愛があればわかりあえる? わかりあえないことから始まるBL『夜はともだち』

ひらりさ2015年01月08日 印刷向け表示
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新年あけましておめでとうございます。
年末年始、みなさんは何をして過ごされましたか?

わたしが今年やってみて楽しかったのが、腐女子どうしでの「このBLに萌えた!」Skypeでした。

これは、腐女子がそれぞれ自分のベストBLを何冊か用意しておき、ビデオ通話で本を見せながら紹介するものです。いろいろ読んでいると自分では思っていたつもりでもスルーしていた作品をいくつもおすすめされ、 大変な収穫でした。

そのなかで他のメンバーから紹介され、「これはぜひとも2015年一発めに紹介したい!」と 思ったのが、井戸ぎほうさんの『夜はともだち』です。

夜はともだち (POE BACKS Babyコミックス)
作者:井戸ぎほう
出版社:ふゅーじょんぷろだくと
発売日:2014-11-22
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なにやらおどろおどろしげな表紙ですが、別にオカルトでもファンタジーでもありません。

表紙の男の子の名前は飛田くん。人付き合いの悪い、ちょっと無口な大学生です。

浮いてはいるものの、一見どこにでもいる男子大学生に見える彼ですが、じつは「真性ドMのゲイ」であり、 同性から精神的・肉体的にいたぶられないと気持ちよくなれないという性質の持ち主。 もちろんそんなことは大学では隠しているのですが、SM関係にあった元カレとの言い争いを 見てしまったのが、飛田くんの同級生の真澄。

友達も多い、いわゆる「リア充」な人間でありながら、つねづねミステリアスな飛田くんのことが気になっていた真澄は、好奇心から、飛田くんのSM趣味につきあいたいと言い出します。


『夜はともだち』43Pより

最初はものなれない「SMごっこ」を楽しんでいた真澄ですが、別に真性のSではない真澄は、 だんだんと飛田くんを傷つけることや、「SM」以外での交流を許されないこと、飛田くんの下の名前を呼ぶと プレイ終了になってしまうこと、などなどにフラストレーションをつのらせていきます。
そう、真澄は飛田くんのことを人間として好きになってしまったのです。
一体2人の関係はどうなる……? というのが『夜はともだち』の内容。

私はSMや女装など「特殊性癖もの」のBLは萌え的な観点からはかなり好きなのですが、 書店で、表紙やカバー裏のあらすじを見た時点では、『夜はともだち』には食指が動きませんでした。 というのも、「愛があればわかりあえる」「愛は他人を変えられる」というファンタジーに 辟易しており、『夜はともだち』も「愛にいやされて、SMにすがらなくてもよくなる」系の作品だと勘違いしていたからです。

BLでは、性癖にかぎらず、“AがBにあわせてるんだけど、次第に苦痛になってきて、結局「愛し合ってるんだから、Bがこだわってたことにこだわらないでも、実は楽しかったんだね」と気づいてハッピー”というストーリーの作品が結構見受けられます。それはそれで萌えるのですが、なんとなくもやもやしていた自分がいました。

というのも、結局それらは「愛のため、わかりあうために“自分の一部分”や”こだわり”を犠牲にする」話だったからです。 もちろん、他者とわかりあうために一歩ふみだす、その行為こそは素晴らしいことだと思います。

 
『夜はともだち』98Pより

しかし、他者とわかりあうこと、他者と愛しあうことの前には、自分の一部分やこだわりは、妥協させられないといけないものなのだろうか? 

また、真実の愛は、それらに代わって心の渇きを完璧に癒せるものなのだろうか? 

っていうか、そうした自分の一部分やこだわりは、いずれ訪れる真実の愛のための代替品にすぎなかったのだろうか? 

 
『夜はともだち』154Pより

そうした問いに対して、『夜はともだち』は、「最後までわかりあえないけど、でも愛してる」というあり方が可能であることを提示してくれました。

真澄くんは飛田くんを愛しますが、別に飛田くんは愛されていなかったから「真性Mのゲイ」になったわけではありません。だから飛田くんは真澄くんの愛にとまどうし、真澄くんに誘われて水族館デートをしてみるけれどまったく楽しいと思えません。その楽しんでない飛田くんに気づいた真澄くんは結果飛田くんに八つ当たりをしてしまうのですが、それでもむしろ自分こそが「飛田くんを変えられるかもしれない」と思ったことを羞恥します。そう、他者を愛で変えられる、愛があればわかりあえる、なんていうのは傲慢なことなのです。

たしかに、BLというジャンル自体、「わかりあう」ことへのファンタジーとしての側面があるのは事実です。 同性同士というフォーマットは、異性同士では「わかりあえない」部分を無視するためにも機能しているでしょう。

では「わかりあえない」2人はもうそこで終わりなのでしょうか?

「わかりあう」ために、何かを犠牲にすることが、しあわせなのでしょうか?

それはぜひ『夜はともだち』のラストで確認してください。
真澄くんと飛田くん、2人が見せてくれる「わかりあえないことから」の美学をどうか堪能されますように。

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