埋蔵金争奪+ジビエ! 『ゴールデンカムイ』の主人公には知られざる秘密が・・・。

苅田 明史2015年04月17日 印刷向け表示
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ゴールデンカムイ 4 (ヤングジャンプコミックス)
作者:野田 サトル
出版社:集英社
発売日:2015-08-19
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 主人公に漫画家の想いがこめられている作品は、それだけでもう魅力的だ。
「こんなキャラがウケるんじゃないか」とかそういう軽い気持ちじゃなく、「こいつを描きたい!」「命を吹き込んでやりたい!」というずっしりした熱い気持ちが読み手にも伝わってくる。

ヤングジャンプで連載中の『ゴールデンカムイ』もそんなマンガの一つ。
「カムイ」という名前からお気づきの通り、アイヌ民族を題材にした作品である。

ゴールデンカムイ 1 (ヤングジャンプコミックス)
作者:野田 サトル
出版社:集英社
発売日:2015-01-19
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アイヌの埋蔵金伝説

『ゴールデンカムイ』の主人公、杉元佐一(スギモトサイチ)は日露戦争を生き延び、「不死身の杉元」の異名を持つほど強い、陸軍の元兵士。彼は友人との約束を果たすべく大金を求め、東京から北海道へと移り、砂金採りをしていた。

史実によれば、江戸時代に一度目のゴールドラッシュが起こったが、シャクシャインの蜂起をきっかけに松前藩が砂金採取を禁じてしまったそう。明治時代になってから榎本武揚が北海道の鉱山資源を調査し、砂金が採れることが分かると、19世紀末に二度目のゴールドラッシュが発生。
スギモトが一攫千金を狙って北海道に渡ったのも、ちゃんとした根拠があったのだ。実際に、アイヌと金を結び付けた映画や小説は他にもいくつかある。

ところが、日露戦争が終わる頃(1905年)、北海道ではすでに第2次ゴールドラッシュが終焉を迎えていた。川をさらっても砂金が採れず絶望するスギモトだったが、居合わせた酔っ払いの男から「アイヌの金塊」の噂を聞きつける。その額8萬円(現在の価値でなんと約8億円!

実はこの金塊、もともとは一部のアイヌが密かに貯めこんでいたのだが、一人の男がそのアイヌを皆殺しにして強奪したもの。その男は金塊を北海道のどこかに隠したあと、網走監獄に死刑囚として収監されている。
男は外部の仲間に連絡を取ろうと、同房の死刑囚の体に埋蔵金のありかを示した暗号の入れ墨を彫り、その死刑囚たちに脱獄を命じたのだという。入れ墨を彫られた囚人らは脱獄に成功、今となっては金塊のありかもわからなくなってしまった――とのこと。

最初は与太話だと思い聞き流していたスギモトだが、その話を持ち掛けた酔っ払いの男が「しゃべりすぎた」と言って、スギモトを殺そうと襲い掛かってくる(!)。なんとか難を逃れたスギモトは信憑性が高いと感じ、金塊探しを決意する。
金塊を狙うのは脱獄囚だけではない。日露戦争で十分な見返りを受けていないと不満を持つ陸軍第七師団や、地元の警察などが入り乱れた争奪戦が繰り広げられる。
さらには人間だけじゃなく巨大なヒグマまで襲ってきて、なんだかもうハチャメチャだ。

北海道名物(?)ヒグマも襲ってくる!
『ゴールデンカムイ 1 』(野田 サトル、ヤングジャンプコミックス)より

アイヌの狩猟料理!

ところで、スギモトは知り合ったアイヌの少女・アシㇼパと協力して金塊の手がかりを得ていくのだが、アシㇼパによる猟師グルメもこの作品の魅力の一つ。
ウサギやカワウソを採ったら、「我々が刻むもの」を意味する「チチタプ」や、「野菜が沢山入った汁物」を意味する「キナオハウ」など、その場で料理して食べてしまう。まるで『山賊ダイアリー』のように異文化を体験しているようで興味深い。

アシㇼパは「美味いぞ」と自信満々に奨めるのだが、ウサギの目ん玉やカワウソの頭部を口にしたスギモトの表情は毎回最高に面白い(笑)

ジビエがウマそう!
『ゴールデンカムイ 2』(野田 サトル、ヤングジャンプコミックス)より
ウサギの目玉を前に、「不死身の杉元」と呼ばれる男でも何ともいえない表情に(笑)
『ゴールデンカムイ 2』(野田 サトル、ヤングジャンプコミックス)より

主人公は作者の先祖がモデル?

ところで、作者の野田サトルさんのブログを読むと、北海道を舞台にしたマンガを描いておられるだけあって、北海道出身の方なのだそうだ。

記事が4件しか投稿されていないからか、これだけ人気のマンガなのに、なぜかブログのエントリーにはまだそこまで注目が集まっていない様子。
http://723000451898910026.weebly.com/125021252512464/4

このブログで明かされているように、実は作者の野田サトルさんの曽祖父は屯田兵。第七師団、歩兵27連隊乗馬隊に所属していた、いわゆる「北鎮部隊」だそう。
そしてなんと、そのお名前が「杉本佐一」なのだ!

野田サトルさんがご自身の曽祖父について語ったブログの一言が感動的なので、シェアさせていただこう。

ちなみにゴールデンカムイの主人公は名前を借りただけに過ぎない。
自分の曽祖父を描いてるつもりは一切無い。まったくの別人と考えている。

曽祖父を「英雄だ」なんて自慢するつもりはさらさら無い。
英雄と呼ばれるにふさわしい人物に比べれば、それはおこがましい。

ただ自分と血がつながった身内で、今の自分よりもっともっと若い時分の曽祖父が遠い異国の地で血みどろの戦争を生き抜き、500名の命を救い、名誉とマネーを掴んだという話に、胸が熱くなる。
二十代だったときの自分、何者でもなかった自分の惨めさと比べてしまう。
自分の人生でこれまでも、これからもそんな経験ができるイベントはおそらく無い。戦争なんて無いに越したことはないんだが。

ロシア兵の銃弾が一発でも曽祖父に当たっていれば自分は今ここに存在していなかったのかと思うともっと真摯に生きようとも考える。

映画の小道具である、ひどく重たい三十年式歩兵銃を持ったとき、ほんのわずかだけ曽祖父と同じ思いを感じられた気がした。
曽祖父も「この鉄砲、重てえなぁ」って思ったはずだ。

自分の曽祖父が戦争に行っていた、という話は珍しいものではないかもしれない。だが、その生き様を学び、尊敬の念を抱き、自身の作品の主人公に名前を借用する、というのはなかなか叶うことではないだろう。
きっと、実在した杉本佐一さんだって、曾孫がこのマンガを描いていることを誇りに思っているに違いない。
冒頭の「主人公に漫画家の想いがこめられている」というのはそういうところだ。

もう一つ、作者の野田サトルさんがこの作品にこめている想いを推察してみる。
それは、『ゴールデンカムイ』がマンガの神様、手塚治虫に挑む作品なんじゃないかということ。実は『ゴールデンカムイ』には、手塚治虫の『シュマリ』からインスピレーションを受けたと思われる設定がいくつか見受けられるのだ。

※『シュマリ』は不器用な性格の主人公が一人の女性を愛し続ける、大人向けの泣けるマンガなので、こちらもぜひ読んでいただきたい。
 

シュマリ(1) (手塚治虫漫画全集)
作者:手塚 治虫
出版社:講談社
発売日:1978-10-09
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 ↓ たとえば、『シュマリ』とはこんな点が共通している。

■ どちらも明治時代のお話(『シュマリ』は明治初期、『ゴールデンカムイ』は明治30~40年)
■ どちらも隠された金塊が重要な役割を果たしている(『シュマリ』の主人公シュマリは、スギモトと同じく東京から北海道に渡り、黄金を獲得)
■ どちらも記録上、箱館戦争で戦死したはずの元新撰組副長・土方歳三が生存し、網走監獄に収監されている

『ゴールデンカムイ』は『シュマリ』の少しあとのお話なので、今後の展開のなかで、ひょっとしたら『シュマリ』の後日談的なエピソードも描かれるかもしれない。
 


手塚治虫には他にも『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」をリメイクした、浦沢直樹さんによる『PLUTO』のようなオマージュ作品が多い。
浦沢直樹さんのインタビューhttp://www.asahi.co.jp/50th/urasawa.html)を読むと、『PLUTO』を描くにあたっては、全身にじんましんができるほどプレッシャーを感じていたのだそう。
マンガ界No.1の巨匠の作品、しかも自分が一番思い入れのある作品に向き合えば、たとえこれまでヒット作を連発している浦沢直樹さんですら、押しつぶされそうな気持ちになっていたのだ。

『ゴールデンカムイ』は間違いなく面白いし、最高のスタートを飾っていると思う。それ故にこれからもプレッシャーに負けず、ますます読者をハラハラドキドキさせてくれることを一ファンとして期待したい。

ゴールデンカムイ 2 (ヤングジャンプコミックス)
作者:野田 サトル
出版社:集英社
発売日:2015-02-19
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余談だが、昔のようにザックザック採れるわけではないと思うけれども、北海道の砂金採りはまだできるようだ。
「ゴールデン」つながりということで、ゴールデンウィークにでも行かれてみてはいかがだろうか。5月だと北海道はまだまだ寒そうだけど。
http://www.town.taiki.hokkaido.jp/soshiki/shoko_kanko/shoko_kanko/gold_rush.html

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作者:
出版社:中央公論新社
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