『石油の帝国』国際政治経済を動かす黒幕

久保 洋介2015年01月15日 印刷向け表示
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石油の帝国---エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー
作者:スティーブ コール
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2014-12-19
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世界上位30カ国にひけをとらない財務力をもち、世界200カ国以上でエネルギービジネスを展開する石油最大手エクソンモービル(年間の売上高はタイやシンガポールのGDP以上!)。その強靭な財務力と圧倒的な技術力を駆使し、アメリカの一企業にもかかわらず、独自の外交・政治活動を展開するほどの巨大企業だ。本書は、このアメリカ最大最強企業が世界中で繰り広げる資源獲得競争の舞台裏を余すところなく描き、エクソンモービルという巨大企業の存在をあぶりだす希代のノンフィクションである。

1999年12月1日、石油会社最王手のエクソンが、同じく大手のモービルを吸収合併し、エクソンモービルという世界最大の石油ガス生産会社が誕生した。モービルとの合併は、エクソンを、売上・純利益の面で世界最大規模の会社に押し上げただけでなく、もともと北米とヨーロッパに偏っていた同社の活動範囲を、はるか遠くアフリカ・アジア・中東・南米などへと広げ、国際政治経済に大きな影響力をあたえる企業へと成長させた。まさしく、現代版企業帝国の躍進がはじまった瞬間だった。

合併以降、エクソンモービルは、かつての東インド会社が香辛料や茶を求めて事業展開したように、石油と天然ガスを追い求めて世界中を闊歩するようになる。石油・天然ガスを爆食しつづける現代社会のエネルギー需要を満たすため、ときには独裁体制や暴力的体質の国ともつきあうことを余儀なくされていく。例えばインドネシアでは、ガス需要高まる日本へLNGを供給するため、独立運動や小規模紛争がつづくアチェ州にてガス田開発を行い、ゲリラ軍のような独立派組織や人権侵害いちじるしいインドネシア国軍との折衝も経験することになる。

また、中央アフリカのチャド共和国では、独裁者で私腹を肥やすことに熱心な同国中央政府の協力をえながら、同国南部の油田開発を推進する同社の姿も本書で描かれている。企業帝国たるエクソンモービルにとってみれば、株主の利益を最大化することが最も重要なので、国家とは違い、ときには腐敗大国とも共存共栄をはかっていくことがある。誰になんといわれようと、一企業として、最後はリスクとリターンを比較し、ビジネスの推進を決めていくのだ。チャド共和国のような国では、アメリカ政府以上のプレゼンスと発言力をもって地元政治家と対峙していくも珍しくない(同社従業員の旅程はチャド軍が護衛するほどだ)。

同社がアメリカを本拠地とする企業であっても、アメリカ政府の外交政策とは一線を画すことは多々ある。イラクでは、同国内部の民族対立を悪化させることを懸念するオバマ政権の圧力にも屈することなく、イラクからの独立を目指すクルド地方に入り込み、同地域の油田を開発することを発表した。エクソンモービルは、あらかじめオバマ政権には何も知らせず動いたという。この巨大企業帝国にとっては、石油埋蔵量を確保・開発することが優先で、アメリカ政府との歩調合わせは二の次である。

アメリカ国内では、政府から恩恵を受けることがないよう、あえて補助金は一切受け取らない方針だという。反対に、化学製品規制、外交政策、気候変動問題に至るまで、その潤沢な資金とネットワークを投入し、アメリカ政府を「教育」する方針を打ち出している。一般的なエクソンモービルの投資プロジェクトは四・五十年と長期間にわたるものであるため、長期的に安定した政策・税制が継続するよう議会とホワイトハウスに働きかけるのである。エクソンモービル前社長はこういう、「大統領は次々と変わっても、エクソンモービルはエクソンモービルであり続ける」と。

本書は、ピュリッツァー賞を二度も受賞した著者が、400以上ものインタビュー、現地調査、機密指定解除されたりWikiLeaksに暴露されたりした政府文書、その他多くの資料に目を通してまとめあげられた検証記録である。広く世界政治経済に影響を与えているにもかかわらず、内情が長くベールにつつまれていた巨大企業の姿をあぶりだした希有な一冊として世界中で賞賛を浴びている。

英ファイナンシャルタイムズと米ゴールドマンサックスが毎年主催するビジネス本ランキングでは、全世界的にベストセラーとなった評伝『スティーブ・ジョブズ』、マイケルサンデル教授の『それをお金で買いますか』、『国家はなぜ衰退するのか』、『トレーダーの生理学』などをおさえて、「年間最優秀ビジネス書賞」を受賞した。

エネルギー関係者はもちろん、ぜひ世界史や国際政治経済に興味ある人に読んでもらいたい一冊だ。著者はあえて自分の考えを読者に押し付けるのではなく、事実を淡々と述べて、事実の解釈は読者にゆだねている。国単位で統治される現代の国際政治経済の世界で、世界最大の民間エネルギー会社がどのように振る舞っているのか、かつての東インド会社との違いは何なのか、といった視点で本書を読み進めると興味深いだろう。

なにより、個人的に、本書を書棚に飾ることをぜひオススメしたい。黒地に白色の明朝体で『石油の帝国』と書かれた背表紙は、シンプルだが、骨太で重厚感をかもしだす。本書を飾るだけで、本棚がビシッとしまる感じがするのだ。

本書で紹介されているエクソンモービルの活動地域は、ロシア・イラク・インドネシア・赤道ギニア・ナイジェリアなど、そのほぼ全てが日本へ石油や天然ガスを輸出している国々であり、日本人にとっては興味深い内容である。普段わたしたちが何気なく使っているエネルギーがどのような国や地域から運ばれてくるのか、また、誰がどのように開発しているのか、本書を読んではじめてその全容が明らかになる。

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探求――エネルギーの世紀 上・下2冊セット
作者:ダニエル・ヤーギン
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2012-04-10
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 エネルギー業界の権威であるダニエル・ヤーギンの最新作。エネルギーをとりまく世界情勢を詳細に追う。

石油の世紀―支配者たちの興亡〈上〉
作者:ダニエル ヤーギン
出版社:日本放送出版協会
発売日:1991-04
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  おなじくダニエル・ヤーギン氏の名著。

エネルギー(上)
作者:黒木 亮
出版社:サウンズグッド カンパニー
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  石油ビジネスに取り組む商社マンを題材にした小説。エネルギー担当の元商社マンが書いた本だけあって記載が詳細すぎて話題になった一冊だ。

石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門 (文春新書)
作者:岩瀬 昇
出版社:文藝春秋
発売日:2014-09-19
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  エネルギー版 池上彰のエネルギー入門書。入門書としては最適な一冊だ。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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