「何回でも味わいたい感覚が残るマンガがいいような気がしてるんです。 」編集長の部屋(9)中編:ヒバナ 湯浅生史編集リーダー

菊池 健2015年05月05日 印刷向け表示
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編集長の部屋(9)ヒバナ 湯浅生史編集リーダー(中編)です。

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前編: 編集者にどんなに直されても、結局最後に残るものが作家の個性。

「編集長の部屋」コーナー9人目は、多くの名作、話題作を残しながらも、2014年惜しまれて休刊したIKKIの後継誌、ヒバナ編集部を率いる編集リーダーの湯浅さんからお話をうかがいます。

何回でも味わいたい感覚が残るマンガがいいような気がしてるんです。

――『IKKI』を総括したうえで、『ヒバナ』はどういった雑誌ですか。

そもそも『IKKI』を自分が引き継いで、『IKKI』を変えられたらいいなと思っていた部分がありました。それをより明快な形で最初から本にしたいなと思ったのが『ヒバナ』です。

自分がどういうものに快感を覚えるタイプかということもあるとは思うのですが、『IKKI』は、だんだん原始的な感情や肉体から浮き上がって、観念的になっていってしまったところがあったんじゃないかなと思っていました。

――なるほど、深いですね。 ヒバナのコンセプトを教えていただけますか。IKKIと比較した形でうかがいたいところです。

「編集者が作家と作りたいものを、どこまで我慢しないでそのまま出し切るか。」というところがIKKIのコンセプトだったんですね。江上さんは突然変異的というかワンアンドオンリーの作家さんが大好きだと言っていました。

元々は、『ビッグコミック』の各誌で、雑誌のコンセプトにはまりきらない若手の作家の作品、編集者が純粋に作りたいものを載せる場を作ろうとしたのが『IKKI』でした。

他の誰にも描けないものをとことんまで突き詰める作家が集まる雑誌を目指していました。そうすると、作家性をつきつめて洗練度が上がれば上がるほど、必然的にポップさから遠ざかる力が働きますよね。それでそこのところの感じが、そういった作品の塊である『IKKI』という雑誌から匂ってしまったのかもと思います。

――作家性を突き詰めていったらサブカルな、アナーキーみたいな部分みたいのが匂ってきちゃった感じですか。

かもしれないですね。同じ方向に向けて、よりとんがって細くなっていったみたいな感じがあって。自分は野太いものが好きで、脳みそで読んで脳みそで感動するものじゃなくて、もうちょっとおなかのあたりで感動するというか、シンプルなものが好きだったんです。

――小学館がIKKIをやめる決定をしたことは、ビジネス的なことだと思いますが、それとは別に湯浅さんはそういう感覚を当時のIKKIに持っていたんですね。

そうですね。あとこれは『IKKI』に限らず、例えばマンガ単行本一冊を「これ良いから、まず最後まで読んでみてよ」という薦め方は、読者にすごく集中力とかエネルギーを要求することになると思うんですよね。

最後まで読める人が味わえる感動は深くて、テーマもレベルが高いと思うんですけど、集中力なくても、もう、出オチ的に最初から嬉しいとか、もっと作品の早いところに感動が撒いてあるお話がやりたいと思いました。そう思うと、贅沢かも知れませんが、1話目から一番深いとこまで理解、感動して欲しいということですよね。

――これまで、そういう作品に出会ったことはありましたか?

あります。例えば、マンガや映画で、見終わった後である1シーンだけ覚えてたりしますよね。1シーンとその時の台詞とキャラの顔だけ覚えていて、シーンの前後のディテールは忘れてるけど、とにかくあれがまたもう一回読みたくなる!みたいな。

そういう、シーンが心に残るものがいいような気がしたんですよね。最後まで読んで理解したら、もうその前までを読む気がそんなに起こらないというマンガじゃなくて、何回でも味わいたい感覚が残るマンガがいいような気がしてるんですよね。

――なるほど感覚を味わうんですね。

講談社の『ヤングマガジン』でやっている平本アキラさんの『監獄学園』ありますよね。僕が一番感動したのは巻数が若い時期の、全然ダメっぽい男子たちがいて、女子が数でも権力でも圧倒的に勝ってる学校の中で閉じ込められてイジメ抜かれてるあたりでした。

女の子はエロいしギャグは面白いしっていうので、こっちは完全にリラックスして心が開放された状態で読んでいくんですよ。その完全に油断しきった僕の頭に、あるシーンで突然、虐げられた男たちの悲しみと友情がガツンと入って来たんですよね。油断していただけに、泣いちゃって。その、ボンクラたちの友情がガチガチな形で見えてきた瞬間に。「男子の友情」なんてどんだけ単純なテーマなんだっていうことなんだけど、いまさらさんざんいろんな物語を見てきてるし、なのにその果てになんでこんな単純な感情に、まんまと涙が出るほど感動しちゃうんだろうって、そのシンプルな感動みたいなものがめちゃくちゃに神々しかったんですよ。だから一度泣いたところを少し前から何回も読み直しました(笑)。

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大賞の上に連載確約の「特別大賞」を用意します。とにかく新人には連載作家になってほしいんですね。

―― 個性的ですね。『ヒバナ』は新人賞はどうされますか。

年に3回くらいのゆっくりしたペースなんですけどちゃんとやります。なんとか仕組みを作ってWEBでの応募もできるようにしてとか、あと多分「トキワ荘プロジェクト」さんにもお世話になると思うんですけども、出張編集部をやりにいろんなところに足を伸ばして出向いて行って、そこで「マンガを見てあげる」というよりは「狩りにいくぞ!」くらいのつもりで出かけて行って探しに行きたいと思っています。お願いするところですので、よろしくお願いします。

→→ ヒバナ 新人賞へのリンク ←←

――ぜひ一緒に行きましょう! わたしは、専門学校回りをしていますので。

『ヒバナ』の新人賞で「大賞」をとるとその作品は読み切り掲載します。また、大賞の上に連載確約の「特別大賞」を用意しています。とにかく新人には少しでも早く連載作家になってほしいんですね。

今は単行本にしないと、なかなか作品を世に問えない状況なので、受賞したらすぐに連載のプランに入ることを目指す考えなんですよね。

――『IKKI』は読者層を掴んでいますか。

『IKKI』の時ですか。男女は6:4、7:3くらいの割合で男が多かったです。一番多いところは30代かな。20代後半から30代ですね。

――それを踏まえて、『ヒバナ』でこうしていきたいっていうのはありますか。

『ヒバナ』はですね、青年誌なんですね。だから物語の作りも青年誌のつもりです。だけど基本的にはユニセックスなマンガ雑誌になると思います。

今は、純粋に作家さんを集めてみたら女性が多くなった、みたいなところがあるんです。あと、テンションの高い強い主人公キャラクターに、最初に反応するのは女性の読者だろうと思っていますね。

ここ数年、男性誌には男の辛さに対して優しくて、共感できるキャラクターが多かった気がするんですよ。自分自身そういうマンガが大好きですし、救われてきましたし。ですが、ヒバナでは共感本位じゃなくて、憧れに近い、わらっちゃう方向だったり、かっこいい方向だったりするいろいろなキャラクターを出していきたいと思っているので、その場合はまず女性が反応するんじゃないかと期待しています。

そして、女性が反応するとその後に男性が反応してくれるんじゃないかなという風に思っているところです。小学館全体として、ゴテゴテのヤクザものや、バイオレンスものってあんまりなくて、男性読者でも、ある種中性的な気がしています。そうすると、王道のヒーロー、ヒロインものをちゃんと読みたいと思ってくれる女性の読者からの反応が、ちょっと先にくると思っていて、それがさらに男性読者に波及するといいなと。

<中編ここまで>

後編: 自分と似ているかもしれない、五十万人いる誰かのために描いてほしい。

ヒバナホームページ

「編集長の部屋」過去の記事など目次

インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、番野

IKKI最終巻の表紙は、松本大洋さんだったんですねぇ。

月刊 IKKI (イッキ) 2014年 11月号 [雑誌]
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出版社:小学館
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