いろいろうまくいかない。大切な人もそばにいない。そんなあなたに『宇宙兄弟』

角野 信彦2015年02月19日 印刷向け表示
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宇宙兄弟(27) (モーニング KC)
作者:小山 宙哉
出版社:講談社
発売日:2015-11-20
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糸井さんの2/15(日)の「今日のダーリン」に「できるここと、と、できないこと」について書かれた文章がアップされていました。

できること、と、できないことがある。  
それを見分けることは、簡単そうでむつかしい。
「できないとあきらめてしまってはいけない」   
ということばには、とても強いものがある。  
まるで人生の真実であるかのような説得力がある。  
逆に「これはできない」と言うと、  
つい、そう簡単に言うもんじゃないと叱られそうだ。
そういうわけで、経験が少ない人ほど、  
なんでも「できます。やってみせます」ってなことを、  
澄んだ目で宣言したりすることになる。  
できることと、できないこと。  
ほんとうは、まずは、  
それを見分けることから始めなくてはならない。  
決意を語ることは、その後にやることなのだ。  
「できるのだろうけれど、きわめて困難だ」という場合、  
それを「できること」のほうに分けるのか、  
事実上の「できないこと」のほうに分けるのか。  
そういうことを、必死で考えることが、  
ほんとうに大事な助走になる。  
<中略>
とにかく、なにかやるなら「できること」に小分けして、
それを本気で、行きつ戻りつでいいから、やることだ。

2/15(日)ほぼ日刊イトイ新聞 「今日のダーリン」より

この糸井さんの文章を読んで、ふと考えたのは、「マンガにおける人生」と「実際の人生」の違いについてです。たぶん一番の違いは、「何で努力すれば一流になれるか」ということを自分で理解するまでに時間がかかるのが実際の人生で、マンガでは何で努力すれば一流になれるかが、すぐに物語の中で示される点にあると思います。マンガの主人公が「できること、と、できないこと」を、試行錯誤し続けることはほとんどありません。

しかし、『宇宙兄弟』の面白さのひとつは、実際の人生と同じくらい、「何で努力すれば一流になれるか」という、試行錯誤が多いことにあります。宇宙飛行士は科学者であり、技術者であり、アスリートでもあり、勇気があり、リーダーでもあってほしいという、あらゆる分野で秀でていることが理想とされる職業です。

そうした全人格的に前進していく人間を描くことはものすごく難しいと思います。南波六太という主人公は、いまだに何の分野で一流になれるのかを、作者の小山宙哉さんは明らかにしていません。それでいて、六太は大変魅力的な人物に描かれています。マンガとしての面白さが失われず、テンポもよく、しかも人生における試行錯誤を描き切ってしまっています。「誰も説明できない。しかし見る人が見ればすぐにそれとわかるのがスタイルだ。」という言葉がありますが、六太やその他のキャラクターたちがもっているのも、「能力」ではなく「スタイル」なのかもしれません。 

小山宙哉『宇宙兄弟』23巻より

もう一つの『宇宙兄弟』の魅力は、登場するキャラクターたちの「サウダージ感」です。サウダージというのは、もともとポルトガル語で、アフリカから奴隷として連れてこられた人たちやポルトガル人に征服されて支配されるようになった人たちの気持ちを表していたようです。

【サウダージ Saudade】ポルトガル語
単なる郷愁(nostalgie、ノスタルジー) でなく、温かい家庭や両親に守られ、無邪気に楽しい日々を過ごせた過去の自分への郷愁や、大人に成長した事でもう得られない懐かしい感情を意味する言葉と 言われる。だが、それ以外にも、追い求めても叶わぬもの、いわゆる『憧れ』といったニュアンスも含んでおり、簡単に説明することはできない。 Wikipedia より

要は、「サウダージ」とは、常に「心の中心にあるもの」が、実際には遠くに離れていることに対して感じる気持ちのことです。六太の日々人やシャロンへの思い、せりかさんの亡くなったお父さんへの気持ち、ヴィンスやピコが17歳のときに亡くした友だちやブライアンへの感情など、ほとんど全てのキャラクターに「サウダージ感」があります。

そして、『宇宙兄弟』は、その「サウダージ感」をポジティブな力に変換できる人間の姿を描きます。悲しい思いをしてきたからこそ、逆にポジティブな生き方ができるという部分に共感できるし、リアリティもあると感じます。

小山宙哉『宇宙兄弟』24巻

宇宙飛行士などという壮大な目標でなくても、日常はうまくいかないことで満ちています。そして、心の真ん中にいる大切な人が、いつも傍らにいてくれるわけでもありません。そんなときに、『宇宙兄弟』は読んでいる人に不思議な力を与えてくれる物語だと思います。僕はそんな風にこの物語を楽しんでいます。


宇宙兄弟(1)オールカラーを読む  

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出版社:講談社
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