歴史考証により描き出す、絶体絶命の日本『アンゴルモア 元寇合戦記』

山田 義久2015年04月24日 印刷向け表示
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アンゴルモア 元寇合戦記(1) (角川コミックス・エース)
作者:たかぎ 七彦
出版社:KADOKAWA / 角川書店
発売日:2015-02-10
  • Amazon Kindle

 日本の歴史漫画の花形といえば戦国時代。織田信長、豊臣秀吉等、英雄たちの栄枯盛衰に心躍らせるのが常だが、この作品が取り上げるのは元寇
つまり、文永の役(1274年)、弘安の役(1281年)と2回に渡り、元、つまりモンゴル帝国が日本に攻めてきたあの話であるが、そのモンゴル軍と武士との闘いを漫画で本格的に取り上げたのは、本作が初めてでないだろうか。

そもそも、数十万のモンゴル軍に対して、立ち向かう小国日本の武士。しかも舞台は対馬と、完璧な負け戦をどう描くんかいな、、、と軽い気持ちで読み始めたが、力強いストーリーと史実に基づいた緻密な描写に猛烈に引きこまれた。

主人公は、朽井迅三郎(くちい じんざぶろう)。彼はもともと鎌倉幕府に仕える武士だったが、流刑になり対馬に送られる船上にいた(なぜ流刑になったかはまだ詳しく明かされていない)。すったもんだありながら、他の罪人たちと共に対馬に到着する。彼らを出迎えたのは宗氏(当時対馬を支配していた一家 ※実話)の血を引く輝日姫(てるひひめ)。彼女の口から、彼ら罪人たちは迫りくるモンゴル軍と戦うための捨石、要は「死んでもいい援軍」であることを明かされる。
そして、1274年11月4日、モンゴル帝国の艦隊が対馬沖に現れて、、、、という展開だ。

(朽井迅三郎  出所:作者ブログ)

史実によると、この日から7日間ほどで対馬は制圧され、モンゴル帝国は隣りの壱岐島に向かい制圧、その後九州に向かうはずだ。ということは、この作品はこの7日間が舞台となる。
実際、作者のたかぎ七彦さんによると、もともとタイトルは『元寇 7DAYS』(なんかポップ!)だったとある。対馬が制圧されるまでの7日間の死闘が描かれていくのだ。

ちなみにタイトルの「アンゴルモア」とは、かのノストラダムスの預言の、あの『恐怖の大王』の下りに書かれたアンゴルモア大王(世界を滅ぼす大王)から来ている。実は、アンゴルモア大王は、当時ヨーロッパ全土でも恐れられていたモンゴル帝国を意味しているの説があり、その説を拝借したタイトル付けになっている。

この歴史センス溢れるタイトル付けからもわかるように、たかぎ七彦さんは本作のストーリーを描くにあたって、かなり細かく歴史考証されている。そして、それがいかんなく場面の描写に活かされており、歴史マニアも垂涎の仕上がりになっている。
どれだけ細かいか、さらっと読んだだけではま~ったく気づかないので、作者ブログをもとに重点的に紹介したい。

 まず輝日姫が描かれた第2巻の表紙をみてほしい。

アンゴルモア 元寇合戦記(2) (角川コミックス・エース)
作者:たかぎ 七彦
出版社:KADOKAWA / 角川書店
発売日:2015-03-10
  • Amazon Kindle

この表紙の背景、拡大すると下のようになる。

(出所:作者ブログ

よく見ると兵士の装備が統一されていないことが分かる。これは作者自身が当時の絵巻を実際に手に取り、モンゴル軍が様々な色や材質を使った鎧をまとっていることを確認した上で、それらを細かく表現しているのだ。確かにモンゴル軍は高麗等、多様な地域出身の軍勢が混ざっていただろうから、この方が納得だ。

そして、モンゴル軍の艦隊の描写もすごい。

(出所:作者ブログ 作中では第1巻3話)

この艦隊、よく見ると、様々な大きさの船が混ざっている。これにもきちんと理由があって、モンゴル艦隊は船のタイプが大中小とあったらしく、構造船の元(モンゴル帝国)の船、イカダの発展型の高麗の船、「バートル」という上陸小船、と3種類あったとのことだ。恐ろしいことに、3種類がきちんと描き分けられているのだ!

日本側の描写もまた凄い。武士の戦い方について、鎌倉時代の武士の主な戦い方は騎射(馬の上から弓を射る)であるが、矢を引く手が兜のヘリにぶつからないか検証し、専門家の話を聞き、歴史資料も参照しながら、最大限史実に近付けようとしている地道な作業が紙背に隠されている。

(巻末に時代考証の一部が紹介されている 出所:第1巻 "雑記帖")

対馬の当時の人々の様子もかなり研究された模様で、下の何気ない住民の生活模様もかなり気合入れて描かれたらしい。現地に何度も足を運んで取材されたのであろう。既に対馬で本作を取り上げたイベントも開催されている。

(出所:第1巻3話)

もちろん、実在した人物、少弐景資、宗助国、劉復享なども多数登場する。このように、フィクションのなかに膨大な史実を織り交ぜて、緻密に組み立てられたストーリーになっているのだ。

ストーリー展開に関しては、何というか、きちんとモンゴル軍が容赦ないことに好感を持った。人権意識もクソもない時代の戦争描写に、つまらない人情噺はいらないと思う。当然侵略で一番最初に犠牲になるのは一般市民だ。史実でも対馬の人々のほとんどは殺され、生き残った人は手に穴をあけられ、そこをひもで通して船のへりに鎖のように結ばれたとされている。つまり、矢よけにされたのだ。本作中でも目を覆うような残酷なシーンが多い。
しかし、そんな絶体絶命の状況だからこそ、主人公・朽井迅三郎達の一挙手一投足にドキドキされられるのだ。これが歴史漫画の醍醐味とも言える。

それにしても、私も元寇のことを学校で習った時、2回攻めてきて、2回とも神風が吹いて日本が勝った的な話をされ、「ほんまかいな」と思いながらも、当時は受け流していた。
しかし、よくよく考えれば、こんなに胡散臭い話はない。本作を読み進めながら、そのあたりの史実を教えてもらい、自分でも色々調べてみよう。本当に好奇心をくすぐりまくる作品だ。

ネットで最初の方が公開されているので、是非試し読みしてほしい!絶対全話読みたくなるはずだ!

蒙古襲来
作者:服部 英雄
出版社:山川出版社
発売日:2014-12
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  最近出たこの本とかも合わせて読むと、より楽しめそうだ。

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