教科書を越えた興奮が今ここに 『コミック 証明の探求 高校編!』

山田 義久2014年12月25日 印刷向け表示
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コミック 証明の探究 高校編!
作者:日比孝之
出版社:大阪大学出版会
発売日:2014-12-12
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 このマンガ、本家HONZの記事で紹介されていたものだ。一見マジメな数学の啓蒙マンガか、、と思ったら、出版元である大阪大学出版会の言動になにやら狂気を感じたので、、、自分でも読んでみた。

結論は、買いだ。
特に中学生くらいのお子さんがいる方は、このマンガをさりげなくダイニングテーブルに置いてみよう。もし、小学生であれば、自分が読んで、内容を噛み砕いて話しながら親子で楽しむのもいい。
「この本を読めば、いきなり数学大好き人間になる」とは言わない。
しかし、たとえ一瞬であっても、数学の奥行きを体感できるチャンスだ。恐らく、その一瞬の感動の有無が人生の方向性を大きく変えていくと私は信じている。

扱われる題材もトーナメント・リーグ戦、あみだくじ等、我々の身近なものばかり。高校生達の甘い恋愛ストーリーにのせて、それらの題材がどう数学的に解釈できるか、もっというと、本書の主題である「証明」により、いかにエレガントに解き明かせられるかが、分かりやすく描かれている。解説も数式をぼん!と載せて終わりでなく、言葉による丁寧な説明が中心あり、文系の方でも十分理解できる。

そもそもこの作品は、大阪大学教授である日比孝之さんの著書『証明の探求』を分かりやすく漫画化したものである。

証明の探究 (共通教育シリーズ)
作者:日比 孝之
出版社:大阪大学出版会
発売日:2011-04-04
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 日比さんがこれらの作品に込めた想いは明確で、このようなものだ。

数学は人類が創造した文化的無形遺産である。その遺産のなかでも、誰にでもその原理を理解することができ、しかも数学の理論を築くための骨格なるのが、「背理法」と「数学的帰納法」である。よって、万人が享受すべきものある。そして、数学の面白さとは「背理法」や「数学的帰納法」を駆使する「証明」にこそ凝縮されている。

「背理法」、「数学的帰納法」などは専門用語がでてきたが、本書を丁寧に読み進めると、例えば「背理法」の定義などは、小学生でも理解できる内容であることが分かる。そして、数学の楽しさが「証明」に凝縮されているという日比さんの主張を自然に体感できるつくりになっている。

(小学生にも分かる背理法の定義 出所:第二話)
 

ストーリーの紹介に戻ろう。
舞台は桜灘高等学校という進学校。時は高校2年の二学期、つまり受験シーズンがゆっくり始まる頃。
主人公は、父親が医者で自身も医学部志望、自称”心臓マニア”ながら成績トップの朝霧慶太。そして、父が小説化、母が国語教師という超文系家庭で育ちながら、国語が苦手で中学受験に失敗、その反動(?)から数学マニアになったという島崎葉子。そして、他の生徒からもアイドル的な人気を誇り、いわゆる女子力が高い系の美少女、氷室沙織

(左が朝霧、右が島崎。終始甘い会話してる 出所:第1話)

(氷室。進学校は取り巻きも違う 出所:第1話)

この女性二人の間で、朝霧が揺れ動くという超絶分かりやすい構図だ。
ストーリーは、学園恋愛ものとして進んでいく。秀才の二人、朝霧と島崎がお互いを意識し始めるところからはじまり、やれ偶然一緒に帰るとか帰らないで、ほのぼの、、やれ電車で体が少し触れたとか触れないで、ほのぼの、、、と、正直恋愛パートはどこの精進料理やねん!ってツッコミたくなるくらい薄味で進んでいく。

 

(昭和なリアクションがほほえましい 出所:第1話)

 しかし!朝霧が参加する体育祭の相撲大会観戦が終わり、総括として「トーナメント戦・総当たり戦の組み合わせ」等の数学ワードが飛び交い始めるや否や、いきなり分量間違えた四川料理かってくらい味付けががらっと変わる。

数学パート解説のキーマンは、非常勤講師の東柳外郎。博士号も持つ彼は、成人病まっしぐらの体型をふるわせながら、授業を通じて数学の面白さも伝えようする熱意がある(おそらく日比さんの若い頃がモデルだろう)。

(非常勤講師の東柳。大学で働きたい 出所:第1話)

そして、相撲大会の総当たり戦を題材に次の様な例題を出す。

 

(体育祭ネタと見せかけて、京大の入試問題  出所:第2話)

解説も図と言葉、そして最小限の数式のバランスがよく、先生と生徒の対話形式なのでヒントも多い。さらっと読めば理解、、とはならないが、きちんと文字を追ってじっくり読み砕けばきちんと理解できる内容になっている。

(数学オタクがいいインスピレーションを披露 出所:第2話)

 そして、取り上げられる問題は京都大学等、有名国立大学の入試問題をベースに作られており、国立大学の入試問題であろうと、筋道立ててきちんと考えれば、割と普通に解けることがしめされる。つまり読者は本書を読みながら、「オレも有名国立大学の入試問題を解けるやん!」という自信も得られるという巧みな仕組みになっている。

(各話の最後に取り上げた問題の詳説がある 出所:第2話)

 そして数学パートがひと段落したら、また甘~い学園恋愛パートに戻る。自分の名前と朝霧、そしてライバルの名前を書いた恋のあみだくじ。こんな昭和なことする人はもう絶滅危惧種ちゃうかとツッコミたいのをぐっとこらえて、読み進めていく。。。

 

(2014年の話です 出所:第3話)

すると、さすが数学オタクを自認する島崎、発想が違う。「なぜ、あみだくじの各スタートは、同じゴールに到達せずうまく別々のゴールに着くのか。その理由を証明できないか」。そこから話は、どないなハンドルの切り方するねん!ってくらいヘアピンカーブを曲がって、また数学パートに再突入する。

しかし、教科書にはあみだくじの証明に参考になるものなどない。そこで島崎は向かった本屋で『証明の探求』に出会い、著者の日比孝之さんにメールを取り、直接話す機会を得て「数学とは何か」、「(受験勉強を越えた)数学の楽しさとは何か」について薫陶を受ける。そして、自分の進路、数学者の道を決めていく。

(数学の面白さと本質を伝えようとする日比教授 出所:第3話)

ちなみに、あみだくじについては、数学的帰納法を使うことで、たいして数式も使わず証明できるのだが、詳しくは本書を見てほしい。

このように恋、数学という両極端をスイングしながら、話は進んでいく。
そして、クライマックスはクリスマスコンサート。誰が誰と行くかの葛藤が繰り広げられ、3人の恋の行方は、どうなるか、、と、このような話である(ちなみにコンサートの席順がその後証明問題になるのだが)。

学生、というより子供が、何か学問やスポーツに没頭するきっかけには、頭をハンマーでたたかれるような強烈な感動体験があることが多いが、この作品はそんな体験を与えるきっかけになる可能性があると思う。もちろん数学に対する感動であるが。

そんな感動を跳び箱に例えるならば、『証明の探求』は踏切板、そしてこの『コミック 証明の探求 高校編』は、その踏切板に到達するためのもう一つの踏切板、という感じだ。まぁ、もともと数学が好きな人はすっ飛ばして『証明の探求』から入ってもいいかな、という気もする。

しかし、この本を売りだそうとしている大阪大学出版会、日比教授をはじめとする大阪大学の関係者の並々ならぬ熱意、というか狂気は覚えておいてほしい!
本家の記事で紹介されている通り、販促企画としてテーマソング「恋の証明」が作られている。作詞は日比さんで、曲も歌もみんな大阪大学の(元)学生達が関わっているようだ。出版業界のミュージックシーンを変える!(?)と意気込まれているとのことなので、私も聴いてみたところ、度肝抜かれた。

例えば、この斬新な歌詞の一部を見てほしい!

・彼とわたしの間の距離は 直角三角形の斜辺かも

・微分(ちょっぴりわかった)だけなのに 積分(わかったつもり)のわたしです

直角三角形の斜辺???彼とわたしはどっかの円周上に中心を挟んで立っているのだろうか?二行目なんて注釈なければ、「びぶんだけなのに、せきぶんのわたしです」と、ぽかーんだ。How to prove love、、そもそもprove(証明する)されるのを待ってからloveするなんて、いろいろ後手に回って大変じゃないだろうか?と心配になる。音楽についても・・・う~ん、絶対この曲つくった中心人物のなかに何人か童te、、いや、とても純粋な心の持ち主が混ざってることが隠れてないぞ!いろんな意味で頑張ってほしい!

学生を焚きつけて色んな挑戦をする大阪大学出版会から今後も目が離せない。またマンガでぶっ飛んだ作品を上梓したら、私がレビュー書きたいと思う。というか、この作品、「高校編」ということは、中学編か大学編があることのフリなのだろう。調べたところこんなおもしろそうな本も出していたので、早速買ってみた。

実況・料理生物学 (阪大リーブル030)
作者:小倉明彦
出版社:大阪大学出版会
発売日:2011-10-14
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
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