いじめられっ子の真っ黒な衝動 藤子不二雄がアニメ化を断り続けた衝撃作『魔太郎がくる!!』

角野 信彦2015年02月05日 印刷向け表示
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魔太郎がくる!!(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)
作者:藤子不二雄(A)
出版社:小学館
発売日:
  • Amazon Kindle

 いじめって今どれくらい問題になっているんでしょう。僕が生まれたのは1971年ですが、小学校の4年生のときに『3年B組金八先生』が校内暴力を取り上げていました。いわゆる「腐ったみかん編」です。中学1年生のときには『スクールウォーズ』がテレビで放映されていました。この期間は、1980年から1983年に当たります。それはもう、校内暴力・いじめの黄金時代といってもいいかもしれません。

そんな時代に僕が愛読していたのが、秋田書店の少年チャンピオン・コミックスからでていた、藤子不二雄の『魔太郎がくる!!』でした。主人公は魔太郎といういじめられっ子ですが、彼にはドラえもんはいません。そして、ジャイアンとスネ夫とジャギを足したようないじめっ子が次々と彼に襲いかかります(ジャギは『北斗の拳』のキャラですね)。

しかし、魔太郎はただのいじめられっ子ではなく、「怨み念法」という魔術や謀略を弄して、いじめっ子を亡き者にしたり、廃人にしたりしていきます。この激しく黒いカタルシスに、学校でいつ自分がいじめの標的になるかと怯えていた僕は耽溺しました。溺れに溺れたといっていいと思います。

しかし、つい最近ですが、大人になった僕が久しぶりに『魔太郎がくる!!』を読んで驚愕しました。あの「黒い激情」、あの「真っ黒なカタルシス」が消えてしまって、子ども向けのファンタジックな作品に改変されていたのです。

例えば秋田書店の少年チャンピオン・コミックスでの「鉄のキバが引きさいた夜」のラストはこうでした。

秋田書店 少年チャンピオン・コミックス藤子不二雄『魔太郎がくる!!』第一巻P41-42

ニセのラブレターでいじめっ子を呼び出す魔太郎、パワーショベルでいじめっ子を切り裂き、埋める魔太郎、翌朝、その現場にコンクリートが流し込まれるところを見て人を殺してしまった哀愁を漂わせる魔太郎。1973年という、校内暴力やいじめが社会問題化するはるか前に誕生したダークヒーローの姿にシビレました。

ところが、電子書籍の方の「鉄のキバがひきさいた夜」のラストはこうなっています。

小学館 藤子不二雄Aデジタルセレクション『魔太郎がくる!!』第一巻P30-40

これはこれで面白いのですが、あの「黒いカタルシス」は消えてしまい、明確に子供向けのマンガになっています。

読み比べると、最後のたった2ページ、数コマで作品の印象というのはこうまで変わってしまうのかと驚きます。僕としては秋田書店版がオススメなのですが、小学館版と読み比べてみると興味深いです。マンガ表現の自由度が、この40年間でどう変わったのかを考えるいい資料にもなると思います。

魔太郎がくる!! (1) (少年チャンピオン・コミックス)
作者:藤子 不二雄A
出版社:秋田書店
発売日:1973-04
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  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
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こちらが秋田書店版です。「いじめられっ子の真っ黒な衝動」版です。旧版の1巻から3巻までに改変・削除が多いようです。藤子不二雄Aさんのインタビューによれば、読者からの「実際に恨みを晴らしたい」という手紙が多くて、ストーリーが進んでいくほど、リアルな手段でなく魔術的な手法での復讐を多くしたということです。旧版は全13巻です。

魔太郎がくる (2) (少年チャンピオン・コミックス)
作者:藤子 不二雄
出版社:秋田書店
発売日:1973-07
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魔太郎がくる!! (3) (少年チャンピオン・コミックス)
作者:藤子 不二雄A
出版社:秋田書店
発売日:1973-09
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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