Amazonで買えない! 幻のBL『変愛』が描く「愛の普遍」

ひらりさ2014年11月17日 印刷向け表示
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本日11月17日は「美術手帖」BL特集号の発売日。

美術手帖 2014年 12月号
作者:
出版社:美術出版社
発売日:2014-11-17
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BL特集自体は、「ユリイカ」や「ダ・ヴィンチ」など、これまでもさまざまな雑誌で組まれてきましたが、今回の「美術手帖」には、なんと10名ものBL漫画家のインタビューが掲載されており、しかもフルカラー!

BL漫画家ご本人がBLという表現についてどう考えていらっしゃるかはなかなか公の場で表明されていることが少なく、しかも中村明日美子さんが「ボーイズ・ラブ」というド直球のタイトルでマンガを描きおろしているとなれば、商業BL腐女子にとっては垂涎の一冊。この原稿を書いている発売前夜現在、私は早く手に入れたい気持ちが抑えきれず、自宅のフローリングの上をごろごろと転げまわっています。

さて、そんな気持ちを解消するために今回ご紹介したいのは、「美術手帖」インタビューのラインナップにも名をつらね、今最も注目されている新人の一人である、はらださんのデビュー作『変愛』です。 

タイトル
作者:はらだ
出版社:リブレ出版
発売日:2014-1-23 

 『変愛小説集』といえば、翻訳家の岸本佐知子さんが、普通の恋愛小説の枠をはみだした小説をセレクトし編訳しているアンソロジー。そのアンソロジーと同じ「変愛」という言葉をタイトルにした同作もまた、BLというにはひとすじなわではいかない作品ばかりがつまった短編集です。

表題作「変愛」は、ある高校の保健室で、高校教師と思しき男が学ランを着た教え子らしき男に激しく襲われているところから始まります。男子高校生の激しい攻めに、本当は嫌なはずなのにだんだん気持ちよくなっていく高校教師……だがしかし、いよいよクライマックスというところで、保健室に来客の気配が。2人は慌てて着衣を直し、大急ぎで保健室から逃げ出します。


「変愛」より

……と、ここまではまだわかるのですが、彼らが逃げるのに使ったのは保健室の入り口ではなく、窓。そう、彼らは高校教師でも男子高校生でもなく、この高校に縁もゆかりもない部外者だったのです。ただスリルを味わいたいがために、わざわざ学ランまでそろえて忍び込み、シチュエーションプレイを楽しんでいたのでした。 一歩あやまったら社会的にまずいレベルのプレイを求めているのは実は攻めではなく、受け。攻めは惚れた弱みでプレイに付き合っているものの、そろそろ辟易しており、受けに「普通に恋人同士っぽいことがしたい」とお願いします。ものすごーく嫌な顔をした受けに「つまんねー男!」と罵倒されながらも、なんとかお願いを聞き入れてもらった攻めは、「普通のセックス」に挑戦するのですが……。


「変愛」より

この「変愛」には、BLのお約束といえる「男同士での恋愛」というところの葛藤は一切描かれていません。「性別だから関係ない、お前だから好きなんだ」という部分をいかに説得力を持たせて書いているかは、作者の力量が問われる部分であり、そのBLの評価を大きく左右するポイントでもあります。逆に言えば、そこが描かれているならば腐女子は結構満足してしまうのであって、そこを描かないで腐女子を満足させることのほうが、結構たいへんなのではないかと思います。

しかし、はらださんは「男同士の恋愛」への葛藤にはフォーカスせず、より普遍的な、しかし多くの人ががんじがらめになっている「普通」というものに疑義を示します。 世の中には性別にかぎらず、一体誰が決めたのかわからないあいまいな「普通」がただよっていて、私たちを縛っています。そして腐女子がBLを愛する理由には、女ということに縛られたくないという気持ちのひとつの発露もあるのではないか、と私は思っています。


「変愛」より

だから、男同士の恋愛がどうのこうのというのを飛び越えて「この世の愛におよそ『普通』などはない」ということを鮮やかに示している「変愛」は、この世のどんなBLよりもむしろ本質的にBLを描いているのではないか、と、結末を読んで感じました。

『変愛』に掲載されている作品は、他には、喧嘩で返り討ちにあったチンピラが天使に命をたすけられ、彼の羽根の怪我が治るまでの共同生活を描いた「止まり木」、赤子のころから親も驚くほどの“舌テク”を有し老若男女をそのテクでメロメロにしてきたタチ専門のバイがある男に回春を依頼されて大変な目にあう「メシアの厄日」などなど。


「メシアの厄日」より

 いずれも「男同士の恋愛」というところよりも、世間の「普通」からはみ出た人たちの喜怒哀楽が描かれています。しかも、キャラクターの魅力とストーリーとしての完成度、濡れ場の臨場感が抜群で、「これ、ほんとにデビュー短編集なんですか??」という完成度。 BLを初めて読む人には性描写が激しめとも感じますが、いつかはらださんがジャンルの枠をこえて活躍されるようになったときに「え、BL描いてるときから知ってたよ?」と古参アピールしたい方はぜひぜひ今のうちにお読みになることをおすすめします。

……さて、タイトルにもいれましたが、ここまで書いてAmazonで『変愛』を調べたら本が見つからない! なぜに……と思って調べたら、なんと「変愛」、2月に東京都から不健全図書に指定されていました。「マジか!」と別のBLを紹介することも考えたのですが、リアル書店・e-bookjapanでは販売しているようですので、成人なさっている腐女子のみなさま、マンガ好事家のみなさまにおかれましては、むしろますます同作をチェックしていただきたいと思う次第でございます。

ちなみに2冊めはきちんとAmazonで購入いただけます。 

やたもも (バンブーコミックス Qpaコレクション)
作者:はらだ
出版社:竹書房
発売日:2014-08-16
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