素直に生きるのはいつも難しい『逢沢りく』

山中 羽衣2014年11月30日 印刷向け表示
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いつ頃からだろうか?生まれてからしばらくの小さい頃は誰もが泣いて泣いて仕方なかったはずなのに、幼稚園へ行き、学校へと行き、そして働いていくうちに段々と人は社会性を身につけて、我慢を覚える。そんなに簡単には泣かないぞ!がんばらんと!などと根性出そうと生きていくうちに、ついには「考えてることがよくわからない。」だとか「鉄仮面みたい。」なんて言われたりして、逆に傷ついたりする、そんな事態になることが出てきたり...。そう言われて気付いた頃には上手く気持ちを伝えるのがド下手になってたりするもんで、大人になるっていうのは大変難しいことだなと感じるこの頃。

この物語の主人公は"逢沢りく"という中学生の女の子。パパは会社の社長をやっていて、ママは美人で料理上手。みんなから憧れられるような理想的な家族に囲まれて何不自由ない生活をしている。りく"は美少女で周囲からいつもチヤホヤされてきた。彼女の特技は涙を流すこと。本当に悲しいと1mmも思っていないのに適切なタイミングで涙を流すことが出来るのである。不幸なことに、その気持ちのこもってない小手先の言葉や涙で、なぜか周りの人はもらい泣きしたり感動してしまうという環境だったので、本当のりくの気持ちを見抜く人がいなかったので、小手先の涙はいつも効果的に働いた。そうやって本心や本当の感情を見せることなくいつもスマートに人と付き合っていた。

 

そんな平穏な毎日を過ごしていた彼女だったが、ふとしたきっかけで彼女や彼女の母親の苦手としていた大阪の親戚の家へ行く事になる。元々、母親が大阪の品のなさを毛嫌いしたためそれが幼い頃から染み付いていた"りく"は大阪のことなんか大嫌いだったにも関わらず、行く羽目になったのであった。実際、大阪に行くとズカズカと"りく"の領域に踏み込んでくる人達。図々しすぎるクラスメイトや一人になりたいのにずっと傍によって離れない親戚の子供とやりとりするうちに言い返したり悪態をつくなど、段々と、りく"の素の部分が少しだけ出てくるのだ。なんていうか誰にでも合わせられる器用な人っていうのはある面ではとっても不器用な人なんだ。

本作はえんぴつ線で描かれており、なんだか絵柄がとっても柔らかい。そんなに細々と書き込まれずに非常にシンプルな状況描写の中で物語が進んでいく。しかし、なぜだろうか。書き込まれているわけではないにも関わらず、肩の落とし方の角度や眉の傾き方で悲しさが伝わってくるのである。全力疾走してるシーンなども、書き込みの多い絵柄なんかより、よっぽど動きや空間が伝わってきて、なんだか想像力を喚起させられるような余白を、この作品は持っている。そして、作者のほりよしこさん自身が大阪出身なのもあるのだろう、ツッコミのリアルさや暖かみがリアルですっと馴染んでくる。とっても優しい作品なのだ。

誰かに迷惑をかけないように人の顔色を察して行動をしたり、傷ついたりしないように強がったりすると、まあ特に衝突も起きないのだけど何だかムナしい。その相手は、時に家族かもしれないし友人かもしれないし、恋人かもしれない。本作の意地っ張りな"りく"ちゃんが徐々に周囲との関係を作り上げていく様子は読み手に対して向き合うことの勇気を与えてくれるのだ。あー!もう意地を張って上手く出来ないわー!なんて素直になれない人にはぜひこちらの作品をおススメしたいと思います。

逢沢りく 上
作者:ほし よりこ
出版社:文藝春秋
発売日:2014-10-23
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逢沢りく 下
作者:ほし よりこ
出版社:文藝春秋
発売日:2014-10-23
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