マンガHONZのレビュアーみんなで、1冊の本をレビューしてみた!?『空也上人がいた』

東海林 真之2015年02月23日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

昨年末に「マンガHONZ超新作大賞 2014」の1位に選ばれたマンガ。それは、『空也上人がいた』(新井英樹)だった。他のマンガの賞で1位をとる作品ではないかもしれないが、なんともマンガHONZらしいマンガが選ばれたと思う。

とはいえマンガHONZのレビュアーの好みは、多彩である。好みが異なるレビュアーが集まることがおもしろいと思うし、だからこそ、各レビュアーの好みに応じて異なるファンがついているとも思う。

そんな好みの異なる人々で「1位」を決めたのだ。切り口を絞ったとはいえ。だったら、「レビュアーみんなでレビューしようじゃないか!」

誰が言ったか、例会でのこのひと言から、皆のレビューを集めてみることにした。 

空也上人がいた (IKKI COMIX)
作者:新井 英樹
出版社:小学館
発売日:2014-09-30
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
  • ebookjapan
  • dmm.com

ところでマンガHONZは、全レビュアーがボランティアの団体だ。誰がえらいとか、あるわけではない。そこでレビューの「掲載順」は、先願主義を採用した。つまり、①他の人とカブるのがいやだったら早く書くこと、そして②後に書く人は、前の人とカブらないだろう切り口で書くこと。それがルールである。

また、同じ作品のレビューを延々と語られても、読者はたいへんだろう。そこで1人のレビューは300文字(程度)以内という制限もつけた。だからこれは「ひと言」レビューである。

さて、以下から皆の「ひと言」レビュー、開始だ。作品自体の魅力も多面的にみられるが、各レビュアーの違いをみるのも、おもしろいかもしれない。
 

堀江貴文 ひと言レビュー

新井英樹氏と久しぶりに対談した。
マンガHONZで彼のマンガ『空也上人がいた』が第1位を取ったからだ。しかし彼の印象は以前と180度変わっていた。見た目がだ!

以前は今よりずっと太っていてギラリとした目で私に迫ってくる感じがあった。それが今は、スキンヘッドの柔和な表情でまるでお坊さんのような印象である。聞けば、3.11 を境目に彼は生き方を変えたのだという。引きこもりがちで人類の未来に希望を持てなかった人生から、できるだけ来るもの拒まずで人と会い交流する人生に変えた。すると作風も変わりつつあるのだそうだ。

そんな変化を感じさせる彼の新作。ぜひ一読してほしい。そして2015年から始まる彼の新しい連載に期待したいと思う。

堀江貴文の他のレビューはこちらから

佐渡島庸平 ひと言レビュー

「人は死ぬんですよ」
そんな当たり前のことを、人は忘れて、日々を無為に過ごしてしまう。でも、この作品は、そのことを強く感じさせてくれる。

老人は、死ぬ前に、一人の青年を救おうとする。読みながら、読者も救われるだろう。何がどう救われるのか?それは分からない。心がふと軽くなる。そんな不思議な魅力を持った作品だ。

新井英樹は、クリエイターズクリエイターだ。多くの漫画家は彼を尊敬する。その理由は、圧倒的な画力だ。彼が描く、人間は、とにかくリアルだ。着ている服、住んでいる家、佇まい、それらがすべて圧倒的なリアリティで描かれている。そのようなリアリティの積み重ねで、繊細な感情が描かれている。

マンガのすごさ、奥行きを感じる作品だ。

佐渡島庸平の他のレビューはこちらから

小沢高広 ひと言レビュー

もうしわけないことに、原作は未読だ。だからこの作品のどの辺りが新井英樹氏のオリジナルかわからない。ただこの作品はものすごく新井英樹氏のマンガだ。

端的にいって怖い。過激な描写が怖いのではない。うっかりすると自作が描けなくなる。作品の、作者の、背骨と対峙するのが怖い。体調のいいときに丸呑む。それが何年も脳みそのこびりついて、ふとした時、初読のときは目を背けたかったようなシーンを愛おしく感じる。それが僕にとっての新井英樹作品だ。

原作つきは楽、と思ってる人がいる。冗談じゃない。漫画化とは、原作と少なくとも同等、それ以上の力量で挑まないと、負けるんだ。この作品をより深く理解するために、これから原作を読もうと思う。

小沢高広の他のレビューはこちらから

兎来栄寿 ひと言レビュー

この作品から受けた魂に伝わる熱は長文レビューに力一杯込めたので、詳しくはそちらで。『キーチVS』という現代社会への比類なき憤りへのレビューでマンガHONZに入った身としては、今作の冒頭に極めて激しい衝撃を受けました。

マンガで世界に痛烈な一撃を見舞う新井英樹先生が、世界に絶望した。しかし、その先に生じた新次元に存在する名状し難い祝福のような魅力は、希望と呼べる物である気がします。

『ザ・ワールド・イズ・マイン』終了後以上に大いなる転換を迎え創り出した『せかい!!-岡啓輔の200年-』は果たしてどんな世界になっているのか? スペリオール最新号が楽しみ過ぎて心臓が沸騰しそうです。

兎来栄寿の他のレビューはこちらから

小林琢磨 ひと言レビュー

個人的「この漫画が重い2014年」大賞作品。冒頭から心を揺さぶり、魂に圧力をかけてくる様な漫画です。軽い気持ちで読むと火傷します。

しかしながらこの魂に圧力をかけてくる様な漫画を描けるのが新井英樹であり、この『空也上人がいた』は新井英樹の新たな代表作になるだろう。それはこの作品が「再生」をテーマにしているからだ。

『ザ・ワールド・イズ・マイン』で破壊を描き、『空也上人がいた』で再生する。人を輪廻の渦に巻き込んで、読者の魂に訴えかける漫画はそうそうない。くらくらするくらいの圧力を感じる。是非覚悟を決めて読んでください。

小林琢磨の他のレビューはこちらから

山中羽衣 ひと言レビュー

生きていると失敗したり、人を傷つけたり、なんというか取り返しのつかないように思えることが度々あったりする。そんな時を思い出しては、もう恥ずかしくてたまらないような気持ちになったり、罪悪感で胸が押しつぶされそうになったりする。それはそれは胸が痛い。

この作品の登場人物はそれぞれ皆取り返しのつかないような出来事と出会い、絶望して、それでも人生を諦めきれずに救いを求めて切実に生きている。どうにも行き詰まった時にまた読み返したい作品です。

山中羽衣の他のレビューはこちらから

角野信彦 ひと言レビュー

だれが見ても量産型の人間が密集しているような郊外の日常のなかで、人間のほんの小さな違いを緻密に書き込んでいく山田太一さんの原作が、不思議と新井さんの絵に合っている。

山田太一さんが、小林秀雄を引用してヒューマニズムについて語ったインタビューがある。

小林秀雄が、普通に生きている人の感覚は、観念化や体系化ができない種類のものだろうという意味のことを言っています。たとえばヒューマニズムは、人間を大事にするとか、生命を大事にするといった意味で捉えられています。でも小林はそうではないだろうと言っています。生きている人の感覚には、矛盾を含めて生活上のリアリティがぎっしり詰まっています。経済的事情など、切迫した生活上の必要性が優先される場合の方が多いわけです。そういう日々を、歳月を丁寧に生きているうちに、ある正しい方向性のようなものは自ずから生成されてくる。
<中略>
小林はヒューマニズ ムはそういったリアリティを持った感覚のようなものだという意味のことを言っているんですが、間違いでなければ僕もそう思います。

この作品は『ふぞろいの林檎たち』のように、生活のディティールがとてもリアルに描かれているのに、全体を俯瞰してみると不思議なおとぎ話のように感じるストーリーだ。ヒューマニズムを人間のリアルを通して表現するのは難しいと思う。マンガと言う表現がそこまで到達したという意味で歴史的な傑作だと思う。

角野信彦の他のレビューはこちらから

菊池健 ひと言レビュー

人には恐らく、一生他人には言いたくない闇みたいな記憶が一つはあるのだろう。どれ位の深い闇なのかは、程度問題としてもだ。

忙しく充実した人生を過ごしている限り、それを死ぬまで胸に秘めて逝けるかも知れない。だが、晩年に暇で暇でしょうがなくなり、そこに、同じように闇を抱えたであろう若者と出会ったら、その同志意識みたいなものから、カミングアウトを我慢するのは至難の業かもしれない。ましてや同時に、老いらくの恋にまた自分を揺さぶられれば、それは劇的に陶酔したまま人生を締めくくりたくなる気持ちも、判らなくもない。

空也上人はいずれにせよ、一緒に歩んでくれるのだろう。

菊池健の他のレビューはこちらから

山田義久 ひと言レビュー

新井英樹が描く世界観は、いつも紙面から生活臭が漂ってきそうなほど凄まじい。
結構息が詰まる。その凄まじい空気感のなかで読者は感情を揺さぶられる。

原作は他にあるとはいえ、本作も独特の空気感は健在だ。何度読み直しても本作を言葉で説明するのは難しい。贖罪を求める主人公の青年が、死を目前にした老人に教えられた「空也上人」に何をみたのか、また、その体験が他人との関わり方にどう影響を与えたのか。読者は嗅覚で読み、自分の感情の振れに身を任せてみてほしい。

山田義久の他のレビューはこちらから

佐藤茜 ひと言レビュー

キャラクターの中には偉人も美人もいない。誰も彼らのような人間をすすんで目指そうとは思わないだろう。それぞれが持つ取り返しのつかない駄目さは、卓越した筆力によって、誰もが持つものだということを見せつけられる。ページをめくるごとに首を絞められるようだ。

しかし不思議なことに、新井英樹の描いたこの世界は、比類なき美しさを放っている。生者というピースは、すべて汚物にまみれているというのに。冒頭、作者は世の中に絶望したと言っているが、パンドラの底にある希望を見つけ出したのかもしれない。この物語は多くの人を救済するのだろう。空也上人のように。

すべての人に手にとってほしい一冊。

佐藤茜の他のレビューはこちらから
 

ひらりさ ひと言レビュー

レビューを書くのが嫌だった。作品の1%でも、今の自分には的確にあらわせる気がしない。「生」の話だとか「性」の話だとか「聖」の話だとか、ぼんやりとした言葉は浮かんでくるのだけど、具体的にどうかを書こうとした瞬間に、読んでいる時に自分が感じたものとかけ離れてしまう。

どんな作品でもそれは少なからずあることだけど、この作品の場合は、伝えようとしているものがあまりにもセンシティブすぎて、それがおそろしいのだ。そこがもやもやしているのだけれど、読後感はふしぎとすっきりしている。それこそ、空也上人像を見た青年のように。

というわけで、早く読んで下さい!

ひらりさの他のレビューはこちらから

永田希 ひと言レビュー

魅力的な老人が登場する作品。こんな風に老いたい、こんな風に老いることができたら幸せだ、というイメージを抱かせてくれる。

分厚く見えるかも知れないし、「あの」新井英樹の作品だと思ったらさぞ重苦しかろうと腰が引けてしまうかも知れない。でも読み始めてみて感じるのは、とても軽やかな空気感。あっさりと読み終わります。

お説教のように大上段に構えたご高説ではなく、トップダウンの「許し」でもなく、ただ歩き、あるいは立ち止まることが描かれていると思いました。ものすごくつらい思いをして、でもただ足を前に運ぶだけで歩けてしまうことに感動した経験がある人、『レオン・ラ・カム』や『皺』が好きな読者には強くオススメします。

永田希の他のレビューはこちらから


 

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事