「これは何と言う雑誌のマンガですか?」「いいえ、コミティアです。」『コミティア30thクロニクル 第3集』

菊池 健2014年12月04日 印刷向け表示
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コミティア30thクロニクル 第3集
作者:
出版社:双葉社
発売日:2014-11-26
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『コミティア30thクロニクル 第3集』はその名の通り全3集のシリーズで、今年30周年を迎えた同人誌即売会「コミティア」30周年記念刊行物で、第3集で完結します。

コミティア30thクロニクル刊行のごあいさつより抜粋

これまで30年の間にコミティアで発表された同人誌の中で、その歴史を語る上で外せない伝説の傑作・名作から、現在はプロで活躍する作家の初期作品、同人誌の表現の自由さを感じさせる実験作など、幅広い視点に立って選んだアンソロジーの形になります。

このクロニクル第1集については、8月の第1巻販売時に詳しく紹介させていただきました。

そこは、自分の欲しいものを、自分の為だけに作っても、誰にも咎められず、むしろ誰かに届いてしまう世界。 

今回は第3集販売とシリーズ完結を記念して、締めの第3集のレビューをさせていただきます。


何十万分の60という珠玉の作品たち

今回、第3集には、各所で活躍するプロ作家をはじめ、20人が寄稿しています。正直、全部面白くてどれを紹介するか悩ましすぎるので、熟考の結果、最初と真ん中と最後という身も蓋もない選び方で3作を紹介させていただきます。

トップバッターは、『コミックビーム』などでも連載中のベテラン、山川直人さんの『ひとりあるき』です。

所謂漫画家マンガで、漫画家志望者同士で付き合って、男のほうのまんが道が上手くいかなくなり、彼女と最後どうにかなるという、ユニークな作風の山川先生にしては、一見コテコテのお話です。


[引用: コミティア30thクロニクル 第3集 12-13p]

しかし、さすが第3集のトップバッターに選ばれる作品です。展開、ストーリーとも、漫画家同士恋愛ものとしては、むしろこれ以上ない位王道な内容で、何も特異なところはないですが、見事にスルスルと読ませるのです。

恐らくこれは、構成やコマワリ、演出や絵と吹き出しの適度な密度など、プロとしてしっかりと作られた作品で、とはいえ創作同人の良さも適う度に入り、素晴らしく調和のとれた作品なのだと思います。まずは、切り込み隊長の1作品として、快調な滑り出しです。

ずっと面白い作品が続きますが、中盤ど真ん中でで目を引くのが、なかせよしみさんの『dicot(双葉)』です。主人公の北村くんが、歯医者で出会った岡崎さんは、頭の上に大きな双葉が生えています。この双葉は、どうやら北村君にしか見えない模様。そして、この岡崎さんの感情をいつも表しています。

[引用: コミティア30thクロニクル 第3集 284p]

彼女に興味を持った北村君の行動から、2人の関係はどんどん進んでいくのですが、その様子がかわいいのですね。オチもまた、とっても嬉しくなるお話です。

最後を飾るのが、大塚まひろさんの『COMITIAで逢いましょう』なんと、全集の最後にして、即売会に出されたマンガではなく、COMITIAの開催を支えるボランティアスタッフの募集マンガなのです。

[引用: コミティア30thクロニクル 第3集 641p]

なんでしょうか、完成度の高いこのマンガは、確かにCOMITIAが、参加する人にどう楽しいものなのか、短いページでたっぷり教えてくれます。「コミケじゃないよ、コミティアなんだけどね。」という説明のあとに、一般の方に1次創作の概念を説明するのが大変だというのは、私も良く良く判ります(笑)


本当に全ページに渡って、マンガとしての面白さ、好きなものを描く描き手の至福を感じられる逸品ぞろいです。やはり、コミティアの父である代表中村さんのセレクションは鉄板です。

コミティアに一度でも行ったことがあるなら、これは是非ご覧ください。また、コミティアは、新人漫画家や出版社の方々にも注目されていて、どんどん新しい層が見に来ている、現在拡張中の場でもあります。(私も、通い始めたのは、ここ3-4年の話です。)

設立のいきさつから、コミティアに流れる独特の文脈や空気感など、なかなか全容が捉えにくいものですが、クロニクル全3集を購入して、隅から隅まで読むと、おおよその概念や、参加者や関係者の色んなことが判るようになるかなと思いました。私も、かなり勉強になりました。


コミティアが担う、新人漫画家の揺り籠機能

このクロニクルについては前回しっかり書いたので、今回は漫画家支援のトキワ荘PJとして少し。

コミティアは、マンガを描いて人に見てもらう事が好きな描き手が、一生マンガを描き続けられる豊穣なる「コミュニティ」です。あまりの楽しさに、その中毒性はかなり強く、とにかく毎回コミティアに出展してマンガを描く事を最優先事項としているプロ漫画家志望者が、結構いたりします。

そして、もう一つの側面として、プロ作家になりたい新人漫画家の揺り籠としての機能があります。これまでずっと、商業漫画誌の編集部が、自分たちの誌面で描いてもらうための、埋もれた才能を発掘する場として、コミティアは機能してきました。

代表的なアプローチは2つあります。一つは、サークルとして出展している作家に、編集者が個別に作品・作家を見に行き、気に入った人がいればその場でスカウトするというものです。

実は、この形で多くの人がデビューしています。コミティアに限らず、コミケや他の同人誌即売会、最近ではpixivのようなサイトでもこの形のデビューは珍しくないです。正に狩り場です。

もう一つが出張編集部です。通常、新人漫画家が自分から編集部に自分の作品をアピールする方法は2つで、直接出版社に作品を持って行く「持ち込み」と、新人賞などに作品を送る「投稿」です。それぞれ、一長一短あります。

出張編集部とは以下のようなものでです。(写真は、トキワ荘PJが主催する、マンガ出張編集部@京都国際マンガ・アニメフェア)

コミティアでは毎回数十編集部がビックサイトまで出張して出展し、ここに作品を持ち込みに来る新人作家が数百人単位で参加します。

もちろん、会場で持ち込まないでも、別の日に出版社に自分で行けば持ち込みは出来るのですが、例えばこのイベントの為に地方から出てくるような人が、短時間で複数の編集部に回れるなど、メリットも沢山あります。また、出版社の編集部からしても、多くの作家が作品を持って出展をするコミティアに出張すると、沢山の作品を見ることが出来るため、双方にとってメリットのある形です。こちらは、狩場に対して、定置網の趣でしょうか。

これらの仕組みは、多くの新人作家と編集部の出会いを生み、マンガ文化発展に寄与しています。トキワ荘PJ調べ(『漫画家白書』)によると、実にプロ作家の1/4が、何らかの形で、このコミティアなどでスカウトされるなどでデビューしていることが判りました。

新人漫画家にとって、月刊誌連載にあたる、「月に一本作品を作る」ということは、基礎体力のようなものです。コミティアが楽しすぎて、コミティアの為だけに3か月に一本作品を作るという事に、体や生活が慣れてしまうと、これはこれで、プロ志望の新人作家にとっては大変危険なものでもあります。新人作家なら、まずは「月に一本作品を作る」基礎体力作りを怠らぬよう、気をつけましょう。

作品にも作家にも、様々な楽しさや、大切な出会い、貴重なきっかけをくれるコミティアです。マンガ好きを自認するのであれば、是非一度遊びに行きましょう。次回開催は2015年2月1日(日)です!

いつもコミティアに来てらっしゃる方は、またお会いしましょう。まだ来たことない方で、マンガ好きを自認する方、コミケ同様コミティアも是非一度足を運んでみてください^^

コミティア30thクロニクル 第1集
作者:
出版社:双葉社
発売日:2014-05-14
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コミティア30thクロニクル 第2集
作者:
出版社:双葉社
発売日:2014-09-03
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- おまけ -
コミティアクロニクル、めっちゃ分厚いです。

これがお肉なら、チョモランマ級ですね。

また、カバー下にもかなりのこだわりが!

写真だと少し小さいですが、歴代ティアズマガジン(毎回開催時に発刊されるパンフレット)の表紙が装丁されています。これは強いこだわりがみられますが、つくるの大変だったでしょうねぇ。。。第3集の中には、丁度第100回記念開催時のパンフレットも入っています。

細かい仕事が随所に見られるクロニクルです。作るの、大変だったろうけども、楽しかったでしょうねぇ~^^ と、最近本を出したばかりの私も思ったりしました。

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出版社:中央公論新社
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