「粋」を学ぶなら「師」につくことから始めよう『でしにっき』

菊池 健2015年01月18日 印刷向け表示
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タイトル
作者: 上島カンナ
出版社: comico / NHN PlayArt
発売日:2013-10-13

 好きなことは「粋」にやりたいじゃぁございませんかぁ 

『でしにっき』は、最近アプリ800万ダウンロードが発表された、comicoの連載作品です。

comicoは、無料で読めるスマホ特化型縦スクロールマンガサービスと言う事で、若いユーザーが多いですが『でしにっき』はそんな中で、レアな大人向けマンガのポジションというところでしょうか。

 [引用:comico http://www.comico.jp/『でしにっき』] 
シンプルな線なのに、なんとも艶っぽいところもまた魅力

 

作品のメインは、作者の上島カンナさんが、三味線の中でも「江戸端唄」(えど はうた)というジャンルのお師匠さんについて、三味線を学んでいくというものです。

本人主人公のエッセイマンガですが、コテコテの関西人である上島さんが、江戸っ子の「粋」を学ぶというのが、イチイチ引っかかって面白いです。

[引用:comico http://www.comico.jp/『でしにっき』]
随所に散りばめられるお約束、粋にコテコテです

 

「江戸端唄」のお師匠さんのところに来てるのに、コテコテで対抗するとか、大阪人の深い業を感じます(笑)

弟子の日記だけに、お師匠さんとのやりとりが読みどころです。

勿論、三味線や唄のこともしっかり描かれています。師匠のお家元での日々の稽古から新年会などの催事に出たり、マンガのネタにする前提で、お師匠さんの付き人として、色んなところに出かけるなど。演奏指導でテレビドラマの撮影現場に行ったり、師匠が落語のお囃子をやるところなど、一般人ではなかなか見れられない所ですが、軽いエッセイタッチで、楽しく描かれています。

作品のリードにもあるように、テーマが「師弟関係」と「粋」ということで、そこからの広がりで、沢山の江戸文化(?)周りが出てくるところがまた、私の楽しいポイントです。

「もんじゃ焼き」から「着物道楽」、「文楽」「歌舞伎」などなどに、最新話では「落語」まで。江戸マニアの姉弟子と色んな所に繰り出したり、落語の二つ目さん(見習い)の弟弟子と、落語について話せるところなどは、落語好きな私としては羨ましい限りです。

[引用:comico http://www.comico.jp/『でしにっき』]
姉弟子の衣布子(いぬこ)姐さんの江戸贔屓や着物道楽が半端なくキュートです。

 


マンガ家としての上島カンナさん

マンガ家志望者支援のトキワ荘PJ的には、外せないところが、作者の上島カンナさんの昔の編集者さんや、今の編集者「キタさん」との関係です。

[引用:comico http://www.comico.jp/『でしにっき』]
良い人じゃないですか!良い人じゃないですか!

 

察するに、上島さんはきっと「弟子体質」なのですね。
師に付いて学んでいく事は、今の世の中なかなかありませんが、そんな中で良い師に巡り会い、それを強く必要としつつ、楽しんでもいける志向が強く見られます。師匠もそんな弟子をかわいがります。

一見、マンガのネタかつ、芸の肥やしに江戸端唄を始めているように見えますが、その実、そういうスタイルが合ってないと、実はこういう後付けの習い事を作品に活かすのは難しいものです。流行ってることを薄く追いかけても、そう簡単には身に付きません。

良く、新人漫画家がネタに困った時に「あなたが本当に好きなことを描くべき」と編集者に言われたりします。言われますが、そう改めて言われても、ほとんどの人は困ってしまうものです。しかし、大人になってから始めた江戸端唄を素材に、ここまで面白く描けるのですから、「弟子体質」そのものも芸のうちだなぁと思います。


ちなみに私も「弟子体質」で、小学校の時に落語をやってたころは、同級生の師匠につき、以降学生時代から20年ほどやっていた剣道や拳法でも、師匠につく期間が長かったです。

ここ10年、ベンチャーで働くようになってから師匠成分が足りないなぁと思い、先日もある方に「師匠になって下さい」と強弁したのですが、煙たがられました(笑)師弟関係を作るというのも、難しいもので、上島さんは良いお師匠や兄弟弟子筋をお持ちだと思います。

[引用:comico http://www.comico.jp/『でしにっき』]
気取らないお師匠さんですが、締める所は締めて、カッコ良いのです。

 

新世代Webマンガと団塊の世代の相性

そう言えば、私のマンガの師匠は父でした。

父はマンガ家志望者だったこともあり、とにかくマンガ雑誌を家に買って帰りました。
おかげで私は、小学校低学年のころから、『ビッグコミック』系全誌と『リイドコミック』、『アクション』などなど、その辺りの大人向けなマンガ雑誌を端から全部読んでいました。『ジャンプ』を読み出したのは、それらの雑誌に触れた後だったくらいです。

そんな団塊の世代の父が、最近はマンガを読んでいません。

曰く「最近のマンガは読むと疲れるから面倒くさくて」とのこと。最近のマンガは、内容の濃さや作画のレベルがなどの密度が上がっていることは確かで、嗜む為にもエネルギーが必要になってしまったということでしょうか。一方で、歳を重ねた大人は、遊びに大きなエネルギーをつぎ込むことも、なかなか難しくなってきます。多分これは、我が家の中だけのことでもないのでしょう。

『でしにっき』を読んだ時に、一番最初にシェアして感想を聞いてみたくなったのは父でした。一応了承の元、ここにコメントを転載します。

「粋」という素材をズバリ表現しており、小気味良い面白さがある。なんだかこの作者に果てしない すごーいポテンシャルを感じた。作風にも上昇機運の漫画家としてのセンスを感じる。

こんなテーマでこんなタッチで 軽いノリでこの世界を描いて見たかった。何よりもこのペンタッチ、絵が好きなのかも・・・。 

父親が息子に出したメールですもので、上から目線ですいません。一人の団塊世代の意見として聞いてくださいませ。


さておき。
Webやアプリのコミックも、定着化してきていますが、 今の所スマホ中心のこの界隈は基本的に若いユーザーが大勢を占めています。

そのため、comicoも若者プロトコルな作品が多いですが、この『でしにっき』は、マンガから離れて行ってしまった、団塊の世代にも、どうやら刺さる新しい形であったようです。

スマホ縦スクロールは、表現がシンプルになる方向で制約されますが、それが良い方向に作用しているように思います。最新の環境は、昔のマンガの良い所への先祖がえりを促したのかも知れません。

幸いcomicoは、スマホがなくてもPCでも読めます。しかも無料。

マンガ好きのみなさん、もし最近マンガを読まなくなってしまった、父母叔父叔母伯父伯母祖母祖父親戚縁者などいらっしゃいましたら、以下のURLを、PCなりスマホのメールに投込んでみましょう。

もしかしたら、またマンガを読んでくれるかもしれません。もしかしたらまた、世代を超えてマンガの話が出来るかも知れません。

『でしにっき』
http://www.comico.jp/detail.nhn?titleNo=13&articleNo=1

ちなみに、久々のメールだからと言って、くれぐれも余計なひと言は挟まない方が良いかもしれません。
私はいま、このメールに書いた余計なひと言のおかげで、田舎の墓をどうするかというやり取りに移行してしまい、返事が出来ないでいます(笑)

  

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上島カンナさんの前作、もう一つの「江戸端唄」もの、『おっしょさん』や、現在comicoのチャレンジ作品に掲載中の『アテンド』など、以下のご本人様のBlogから辿れます。

+カンナ
http://k-kanna.com/

この1週間ほど私も、上島ワールドどっぷりなのですが、何かこうおだやかで、豊かに楽しくさせてくれる作家さんだと思います。


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先日のレビューで紹介させていただいた、『咲くは江戸にもその素質』『ネト充のすすめ』他、4つの作品が単行本化決定しましたね。

comico、『ネト充のススメ』など人気の4作品をKADOKAWAから発売 - ITmedia eBook USER http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1412/05/news024.html

まだ、amazonの画面でも表紙画像はこれからですが、しかし、また単行本発刊出版社を変えてきたあたり、マンガ出版業界界隈では話題になっています。

咲くは江戸にもその素質 1 (B's-LOG COMICS)
作者:沙嶋カタナ
出版社:KADOKAWA/エンターブレイン
発売日:2015-02-14
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ネト充のススメ 1 (MFC comicoシリーズ)
作者:黒曜燐
出版社:KADOKAWA/メディアファクトリー
発売日:2015-02-14
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