『空也上人がいた』マンガHONZ超新作大賞2014 受賞記念対談 新井英樹×堀江貴文 前編

山中 羽衣2015年03月07日 印刷向け表示
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2014年のマンガHONZ超新作大賞に選ばれた『空也上人がいた』。大賞選出を記念して新井英樹さんをお招きしての対談を行いました。同賞は、最も世の中に広めたい作品を選出するもので、今回は2013年12月~2014年11月の間に第1巻が発売・発表されたマンガが対象にマンガHONZのレビュア―による投票のもと、決定。詳しくはコチラの記事をご覧ください。 


空也上人がいた (IKKI COMIX)
作者:新井 英樹
出版社:小学館
発売日:2014-09-30
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◆ 「人は死ぬもんだから」と簡単に受け入れる感覚がすごい

堀江貴文(以下、堀江)このたびは新井さんの『空也上人がいた』が、マンガHONZ超新作大賞に選ばれました。マンガHONZのレビュアーで、今年発表された新刊を対象にしていいと思ったものをバーって挙げまして。それをみんなが読んだうえで投票したら、最後に決選投票で1位になったんですよ。

 

新井英樹(以下、新井)いやあ、ありがたいです。『空也上人〜』に関しては、初めての試みというか、原作モノも、自分が生涯やると思ってなかったんですけど。自分の中で、今までやらないことをやっていこうと思った一環もあったし、あとやっぱり、原作は間違いなくすごく面白かったんで、俺もこの本に関しては他人に薦めやすい(笑) 自分の本を人に渡すのって結構恥ずかしくてできないんだけど、

堀江ああ、原作者がいるから。

新井そうそう、「半分以上、これ(原作者の)山田太一さんのものだから」っていうのがあるから(笑)。

堀江この物語もね、ちょっと変わってますよね。

新井んー。……変わってるっていうか、ちょっと冒頭からすごいなあって思って。ヒロインがションベンの音立てるっていうところから始まるんですよね。それも荒唐無稽にってわけじゃなくて、介護の現場っていうテーマから全然無理筋じゃない始まりで。そこから結構掴まれちゃって。

堀江そうでしたね。

新井しかもヘタすると、殺人を肯定する、みたいな話になってるじゃないですか。人を殺したってことも、「まあ、まあ」って、許しちゃおうっていうような話。そういう価値観っていうのは、衝撃的だったんです。歳を取っていくとそうやって物を見られるようになるのかもしれない、って。だからって別に、その見方を推奨しよう、というわけでもなくて。

堀江歳を取っていくと、ですか。

新井例えば、今年『ジャージー・ボーイズ』っていうクリント・イーストウッド監督の映画を観たときに、俺、ボロ泣きしちゃって。ザ・フォー・シーズンズっていう実在する人気ポップグループの、山あり谷ありな人生を描いた作品なんですけど。

堀江うん。

新井何がすごいと思ったかって言うと、普通なら、例えば愛する者が死んだとか、苦しみとか喜びとか、ドラマを描くときってわりとそういう部分を核にするものでしょ? それなのに、『ジャージー・ボーイズ』ではそういった場面は結構サラッとやったうえで、最後にこれまでの人生を振り返る―浮き沈みいろんなことがあったけど、それらも全部含めて、人生は楽しいでしょ、っていうクライマックスで。そうやってまるごと受け入れて、それらを愛でることができる目っていうのを、イーストウッドみたいな80歳を超えたじいさんになると、歳をいくと持てるものなんだ、っていうことにちょっと感動しちゃって。

堀江へえ~。その老境というか、達観みたいなものに感動した、と。

新井それと同じように、『空也上人〜』も人が死ぬとか生きるとか、もちろん介護の現場にいる人たちだからそういったものはいっぱい見てるんだろうけど、それでも人の「死」に対する扱い方、というか感覚がすごいと思った。『ザ・ワールド・イズ・マイン』とか、ああいう話って基本的に「ほら、人の命をこんなにもてあそぶよ」っていうのを、どこかで「すごみ」みたいにして描くけど、『空也上人〜』を読んで「いやいや、人は死ぬもんだから」っていうのを簡単に受け入れるすごみっていうのもあるよな、って。

堀江本当に、そうなんですか? あれってみんな、人が死ぬことを受け入れてるんですか。

新井いや、受け入れてるかどうかはわからない。ただ原作を読んでもそうだったんだけど、あの二人—あの男女は、吉崎老人の死を、意外なくらいに、わりと、衝撃、としてまでいかない程度で受け止めてるでしょ。普通だったらあそこで、「そんなあ……」って言ったりとか、泣かせどころでもないけど、“衝撃の―!”っていうふうにはなりそうなのに。こんなにあっさり受け止めるの?ってくらいに。

堀江結構淡々としてますよね。淡々と、仏前でセックスしちゃうっていう……。あっはっは(笑)。

新井そういうところに、いやあすごいなあってちょっと衝撃を受けまして。

7080歳になったときに見出だせる希望とは何か

堀江でも、吉崎老人は別に自殺まですることはなかったんじゃないですか。そんなことはないですかね。

新井ただ、あの歳であの状況になったときに、思い描ける希望とか理想っていうのって、俺の歳でもわかんないよなあって。原作者の山田太一さんも言ってたけど、老人を主人公にして描くときに「明日を夢見て」とか「希望を持って」とか言っても、もう7080歳になって、しかも身体は全然言うこと聞かなくてっていう状況で、簡単に希望なんて言うけど何があるって言ったときに、「そんな簡単な言葉では見つからない」って。

堀江うん。そうかもしれないですね。

新井でも、重光さんが仏前で言ってたとおり、もしかしたら吉崎さんは「あそこで自分が死ぬことで、通夜の席に草介と重光さんが二人になる」っていうことは、考えていたかもしれない。どこまで計画的かわからないけど、もしそうだったっていうのであれば、それを成し遂げさせるための希望は、そこにあったかもしれない。

堀江それって、すごく絶望的な希望ですよね……。

新井うーん、それは死を絶望って捉えるかどうかの問題で、人によっては、宗教やってる人とかそのテの人は、「生きてることこそ苦悩だ、苦痛だ」っていう考え方もあるし……。吉崎さんは死ぬことをもともと選んだうえで、草介を雇ってるでしょ。そのうえで、金ももうほとんど無いのに、金持ってるんだって嘘ついたりとかしてたわけで。そしたら金が尽きた時点で、実は金が無いんだってことを暴露して今の生活とか人生自体を破綻させるのを選ぶか、それともそれも抜きに、暴露はするものの、死を選ぶかっていうのがあって。

堀江はい。

新井そうすると、あの二人が悲しまなかったのも、吉崎さんっていうキャラクターも「あのまま生き長らえるっていうことに希望を持てたか?」ってことがデカかったかなあって。しかも、重光さんのことを実は好きで、それで失恋したってことまで言っちゃってるし、老醜をさらすっていうようなことを結構やっちゃってる以上は……。

堀江たしかにね。でも、あんな人はいっぱいいるんでしょうね。

新井世話焼きおばさんとかいるでしょ? お見合いを取り付けてきたりとかするような。あれってやっぱりどこかで、人の人生に関わりたいっていうのがあるのかなって。堀江さんも、例えば自分の生活に余裕があって、でも思ったように身体が動かなくなって、性欲も昔よりも減退してきたとして。それで、ちょっと話したり、付き合ったりすると楽しい若い子たちが周りにいるって言ったときに、なんか上手くいかせてやりたいとか、どうこうしてやりたいっていうのは、ちょっとあるでしょ? もちろん勝手にやってくれよっていうのもあるけど。

堀江たしかに、面白半分でたまにそういうのやりますね。ちょっと不器用な感じの若い奴とか見ると、ちょっと弄んでやろうみたいな(笑) 結構弄んでますね。

新井ありますよね。だからあの二人も、たぶん吉崎さんの関与が無かったらくっつくことはなかった。元々は重光さんがきっかけで、どこかでそういうことを意識して自分だけの草介にしようっていうのもあったかもしれなくて、それで吉崎さんに紹介をしたけど、でも、それを察した吉崎さんが「自分は好きな女を幸せにしてやりたい」って思ってそこからその人生に関われたのなら、自分の残りの人生とか命も、惜しくないって、考えたかもしれない。

堀江はあ〜、そういう感じになっちゃうんですねえ……。

空也上人がいた (IKKI COMIX)
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 (後編へ続く)

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