手塚治虫を殴り、原稿を投げ捨てた伝説の編集者がいた。『ブラックジャック創作秘話』 #漫画の日

菊池 健2015年02月09日 印刷向け表示
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ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事場から~4 (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)
作者:宮崎 克(原作):吉本浩二(漫画)
出版社:秋田書店
発売日:2013-09-06
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1989年(平成元年)2月9日、手塚治虫先生が亡くなられました。

当時中学2年生だった私は、東京の東久留米市にあった手塚邸より歩いて15分ほどのところに住んでいました。夕方のニュースで、人気キャスターの徳光和夫さんが「以上、東村山の手塚治虫さん宅からの中継でした。」と、ニュースを締めくくられたことが印象に残っています。

毎年この日は、#漫画の日とも呼ばれ、マンガ家やファンによる追悼イラストがSNSにアップされるなど、多くの方が手塚治虫先生に思いを馳せます。

2月9日は手塚治虫の命日 先生方が書いた手塚絵を集めました #漫画の日

日本のマンガ・アニメの父であり、神と言われても最早何の違和感もありません。

しかし、そんな手塚先生にも「もう手塚は終わった。」と見限られた時代がありました。

そんな時代に、手塚治虫先生の復活劇を牽引し、ひいては日本のマンガ界にも大きな足跡を残した、創作秘話中の創作秘話、週刊少年チャンピオン元編集長、壁村耐三さんも、また伝説の人と言えると思います。

[引用:『ブラック・ジャック創作秘話 ~手塚治虫の仕事場から~』(少年チャンピオン・コミックス)]

 

「カベさんは、手塚治虫の死に水をとろうとしてるんだと思ったね・・・」

『ブラックジャック創作秘話』全5巻は、文字通り名作『ブラックジャック』が作られた当時のお話です。手塚先生のマンガ家になって後の半生を、当時実際に周囲にいた人に語ってもらったという漫画でもあります。わけても逸話が多いのが、壁村編集長です。

[引用:『ブラック・ジャック創作秘話 ~手塚治虫の仕事場から~』 (少年チャンピオン・コミックス)]

『ブラックジャック』連載を、当時週刊少年チャンピオンの編集長になったばかりの壁村さんが決めた際は、読切作品のみという形態で、3話(5話説もあり)で完結させ、没落した手塚先生の死に水を取る覚悟であったと言われています。

後世に残った多くの手塚作品の中でも、とりわけ大きなインパクトを残した『ブラックジャック』は、マンガの神様手塚治虫先生の起死回生の一作となり、同時に、週刊少年チャンピオンが王者ジャンプを猛追した際の切り札でもありました。

1970年代当時のチャンピオンがジャンプを追い詰めたエピソードは、以下が詳しいです。

5:45あたりから、壁村編集長と手塚先生がブラックジャックを開始するエピソードです。

先日、角野がレビューした『魔太郎がくる!!』もこの時代の連載ですね。とにかくどんな内容のどんな作品でも、読者の父兄や会社の上層部から、どんなクレームが来ても、壁村編集長が作品を掲載し続けたという逸話があります。

この「週刊マンガ雑誌の歴史」シリーズは、物凄く勉強になるので、マンガファン必見です。

当時のチャンピオン発行部数の250万部がいかに凄いか

1979年の少年チャンピオンの発行部数が250万部と言われています。
その時の数字がどれだけ凄いかと言うと、現在の数字を見ると判ります。現在のマンガ雑誌のトップであるジャンプと、35年以上後の現在でもほぼ並んでいます。

[引用:日本雑誌協会 雑誌各種データ-印刷部数公表(2014年10月~12月)を加工]

現在のチャンピオンの発行部数はこの引用元データには載っていませんでしたが、同じく、日本雑誌協会による2013年10月1日~2014年9月30日のデータによると、50万部となっています。

ジャンプが世界最高記録の653万部をだした際の逸話など、同様に「週刊マンガ雑誌の歴史」で詳しく説明されています。(それにしても、この動画を作った方はただものではありません。)
いずれの時代でも、雑誌がノリにノッテいる時の掲載作品の顔ぶれを見ると、凄いものだと思います。


「私にとって先生は、私の編集人生そのものでした。」

伝説の編集長である壁村さんもまた、1998年に亡くなられました。

日本のマンガ・アニメの創り手たちにとって、手塚治虫先生はあまりにも大きな存在です。私が仕事をしているトキワ荘プロジェクトも、当然ながら手塚先生がいなければあり得ない活動です。

そんな巨大な存在の傍らで、時に神を叱咤し、その死に水を取ろうとしたら、むしろ神を復活させた男となった壁村耐三さんを見ると、そんな時代に、そんな仕事が出来た人々が心底羨ましく、様々な思いを馳せてしまいます。

[引用:『ブラック・ジャック創作秘話 ~手塚治虫の仕事場から~』 (少年チャンピオン・コミックス)]

 

ちなみに、現在20代のマンガ家志望者に、好きな作品や影響を受けた作品を聞いた際、男女に限らず、青年誌・少年誌を志望する人には『ブラックジャック』を挙げる人がいまだ多くいます。(女性系だと、萩尾望都先生がこれまた多いです。)

この作品は、前述の通り1話完結の読切作品ですが、一つ一つの話が単行本10巻にもまとめられそうな濃密な内容であることも、手塚先生の入魂のあとだと思います。デビューにあたって読切作品を雑誌に投稿する新人作家にとって、お手本でありバイブルと言える偉大な作品です。私も新人作家にアドバイスする際、読切づくりに困ってるなら、まずは『ブラックジャック』か岡崎二郎先生の『アフターゼロ』を読むようにと言っています。最早取り分け言うほどの事でもない、当たり前のことなのかも知れませんが。

『ブラックジャック』kindle版は、200円台から読めます。良い時代になったものです。

ブラック・ジャック1
作者:手塚治虫
出版社:手塚プロダクション
発売日:
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現在連載中の手塚モノの中で筆頭なのは、先日もレビューをさせていただいた『チェイサー』が面白いです。こちらは、神をライバル視するという、文字通り新しい視点が楽しい作品です。

『チェイサー』神様「手塚治虫」をライバル視した男

チェイサー 2 (ビッグコミックス)
作者:コージィ 城倉
出版社:小学館
発売日:2014-07-30
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藤子不二雄(A)先生の『まんが道』にも、若かりし壁村さんらしき方が出てきます。やはり多くの作家に影響を与えた伝説の編集者でした。表紙の一新された、『まんが道』のデジタルセレクションは、kindle版ALL400円台とか。

まんが道(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)
作者:藤子不二雄(A)
出版社:小学館
発売日:
  • Amazon Kindle
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