12月のこれから売る本-トーハン 吉村博光

吉村 博光2014年12月21日 印刷向け表示
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作家の故丸谷才一さんは、書評を書くとき「最初の3行で読む気にさせる」ことを目指したそうです。私のものはまだ書評という芸域に達してませんが、ついつい皆さまに「読んでいただく」ことを忘れ、冒頭部分をダラダラと書いてしまいます。

先日亡くなられた高倉健さんの手記の言葉が、胸に響きました。「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」私はこのコーナーの原稿を書くとき、まず最初に10冊の本を列挙するところから始めます。暫くの間その本に接し、徐々にテーマとメッセージを絞り込み、最終的に4冊に絞っています。

到達点は今目指しているところと変わるかもしれませんし、到達せぬまま人生を終えるかもしれません。でもむしろそれこそが、人の定めなのかもしれません。自分も環境も移ろいゆくものなのですから。大切なのは「往く道は精進」のところ。生きる姿勢だけは“変えない”ということなのでしょう。今月のテーマは、移ろいゆく「自分と環境」です。

女子学生、渡辺京二に会いに行く (文春文庫)
作者:渡辺 京二
出版社:文藝春秋
発売日:2014-12-04
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本書は、津田塾大学の学生が、現代最高の歴史学者に様々な問いをなげかける問答集です。渡辺京二氏は、古き良き日本社会の素晴らしさを伝えファンが多い名著『逝きし世の面影』の著者。子育てなど答えが出ない問いが多いので、問「答」というよりセッションと言ったほうが適切なのかもしれません。この本で味わいたいのは、今を生きる学生が「逝きし世」の歴史家に問うという秀逸な舞台設定によって醸し出される空気感だと思います。酸いも甘いも噛み分けた長老が、盃を傾けながら若者の問いに答えている印象で、肩の力が抜ける感じ、自分を承認される感じがあります。

それにしても、本書に出てくる学生たちは優秀だなぁ思いました。私が学生の頃、考えていなかったようなことを考えているのです。ただ、「忸怩たる」とか「老獪」という言葉を学生が辞書で引く場面がでてきて、ホッとするやら驚くやら。語彙力が落ちているのか、辞書が身近になっただけなのか、要するにすべて社会環境の変化によるものなんだろうと思いなおしました。本書のやりとりから約3年半。この学生さんたちが今どうされているのか、すっごく気になります。

「自分メディア」はこう作る! 大人気ブログの超戦略的運営記
作者:ちきりん
出版社:文藝春秋
発売日:2014-11-22
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ちきりんの本が良く売れているのは知っていましたが、読んだことがありませんでした。よくあるアルファブロガーの本だと思っていたのです。バッと売れてしぼんでいくそれらの本や人を見ていて、なんだか疲れるなぁと思っていました。でも、ちきりんには全然廃れる兆候がありません。だから、そろそろ何か読んでみようと思っていたところに、本書が出ました。書名から、廃れない理由がわかりそうな気がしたのです。

ちきりんが考えてることって、おもしろーい!これが感想です。本人も言うとおり、タイミングが良かったというのもあるのでしょうが、冷静に見極めてるなぁ、賢いなぁという印象を受けました。上から目線な評価ですが、ブログ本の読者(私)なんて大体そんなものなのではないでしょうか。ブログ本を書いているのは偉い作家先生ではないのです。ちきりんが本書の読者として想定しているのは、私のように初めて「ちきりん」を読む、上から目線の読者です。その私が、結局ちきりんの日記を読むようになったのですから。皆さんも、ぜひ読んでみてください。そんじゃーね。

「ちきりんの日記」(ブログ)の想定読者として“資本主義を信じている人”という項目があり、私は「ハッ」としました。ゼロ成長だったり、原発の問題があったり、格差の問題があったり、時代の転換点にあるのは明らかだと思います。では、資本主義にかわる新しい仕組みがあるのかと問われると、私は思いつきません。たどり着くのは、「これまでとは違う資本主義」かなという程度なのです。

この『商品を売るな』は、マーケティングの本です。この分野で行きづまっているのは、商品情報を標的顧客に伝えて(アウトバウンド)売る手法です。例えば新聞が読まれなくなり、広告の効果が薄れてきています。webの世界でも、バナー広告に人々の視線が注がれることが少なくなってきました。ではどうすれば良いのか。それは消費者の求める情報を、まず届けることです。そして信用を勝ち取り、お客様になっていただくということなのです。

例えば、まず自社サイトに消費者の悩みを解決するコンテンツを掲載するのです。そして待つ。その情報を必要としている人は、ここにたどり着き(インバウンド)見込み客になるのです。しかも信用を勝ち取ることで、自社がオピニオンリーダーになることさえできるのです。一つの商品を売るよりも、大きなメリットがあるのです。でもこれ、手法が変わるだけで、ベースとなるのは資本主義でしょう。

日本人のためのピケティ入門: 60分でわかる『21世紀の資本』のポイント
作者:池田 信夫
出版社:東洋経済新報社
発売日:2014-12-12
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その資本主義の常識に、歴史的な一石を投じたのが経済学者・ピケティです。700ページ以上ある『21世紀の資本』という翻訳本が、大変よく売れています。私は経済学の予備知識が乏しいので、翻訳本ではなくこの本を読ませていただくことにしました。読み終えた私は「ピケティって面白いよ!」とすぐに妻にメールを送りました。この本は、そういう本です。いま話題のピケティについて、少しわかったようなものを言えるようになるのです。格差をいかに防ぐか、というところでグローバルな累進資本課税と金融情報の共有が掲げられていたのもヒザを打ちました。しかし、経済学に疎い私が面白いと思ったのが、教育が資本の再分配にもたらす影響に関する部分でした。

ピケティの考え方を説明するのになぜ700ページも必要なのか、ということまで説明されていますので「お金と時間をかけてそれを読むかどうか」を判断するのに、読んで損はないと思います。しかも、タイトルに「日本人のための」とあるように、じゃあ日本の状況はどうなの?という興味深い点に触れられています。やはり、読んでいるとどうしても、そこにグイグイ引き込まれてしまいます。もっとも、それはあくまで本書『日本人のためのピケティ入門』の著者の見解であるという点は、忘れてはならないと思いますが。


「資本主義の発展の過程で所得分配は平等化する」という常識を覆し、格差が広がる欠陥があることを10年かけて示したピケティの功績は非常に大きいです。これにより多くの人の物の見方が変わり、社会システムが変化するでしょう。時の流れによって、環境が変わり、そしてやがて自分も変わっていくのです。「往く道は精進」を貫き、私も変わり続けていこうと思っています。「最も強い者が生き残るのではなく、 最も賢い者が生き延びるでもない。 唯一生き残るのは、変化できる者である」ダーウィンのこの言葉を座右のものとして

吉村博光 トーハン勤務
夢はダービー馬の馬主。海外事業部勤務後、13年間オンライン書店e-honの業務を担当。現在は本屋さんに仕掛け販売の提案をする「ほんをうえるプロジェクト」に従事。ほんをうえるプロジェクト TEL:03-3266-9582
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