これぞ機上の空論か!『ビックリ飛行機でゆく世界紀行』

内藤 順2015年01月21日 印刷向け表示
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ビックリ飛行機でゆく世界紀行
作者:チャーリィ古庄
出版社:イカロス出版
発売日:2015-01-10
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一般的に「手段の目的化」という言葉が、良い意味で使われることはあまり多くない。まず目的ありきで、それを実現するために手段がある。逆になってしまうと目的が形骸化し、本質的ではなくなるという声もよく耳にすることだろう。

ところが、である。これが趣味の話となると、事情は異なるのだ。むしろ「手段の目的化」にこそ、マニアの真髄が隠されていると言えるだろう。何か特定の目的のためではなく「ただ好きだから本を読む」とか、いっそのこと「ただ楽しいから人生を生きる」とか言い切ってみると、ちょっとしたポエムも出来上がる。

本書の著者、チャーリィ古庄氏も、そんな「手段の目的化」を極めた人物である。飛行機という交通手段そのものをエンタテイメントと捉え続け、「世界で最も多くの航空会社に搭乗した人」としてギネス認定されたほどの筋金入りだ。

本人自ら「撮りインフルエンザ」と「乗りウイルス」に感染したと宣う「冒険航空写真家」。彼が追い求めた、仰天のヒコーキ、非常識なフライト、驚愕の空港の数々の中から、そのいくつかをご紹介したい。いざ、テイクオフ! 

ビーチの頭上すれすれを通過していくことでお馴染み、プリンセス・ジュリアナ空港(セント・マーティン島)付近の光景

まず最初にご紹介するのが、世界一短いフライトの搭乗記である。ちなみに日本国内の最短路線は、琉球エアコミューターが運行する南大東〜北大東線で、両空港の間は約12km。しかし世界を見渡せば、上には上がいる。イギリス北部のスコットランドにあるオークニー諸島の二つの島(ウエストレイ空港⇔パパウエストレイ空港)を結ぶ路線は、直線でわずか1.7マイル(2.5km)の距離しかなく、飛行時間もわずか1分ほど。

この「世界で一番短い空の旅」への道のりが、実に長い。ロンドンへ行き、スコットランドのグラスゴーを経由してカークウォール空港に到着、さらにそこからウエストレイ空港に移動して、ようやくスタート地点である。それもわずか1分強のために...。3時間近くかけて大阪へ出張に行った挙げ句、打ち合わせが5分で終わってしまった時の衝撃を思い出す。

こじんまりとしたウエストレイ空港。管制塔もなく、全てはパイロットの判断で離着陸を行う。

行き先のパパウエストレイ島は、人口わずか70人の小さな島。そのため客席もわずか8席しかないのだが、この路線で通学する高校生もいるそうだ。大きな病院がない島の人の暮らしにとって、急患輸送にも利用できる空港の存在は心強いもの。小さなフライトが持っている大きな存在感を、著者は旅情も交えながらレポートしている。

パパウエストレイ空港に到着。望遠レンズさえあれば、世界最短フライトの離陸から着陸までの一部始終をファインダー越しに追いかけられるという。

お次は、前著『世界のビックリ空港探訪記』でもふんだんに紹介されていた「危険な空港」の数々。いまや世界中どこへでも飛行機で飛んでいける便利な時代ではあるが、空港に適した土地は案外と少ないもの。それでも必要に迫られてか、適地でない場所に無理やり空港を作ってしまったようなケースが、多々見られるのだ。

美しいカリブ海に浮かぶセントバーツ島(仏名:サン・バルテルミー島)。この島にある空港は、そもそも構造的にデンジャラスだ。滑走路の手前に小高い丘があり、すぐ奥にはビーチがある。そのため島影が見えてきたと思ったら坂を駆け下りるようにして着陸する必要があり、飛行機は機首下げ姿勢のまま急降下していく。これぞ南国気質というものだろうか。カリブ海の島には、このようなユニークで危険な空港が数多く存在する。

道行く車やバイクの運転手にとっては、日常の光景。にしても、ギリギリ...。

このようにお国柄の表れる航空文化だが、最も偉大で非常識なのは文句なしにアメリカであるだろう。アリゾナ州に位置するデスバレー空港は、アメリカで最も低い場所に位置する空港として知られる。その低さ、なんと海抜マイナス86m。もちろん着陸時には高度計がマイナス表示になる瞬間を目撃出来るというから、レアさは群を抜く。

この空港施設のワイルドさもスゴい。建物さえなく、到着したパイロットは到着時刻や機体番号を記入するのみ。給油施設がないどころか周囲に誰もいないため、全てがDo It Yourself! まさに飛行機と生活が密着している国ならではの光景が見られる。

これでも立派な空港。そもそも何のために存在するのだろうか...。

だが、文化の老舗・ヨーロッパだって負けてはいられない。最後に紹介するのが、国家を跨いだ珍エアポートである。フランスとスイスの間にあるユーロエアポートはターミナルの中に”国境”があるという変わり種だ。

地上部分のフェンスが国境。手前がフランス、奥がスイス。

出発ロビーでは両国を自由に行き来できるため、うっかり携帯電話で話をしながら国境を超えてしまうと国際電話に…。またスイスはEU未加盟のため、使える通貨も異なるという。

ターミナルビルから車寄せへとつながる通路。中央のフェンスが国境。

この他にも、「飛行機の墓場」と言われるモハビ空港の解体エリアや、747の翼を家の屋根にしてしまった話など、空の世界の一風変わった見どころが目白押しである。

解体エリアにはボーイング747クラシックの機体が、鉛筆のように転がる。

カリフォルニアの「ウイングハウス」と呼ばれる住宅。

地上から見上げれば、どこから見ても羨ましいくらいに空の世界は一つである。だが空に求めるものは地域によって様々であり、空港という造形物やフライトの運行条件は、そこに暮らす人々の精神の発露と捉えることも出来る。そんな多様で豊潤な「機上の空」を、著者は旅人目線で文化として描き出した。

安全性や快適さが前提条件となる空の旅。だからこそ、適度なスリルやワイルドさは一層の希少価値を持つ。真っ青なのは空の色か、あなたの顔色か。大空を舞台にした「テーマパーク」の数々を、存分にお楽しみあれ!

<画像提供:イカロス社>

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本書とは、まるで正反対。オートメーション化される世の中を、航空業界も題材にして描き出している。レビューはこちら
 

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酷道(国道)、吐道(都道)、獰道(道道)、腐道(府道)、険道(県道)、死道(市道)、苦道(区道)、「損道」(村道)。世界に誇る、日本の道路マニア。レビューはこちら
 

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