セクシュアル・マイノリティが真の友情を築くには? 昭和の怪しさ溢れるミステリー『幽麗塔』

苅田 明史2015年02月24日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

セクシュアル・マイノリティ(LGBT)ってそんなにいるの!?

2週間ほど前、渋谷区が同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、証明書を発行する条例案を提出すると決めた、というニュースが大きな話題を呼びました。

このニュースを見て、
日本にセクシュアル・マイノリティ(LGBT)はどのくらいいるんだろうか?
ふとそんなことを思って調べてみたところ、(私にとっては)驚くべき事実が判明しました。

NPO法人 LGBTの家族と友人をつなぐ会(http://lgbt-family.or.jp/learning/basic)によれば、

日本でも数千人を対象とした調査で、「同性と性的接触をした経験のある人々」の割合が調べられたことがあります。なにを「同性愛」の指標とするかによりますが、これらの研究における数字は、1%から10%ぐらいまでの幅があります。我々の実感からしても、少なく見積もっても、日本でも50人に一人ぐらいの割合で同性愛者がいるだろうと思います。

という記載があります。
他の調査によれば、LGBTは成年男女の約5%を占めるという結果も出ているもよう。
つまり、日本にも学校のクラスに一人くらいの割合でLGBTが存在しているのです。

そんなにいるのか!
これが自分の素直な感想でした。
私の友人にはカミングアウトしている人はほとんどいないうえ、今まで「マイノリティ」という言葉の印象からも、セクシュアル・マイノリティは0.1%もいないのだと思っていたので、この数字には驚きました。

確かにマジョリティとは言えないがけれど「マイノリティ」だからと言って知らずに済むような数ではなさそう。
仮に50人に一人として試算すると、日本には約250万人のLGBTがいることになります。大阪市の人口(2010年時点で266万人)と同じくくらいの規模、と言えば想像がつきやすいかもしれません。
同性愛者はこんなにたくさんいるのに、こうした方々のことを理解せずにいるのは非常にマズいのでは? とさえ思えてきます。

さて、今回は先の渋谷区のニュースを見たときに私が思い出したマンガ、『幽麗塔』(幽「霊」ではない)をご紹介しましょう。
この作品を読んだとき、私は「ああ、俺は同性愛者について、知ったつもりで全く理解できていなかったんだな」と反省したからです。

幽麗塔 1 (ビッグコミックス)
作者:乃木坂 太郎
出版社:小学館
発売日:2011-11-30
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

敗戦から復興中の日本、登場人物は全員怪しさ満点

『幽麗塔』は、昭和29年の神戸を舞台に繰り広げるミステリー作品です。
洋館に隣接した時計塔「幽霊塔」。ここは2年前に殺人事件が起きた、いわくつきの場所。

主人公は天野とテツオの2人の「男性」。
1巻の冒頭で、貧乏で容姿も平凡以下で童貞ニートの 天野 は、なぜか自分に近づいてきた、頭が切れる謎の美青年 テツオ と出会います。
テツオは「幽霊塔」に天野を連れてくると、「ここの管理人に応募しないか」と天野に持ち掛けます。

中を見学しはじめる天野。
すると、天野はいきなり背後から近づいてきた何者かに襲われてしまいます・・・!
 

『幽麗塔 1巻』(乃木坂太郎、ビッグコミックス)
時計の針に磔(はりつけ)にされてしまう天野。時間の経過とともに体がひん曲がっていく・・・。

いきなりクライマックス! 天野は主人公じゃなかったの? と思ってしまうような展開なのですが、死の寸前、天野はなんとかテツオに救い出され、一命をとりとめました。

普通なら「二度と幽霊塔には近づくまい」と思うのでしょうが、実はこの幽霊塔には財宝が眠っているという噂が。
一緒に巨万の富を見つけ出そうと天野を誘うテツオ。
ミステリー好きでもある天野は、これまでのつまらない人生からの一発逆転を狙い、テツオと一緒に財宝探求に挑むことを決意します。

しかし、ここで読み手にとって驚きの設定が明かされます。

なんと美青年だと思っていたテツオは男装した女性、しかも精神的には男性というトランスジェンダーだったのです。

読み手からすれば、テツオはなんで正体を隠してるの? ひょっとしてテツオが犯人なの?と大混乱状態。ですが、本作はこのテツオの人物設定こそが、この物語を魅力的なものにしてくれているといっても過言ではありません。

天野はトランスジェンダーのテツオをいかに受け入れたのか

私はこの作品を読みはじめたとき、テツオはやがて女性の心を持ち、天野と恋愛関係になるのかもしれない、と予想していました。

実際に、テツオが実は肉体的には女性でも精神的には男性だという事実が判明したとき、天野は「僕には理解できるよ」「友人としてそばにいるよ」と言っていたのですが、艶めかしいテツオの肢体を目にするたびに欲情してしまい、「いつかきっとテツオは女性として、僕を男性として好きになってくれるのでは」と妄想してしまっています。

 

『幽麗塔 4巻』(乃木坂太郎、ビッグコミックス)
テツオと男女の仲になれないのかと苦悩する天野(この女装しているのが天野)。

ですが、天野の理解は浅かった。
私もセクシュアル・マイノリティについて知ったようで、まったくわかっていませんでした。

彼らがマジョリティである異性愛者になるということはありえません。いや、ひょっとしたらそういうケースもあるのかもしれませんが・・・それでも、根っこの部分が簡単にコロコロ変わるということはないのです。

また一方で、テツオもこれまでの経緯から「天野は本当に男の友人として自分を受け入れてくれるんだろうか」と、今一つ信じ切れていない様子。
これが後々、二人の間に亀裂を生じさせてしまいます――。

さて、この作品の凄いところは、天野が男の友人としてのテツオを受け入れるプロセスを、納得感ある形で描き切っているところ。

『幽麗塔 6巻』(乃木坂太郎、ビッグコミックス) 作品の終盤、男としてのテツオを受け入れる天野(二回目ですが、この女装しているのが天野)。

天野はテツオが男性であるという事実をどうやって受け入れることができたのか?
まさか女装が鍵だったりするのか・・・?
詳しくはマンガを読んでいただきたいと思います!

ちなみにこの作品、海外の小説を元に、黒岩涙香や江戸川乱歩が翻案した『幽霊塔』(こっちは幽「霊」です)という探偵小説がベースとなっており、ミステリーとしても非常に優秀。
果たして財宝を狙う残虐な殺人犯「死番虫」は誰なのか? テツオの正体は? なぜテツオは天野を幽霊塔に誘ったのか――?
最近ついに最終巻が出たこともあり、「完結」派のアナタにもオススメ。

『幽麗塔』にはテツオだけでなく、ゲイなどさまざまな嗜好の人物が登場するので、LGBTの方にもレビューしていただきたいですね。

幽麗塔 9 (ビッグコミックス)
作者:乃木坂 太郎
出版社:小学館
発売日:2014-12-26
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub
幽麗塔 8 (ビッグコミックス)
作者:乃木坂 太郎
出版社:小学館
発売日:2014-07-30
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

清方2015.2.24 19:27

幽麗塔、とても素敵な漫画ですね。 本レビューで大変興味を持ちました。 ミステリーも好きなので、1巻から読んでみたいと思います。 また、渋谷区の条例に絡めた出だしや、LGBT関連のご説明から書いてくださっているのも セクシャルマイノリティを知りやすいレビューになっていてよかったです。 だからこそ残念に思ってしまったのが、以下のところです。 >彼らがマジョリティである異性愛者になるということはありえません。 この「テツオ」というキャラクター(精神が男)の好きな相手が女性ならば、彼は「異性愛者」です。男が女を好きだという構図だからです。 同性愛者とトランスジェンダーはまた別の話になるため、誤解を招きそうな一文がとても気になってしまいました。 >ゲイなどさまざまな嗜好の人物が登場するので また、趣味嗜好の嗜好ではなく、指向が正しい使い方になります。 好みというより性傾向になるからです。 こまごまと、重箱の隅をつつくみたいになってしまいすみません…。 出来れば、正しい知識と言葉で触れていただきたいと思いましたので コメントをさせていただきました。 これを機に少しでも理解が深まればとてもうれしいです。 漫画は必ず読んでみます。面白い本をご紹介くださりありがとうございました。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら

人気記事