本田圭祐はなぜセリエAに憧れたのか 『VIVA! CALCIO』

山田 義久2014年11月26日 印刷向け表示
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VIVA! CALCIO(1)
作者:愛原司
出版社:講談社
発売日:1993-08-17
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 有名な話だが、本田圭祐選手の小学校の卒業文集には「イタリア・セリエAのチームに入団し、10番の背番号で活躍する」と書かれていたという。彼は子供の頃の夢をそのまま叶えた。

しかし、ふと疑問を持った人はいないだろうか。
世界一のサッカークラブを夢見るなら、メッシを擁するバルセロナ、またはクリスチャーノ・ロナウドを擁するレアル・マドリッドとか、誰でも名前を知っているビッグ・クラブに目指さないのか。
実際、最近ではバルセロナのには久保建英君、レアルマドリッドには中井卓大君と両チームに憧れを持った天才少年が下部組織への入団に成功している。

ここ数年で世界のサッカーを観はじめた人からは「うそー!」と言われそうだが、実は、本田選手が少年時代を過ごした1990年代というのは、イタリア・セリエAは世界最強リーグで、世界中からスター選手が集結していた。

1993年に連載開始されたこの作品は、そんな当時の世界最高峰リーグだったセリエAに日本人選手が挑戦していく話だ。しかも当時の世界を代表するスーパースター達が実名で登場してしまう。

さらに何がすごいって、この作品の連載が開始された1993年というのはちょうどJリーグが開幕した年。
つまり日本全体がJリーグに熱狂し、カズダンスを踊りまくっていた最中、日本では知名度が低く当時WOWOWでしか放送されず、マニアしか観ていなかったセリエAを舞台にする、という強烈な逆張りをかましたサッカー漫画なのだ。

そして、その後連載中に”カズ”こと三浦和良がセリエAのジェノアに移籍し、日本国内でセリエAが少しずつ認知されだし、その後中田英寿(ペルージャ、ローマ等)、名波浩(ヴェネチア)が続き、90年代後半には、日本でもすっかりセリエAが世界最高峰リーグとして知れ渡った。
今となっては、それこそセリエAに日本人移籍は珍しくないが、この作品が、90年代前半に日本人のセリエA挑戦を描いたということは先鋭的なことなのだ。そして、「現実がマンガを追いかけていった」という意味では歴史に残る作品といってもいい。

主人公椎名燿(しいな・よう)16歳、通称シーナは、高校中退してイタリアに渡り、ACミランの入団を目指す。しかし、彼はかつてナポリに所属していたマラドーナのように、優勝とは縁がないクラブに所属して自分の力で優勝させようと、オファーを受けていたACミランを蹴り、フィオレンティーナに入団する。そして、仲間達とともに優勝(セリエAではスクデットという)を目指していく。

(出所:2巻 フィオレンティーナに決めるシーナ)

まず、この主人公が所属するチームがフィオレンティーナというのが渋い!
当時のフィオレンティーナは、中堅のチームといえどワールドクラスの選手がそろっていたが、彼らが実名で登場し、シーナの同僚(というかチョイ役)となる。例えば、バティストゥータ(アルゼンチンの点取り屋。98年ワードカップで日本は彼にゴールを決められた)、エッフェンべルグ(当時のドイツ代表の中核)、さらにルイ・コスタ(当時のポルトガル代表の司令塔。後にACミランに移籍し10番を背負う。つまり本田の先輩)まで登場する。

(出所:20巻 ルイ・コスタ、バティを引き連れるシーナ)

この名前だけでも往年のサッカーファンは「うふょー!」と叫んでいるだろうが、敵はもっとすごい。

ACミランは、伝説のオランダ・トライアングル、つまりファンバステンフーリット、ライカールトが攻撃を担い、守備陣にはバレージ、コスタクルタ、マルディーニ等、シーズン最少失点記録を達成した「カテナチオ」の面子が登場。
ユベントスは、往年のファンタジスタ、ロベルト・バッジオがシーナのライバルとして登場し、その他にもメラーコーラー、ジュリオ・セザール、ビアリ、さらに、バッジオの後継者、デル・ピエーロパオロ・ソウザまで、ぜ~んぶ実名で登場する。

(出所:3巻 ロベルト・バッジオはキックフォームも同じ)

そして、当時のセリエAは、中堅~下位チームにも、少なくとも一人か二人はめちゃくちゃ凄い選手が混ざっていたりして、例えばフリーキックだけでハットトリックを決めたりする(←現実の話)ド変態ゴールハンター、ラツィオのシニョーリや、パルマの点取り屋で、あのマラドーナから薫陶を受け、その後移籍したチェルシーでは未だに伝説扱いのゾラまでも作中に登場し、シーナと熱戦を繰り広げる。

ここまで読んで、サッカーが好きでもない人はぽか~んだろうが、私を含めたサッカー好きは、そんなスーパースター達のなかにいつか日本人が混ざってプレーすることを妄想しながら、この『VIVA CALCIO』を貪り読んでいたはずだ。

実は最近Kindle版がでて、久しぶりに読んで見たら当時を思い出し胸熱くなったから今回紹介した。セリエAに興味がある方や本田選手のファンの方は、是非読んでみてほしい!

なお、作中にも存分に描かれているが、当時からセリエAには強豪と呼ばれる3チーム(ミラン、ユベントス、インテル)があり、それぞれのユニフォームが、赤黒、白黒、青黒の縞々というなんとも調和がとれたデザインなのだ。この当時世界最強の三つ巴は、なんともロマンティックな雰囲気を醸し出していた。

(左から、1993年当時のミラン、ユベントス、インテルのユニフォーム)

今やワールドサッカーの中心は、完全にスペイン、イングランド、ドイツに移ってしまった。しかし、私を含め当時のセリエAの雰囲気を感じた人達は、今もそれを宝物のように心にしまってあるのだろう。その宝物はこの作品を読むことでいつでも取り出すことができる。

このレビューのエンディングとしてこの曲を捧げたい。
この曲、実は当時WOWOWで放送されていた『スーパーサッカーセリエA』のエンディングテーマだ。エンディングではいつもその週のスーパーゴール・ダイジェストが流されていたが、セリエAの規格外のゴールシーンを見た時の衝撃がこの曲とともに蘇ってくること間違いない。

実は、主人公シーナな所属しているフィオレンティーナの主力メンバー(の現物)が、1995年に来日し、ガンバ大阪と親善試合している。作中ではシーナの脇役的なポジションを務めるバティストータとルイ・コスタだが、この試合ではルイ・コスタがボールを持つと歓声が起き、ディフェンダーを2、3人引きつけて、防御陣を切り裂きまくる。そして、バティストゥータのヘディングは頭2つ分くらい抜きんでている。私は生でこの試合を観ていたのだが、あまりの世界とのレベルの差に愕然としたことを覚えている。資料性も高い試合と思うので、ぜひ観てほしい。ちなみに日本で初めてのバティゴールもこの試合だ。

 

 

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