『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀 そして世界の警察はいなくなった』

ダイヤモンド社書籍オンライン2015年04月24日 印刷向け表示
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イスラム国、クリミア半島、アフガニスタン、尖閣諸島……。世界各地で頻発する危機の背景には、アメリカの驚くべき方針転換があるという。本書『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』は、ピューリッツァー賞受賞のWSJコラムニストが、歴史とデータから世界の秩序の崩壊を丹念に分析した一冊。いま世界で何が起きているのか。そして、日本はどう対処すべきなのか。その読みどころを、訳者の藤原朝子さんに解説いただきます。

撤退するアメリカと「無秩序」の世紀ーーーそして世界の警察はいなくなった
作者:ブレット・スティーブンズ 翻訳:藤原 朝子
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2015-04-24
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著者のブレット・スティーブンズ氏は、アメリカで気鋭の保守派の論客である。1973年にニューヨークで生まれ、父親の仕事の関係でメキシコで育つ。両親ともにユダヤ系で、本人の謝辞によると世界各地に親戚がいるらしい。シカゴ大学で政治哲学を学び、ロンドン・スクール・ オブ・エコノミクスで比較政治学を修めた。

ジャーナリストとしてのキャリアのスタートは月刊誌コメンタリーの編集者だが、早くも1998年にはウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)の論説欄担当の編集者になっている。翌年にはブリュッセルに拠点を移し、同紙欧州版の編集に携わると同時に、欧州連合(EU)についてコラムを書いた。2002年に一度WSJを辞めて、イスラエル最大の日刊英字新聞エルサレム・ポスト紙の編集主幹に就任。28歳の編集主幹は同紙の歴史では最年少だったという。ここで週に一度コラムを書きながら、国際版と電子版を含む紙面づくり全般を仕切るとともに、70年ぶりの大規模な紙面改革を断行した。

しかしそこにも長居することはなく2年後にはWSJに戻り、現在は外交コラム「グローバ ル・ビュー」を毎週執筆しながら、論説欄の副編集長(欧州版とアジア版担当)を務める。報道番組のコメンテーターとしてテレビ出演することもあるようだ。日本でも2014年11月にNHK BSで放送された中間選挙解説番組で、オバマ外交批判派の代表格として出演していたのでご覧になった方もおられるかもしれない。 WSJに戻ってから執筆したコラムやオピニオン記事は、さまざまな賞を受賞している。

なかでも特筆すべきは、やはり2013年のピュリツァー賞(論説部門)だろう。「アメリカの外交政 策及び国内政策についてひねりのきいた鋭い論評」が受賞理由となっている。それまでに二度候 補に挙がっていたというから、満を持しての受賞だったようだ。これらに先立ち、2005年には世界経済フォーラムのヤンググローバルリーダーの一人にも選ばれている。

そんな輝けるキャリアを見ると少し意外にも思えるが、本書はスティーブンズ氏の初の著作である。オバマ政権の誕生以来、アメリカは内向きの外交政策を展開しているが、それによって生じた権力の空白には独裁者やテロリストがのさばり、世界は取り返しのつかない無秩序に向かっている。現実問題として、それを食い止める軍事力と経済力を持つのはアメリカだけであり、アメリカはあらためて世界の警察官の役割を自覚し、その役割を果たさなければならない、といった主張になっている。

とりわけ興味深いのは、著者が十分な軍事力を確保する重要性を明言していることではないだろうか。イラク戦争が惨憺たる結果に終わり、景気回復も十分とは言い切れないいま、アメリカでは保守もリベラルも国防費削減を主張している。しかし国益や理念を守るためには、そのための手段を確保する必要があると著者は力説する。なぜなら「当事者全員が一同に会して話し合えば対立は解決できる」という考えは、宗派抗争や部族抗争が渦巻く世界では通用しない。だから十分かつ柔軟な軍事力が必要であり、敵対的な相手は中途半端に封じ込めるのではなく、徹底的に叩かなければならないと断言する。

その過程で、口達者だが重要な判断は避けたがるオバマ大統領や、「話せばわかる」論者のスーザン・ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、中国共産党指導部を称賛するニューヨーク・タイムズ紙のトーマス・フリードマンら「甘ったれた幻想の持ち主」は徹底的な批判にさらされる。リベラル派だけではなく、共和党のランド・ポール上院議員や草の根保守派連合ティーパーティーの「偽の現実主義者」も容赦なくこき下ろされる。

そんな思わず笑ってしまうほどの痛烈批判と、国際関係における究極の通貨は力だと言い切る潔さ、歴史と世界情勢への知識に裏打ちされた洞察力、そしてジャーナリストとして培ってきた優れた論証力が、本書のとりわけ大きな魅力であるように思う。アトランティック・マンスリー誌は2009年、著者をアメリカで最も影響力のある知識人の一人に挙げ、「スティーブンズが唱える、強硬な外交政策とアメリカ単独行動主義の擁護論はあまりにも説得力があるため、リベラル派からも少なからぬ賛同を得てきた」と評している。本書を翻訳する過程で、訳者もその一人となったことを告白しなければならない。

なお、原著には、第二次世界大戦後にアメリカが世界の警察官役を引き受けていなかった可能性を論じた章があったが、紙幅の都合上、著者と相談したうえで割愛したことを申し沿えておく。

2015年3月 藤原朝子

藤原朝子
学習院女子大学非常勤講師。フォーリン・アフェアーズ日本語版、ロイター通信などで翻訳を担当。訳書に『ハーバードビジネススクールが教えてくれたこと、教えてくれなかったこと』(CCCメディアハウス)、『未来のイノベーターはどう育つのか ―― 子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの』(英治出版)など。
撤退するアメリカと「無秩序」の世紀ーーーそして世界の警察はいなくなった
作者:ブレット・スティーブンズ 翻訳:藤原 朝子
出版社:ダイヤモンド社
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