“土人”の土産か『アートにとって価値とは何か』

新井 文月2015年01月07日 印刷向け表示
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アートにとって価値とは何か
作者:三潴 末雄
出版社:幻冬舎
発売日:2014-09-19
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パリでいうならルーブルやオルセー、
ニューヨークであればメトロポリタンやMoMA、グッゲンハイム

といった各都市にはこれだ!という代表的美術館がある。

対して日本には「これが日本の美術館だ!」と言えるようなものが無いような気もする。英国データ(The Art Nespapaer:2013.3.28)によると美術館の動員数世界1位は38万点以上のコレクションを所蔵するルーブル美術館がトップで、年間約1000万の入場者が訪れる。ルーブルの入場料は16ユーロなので日本円だと2015年1月では約1703円。トップ10のうちアジアは唯一、台北の故宮博物院がランクインしており、所蔵数は約70万点。他は英国・米国・バチカン・フランスの国でトップは占められている。

欧米の文脈に沿うアートの定義からすると、実は日本の美術館は常設展が弱い。その反面、東京を筆頭に企画展は充実しており印象派の作品から古代エジプト装飾まで世界中のコレクションを次々と堪能できる。

ただ観光で訪れる外国人に対し、古今東西・日本作家の代表的作品群を揃って見せれるイチオシ美術館がないのは寂しい。

本書はミヅマアートギャラリーのオーナーである三潴末雄氏がアートの価値をテーマにした初の著書である。日本の現代アートの価値をいかに国際化するかをモットーにギャラリーを開き、挑戦してきた経緯が纏められている。ミヅマアートギャラリーは会田誠、山口晃、鴻池朋子といった(近年は天野喜孝も加わった)毒と批評精神に溢れた作家を抱える。これまでのギャラリスト人生と日本の文化問題、さらに突破口を語っており、とにかく刺激的な内容だ。

もはや周知の通りかと思うが、日本をはじめ西洋美術史の文脈に沿わない非欧米圏の芸術表現は「アート」の評価軸には乗らないので別物としか見なされない。実は日本人のアートというのは西洋人にとって「土人の土産」同然の感覚であった。(表現は帯のまま引用)

著者がギャラリストへの道を目指すまでの遷移は実にユニークだ。それは20代の頃、マルクス主義を中心とした学生運動の中心として活動していたことにも起因する。父は音楽をはじめフランス文化全般に精通し、日本への紹介役を担っている人でもあった。著者が出会うアーティストは今でこそ名の知れた作家ばかりだが、当初名もない頃から彼等の作品を購入している姿を見ると先見の明がひときわ際立って見える。とにかく文体が熱いため読んでいる間、終始自分に語りかけているような気さえしてくる。

ところで見逃せない芸術の影響力例として2013年千葉のDIC川村記念美術館の「アンナの光」を売却した件がある。これは同館の目玉ともいうべきアメリカ抽象表現の看板バーネット・ニューマンの作品を売却した件であり、数字を羅列するつもりはないが例にあげてみると、当時の売却価格は103億円であった。譲渡に伴いDIC株式会社は特別利益を計上し、業績予想の上方修正をした。その額は64億円に上り、増減率は35.6%に達したという結果だ。大企業の当期純利益を30%以上も押し上げたのは、たった1枚の絵画である事実は驚きだ。

そういった海外の芸術作品が影響力を増す中、著者が生き抜いた四半世紀は、まさに日本人が日本の美術をどうやったら世界に認めさせることができるのかという歴史を巡る旅にもとれる。「東京はインターナショナルなミュジアムが無い国際都市」とウォールストリートジャーナルで著者が批判していたのも記憶に新しい。

その一方、日本の影響で現れたアートの功績についても見逃せない。著者の主張は以下だ。

明治以後、日本は一方的に西洋の影響を受けていた訳ではなく、19世紀後半のロンドンやパリ万博での出展を通じ浮世絵や琳派の表現がジャポニズムとして西洋美術のメインストリームに決定的な影響を与えていたのは事実だ。印象派やアール・ヌーヴォー表現は日本の美術表現がきっかけで生まれたともいえる。これは長い時間をかけユーラシアの極東でハイブリットされてきた日本美術が世界美術史に還流することで、初めて今あるかたちの現代アートの流れが生まれたと言っても過言ではないのではないか。日本人があまり認識せずにいるこの意義は、もっと強調してもしすぎることはないのではないか。
ちなみに日本の美術梱包と輸送技術は世界でも類を見ないほどの最高峰なので、ここも堂々と誇れる点である。

著者が語る「海外から受容した文化をシャッフルし、国内の土壌に合わせて独自に変容させ、日本的なものにつくり変えてしまう」という、日本人のクリエイティビティは本書に多数紹介されているので、アートに関係の無い人が夢中になって読める内容だ。

国内・海外への販路を展開するため具体的手法も掲載されている。グローバルな活動を目指す人に対して、著者の熱いエネルギーが伝わってくる一冊。

ミヅマアートギャラリー
http://mizuma-art.co.jp/

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