聞くと、見た目の気持ちよさを追求するようなアクション的な作品かとも思ってしまうが、何気に主人公に共感できるような、「ヒューマン」的なストーリーだったりもする。読んでいただきたいので深くは語らないが、恐竜に自己投影できるような物語構成で、まさかあれにこんなに入れ込むのかと心地良いギャップにひたってしまう。
 

作家を直接支援し、「僕の名作」を見つけられる時代。

――以下は、作品自体の話しからは少しずれてしまう蛇足。

本作は、まだ、公式ページでしか買えないが、近い将来は各種、電子書店で買えるようになるだろうと思う。でも、こんな形で作家さんが自分たちのブログで告知して、ホームページで買えるようになっていることから思うのが、コアなマンガ好きにとってハッピーだと感じるのが、「僕の名作」を見つけられること。そして、好きな作家さんの作品をSNSで発信したり、直接購入したりなどなどの支援を申し出られること。

菅原雅雪さんの作品は『暁星記』もそうだけど、好きな人はめっちゃくちゃ好き、でも、わかりづらい点(別にこれは悪い意味ではないです。理解を越えたスケールってニュアンスです)も少なくないので、一般商業誌との相性は必ずしも良くないかも……という気もしないことはないからです。で、相性が良くない……となると、すごく根強いファン層がいても、紙の商業流通にうまくマッチせず、結果、望む読者が読めなくなってしまうということが起こりうるし、実際に起こっているだろうと思う。

だから、こうやって作家さんが自分で発信し、直接読者に描き下ろし作品を届けられるようになって、それにアクセスする環境があるという今の時代は、とても幸せな気がするのです。

音楽だとインディーズのミュージシャンたちを支えてくれるコアファンがいて、僕も昔は小さな町で唯一、インディーズのアルバムを扱っているレコードショップに買いに行ったりしてたのですが、一方でマンガということでは、単行本を1冊買って届くかどうか分からないファンレターを書くしかなかったのが、音楽ファンのそれと近い距離感になれたわけですから。数十万部単位の雑誌には不向きでも、5,000人が心掴まれて、毎年の新作に年間1,000円払ってくれて、それで好きなマンガを描き続けられるみたいな世界も非現実的ではない気がします。

『暁星記』や『光の王国』を読んできたファンは、菅原雅雪さんがSF好きらしいということは知っているし、本作でどうやら恐竜も好きらしいことがわかる。「最恐・ティラノサウルス
VS 重戦車・トリケラトプス」を入れるくらいですから。そして、そんなことが、また、次はどんな作品を読ませていただけるのかな?とワクワクさせてくれるのです。また3年後かもしれないし、ひょっとしたらもっと先になってしまうかもしれませんが、次の作品が楽しみなのです。そんな風に好きな作家さんの新作を待てる時代なのだと思う。

『舞う竜の記憶』第1章の試し読みはこちらから。
なお、試し読みの後に、続きを著者から直接購入できるようになっている。
 

舞う竜の記憶を読む

追記:数量限定で製本版が購入できるようになりました。→→購入サイトへのリンク

暁星記(1) (モーニングKC)
作者:菅原 雅雪
出版社:講談社
発売日:2002-10-21
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光の王国(1)
作者:菅原雅雪
出版社:講談社
発売日:2012-05-31
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