「自分と似ているかもしれない、五十万人いる誰かのために描いてほしい。 」編集長の部屋(9)後編:ヒバナ 湯浅生史編集リーダー

菊池 健2015年05月10日 印刷向け表示
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 編集長の部屋(9)ヒバナ 湯浅生史編集リーダー(後編)です。

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前編: 編集者にどんなに直されても、結局最後に残るものが作家の個性。

中編: 何回でも味わいたい感覚が残るマンガがいいような気がしてるんです。

「編集長の部屋」コーナー9人目は、多くの名作、話題作を残しながらも、2014年惜しまれて休刊したIKKIの後継誌、ヒバナ編集部を率いる編集リーダーの湯浅さんからお話をうかがいます。

とにかくキャラクタを作ってください。

――編集方針は言語化していますか。

とにかくキャラクターを作ってください。」と言ってますね。

キャラクターに会いたくなるマンガがいいなと思っていて。お話とプロットを愛でるためにキャラクターが動くんじゃなくて、キャラクターをとにかく味わいつくすためにストーリーがあるっていうくらいの感じで、みんな頑張ってと言っています。

――なるほどわかりやすいです。今回ヒバナにあたって原作物を入れるとか映像展開とかそこの部分で考えていることってありますか。

原作物では「妖怪ウォッチ」のコマさんのものがあります。『コマさん~ハナビとキセキの時間~』というタイトルです。コマサンは女性人気が高いということを担当もちゃんと感じておりますね。あとはマガジンハウスから出ているエッセイ作品を原作とした『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』です。

――大人向け妖怪ウォッチって面白いなと思うんですけど、何を狙ってる感じですか。

最初に読んでもらえるかなと期待するのは、20代30代の女性の読者ですね。ひとつは、これぞキャラものでしょ!っていうところ、もうひとつは、理屈抜きにかわいいとか理屈抜きにうれしいとか、最初にそれが来るマンガの一番はっきりした形みたいな感じですよね。

――編集部の方の構成として、今人数何人くらいなんですか。

関わっている編集者は10人くらいいます。完全に専業なのは僕を入れて6人?くらいです。

――なるほど、今の『ヒバナ』になってからもそうですし『IKKI』だったころも含めて普段来る新人に何か傾向みたいなものってありますか。

『ヒバナ』になってからまだ新人さんとお会いしてないんですけれども、『IKKI』だった頃は、「『IKKI』の編集者だったら自分のマンガを最後まで読んでくれるんじゃないだろうか」と期待してくる、どのジャンルにもはまらない売れ線でもないパーソナルなマンガを持って来ることが多かったですね。

のっけから否定されることはないだろうと思われてたんではないでしょうかね。実際に編集者たちはちゃんと細かく読んで、それが作品として成立するには何が必要か、ちゃんとアドバイスしていました。あと、ハードルが低そうだと思われていたかもしれないですね(笑)。

――逆に言うとそれ明らかに王道の人があんまりこなかったってことですか。能力バトルものとか。

それはやっぱり少なかったですね。作家の分身という感じの等身大キャラが出てきて、何とか頑張る!あるいは頑張り損ねる…みたいな感じのお話が多かったです。

――よく普通の雑誌とかで、新人が雑誌の作風と合わないと断られる話があると思うのですけども、逆に『IKKI』の人がそれを新人に言うことはあまりなかったということでしょうか。

少なかったと思います。でも、『IKKI』も終盤には尻に火がついてましたので、「この人才能ありそうだな」と思っても、果たして、自分たちにその人を売れるようにしてあげられる時間が残っているだろうかというところを、ちゃんと判断してて引き受けなきゃいけないという意識が大分強くなっていましたね。

自分と似ているかもしれない、五十万人いる誰かのために描いてほしい。

――『ヒバナ』ではどんな新人や作家さんにきてほしいですか

僕は、マンガ雑誌の部数がどんどん減ってきている時期に、運良く『ヒバナ』という場所を与えてもらうことができたという感覚があります。要するに、ちゃんと売らなければいけないということですし、ちゃんと売りたいっていう気持ちから目をそらさないぞっていうところでやろうと思っています。

ですので、新人さんには自分の個性を使って、売れるつもりで作っていくという気持ちを持ってやって欲しいですね。

――あえて言うと、他の雑誌もみんなそれを目指していると思います。新しい『ヒバナ』だと、どう違う感じになるのですか。

キャラクターに全力投球して欲しいということですね。新人作家はお話の構成などは、編集者との打ち合わせで最適なものを見つけられるだろうと思います。でも、キャラクターは100パーセント作家のものであって欲しい。だからそのキャラクターを生み出したんだと、そこにほぼ全力を使ってもらいたいです。

――『ヒバナ』ではどれくらいの割合で中堅と新人を入れようと考えていますか。

理想はヒバナの新人賞から出た新人が1年以内に2人、連載を始められることですね。

――今意識しているライバル誌やこれに勝とうと思っている対抗軸っていうのはありますか。

これが難しくて。昨年のヒバナ企画段階でも、社内あちこちおで「ライバル誌はどこだ?」と訊かれたのですけど、なかなかひとつの雑誌の名前が思いつかないんですよね。少女誌なので読者層が違うんですけれども、『別冊マーガレット』はかっこいいですよね。やりたいことやってウケてる感じがして。実際は綿密な計算とか確立したノウハウがあるのかもしれないですけれども、勢いがその計算を凌駕しているように見えちゃうような。

――電子コミックあるいは電子的な制作に関して何かありますか

『ヒバナ』本誌は2号目から紙版と電子版を同時配信しています。1号目は、2号目配信と同時に無料配信しはじめました。それと、『マンガワン』というアプリに配信したり、電子で読んでもらう方向をがんばりたいと思ってます。

――最後になりますが今新人である作家さんに対して湯浅さんが思うところ何かありますか

自分のためじゃなくて、自分と似ているかもしれない誰かのために描いてほしいって感じですかね。

――その心は!?

「自分のために描く」という考えは、やっぱり違うと思うんですよね。「こういう俺みたいな思いをしている俺みたいな気持を持っているやつがたくさんいるはずだ」って、まずはそれを想定してその人たちのために描くっていうのがやってほしいことですね。自分の何かを吐き出すためだけには描いてほしくない。

「読者のために描け」っていうと読者と自分を分けて考えてしまいがちだと思うのですが、自分と似たような感じ方をする読者が五十万人いて、だからその人そういう人たちのために描く。そうやって自分の外側に読み手を想定してほしいなって思いますね。言い方を変えると、自分と五十万人の人との共通の部分ってなんだろうと真剣に考えて欲しいです。「特別な自分」じゃなくて「普遍的な自分」を見つけて欲しいです。

編集長一押しのマンガ

――今湯浅さんが一推しの作品って何になりますか。出来れば、単行本の出ている作品でお願いします

ヒバナからまだ単行本が出ていないので、他媒体の作品になりますけど、東村アキコさんの『かくかくしかじか』……はマンガ大賞2015をとられたのでこれ以上僕がわーわー言ってもなんですから、『主に泣いてます』を推します。

単行本第2巻収録の第19話、ゆっこが「50音で入れろて言うてるやろがぁ」と絶叫するページがあるんですけど、ここに、このマンガのすごさが詰まってる感じがするんですよ。ストーリーって、論理で読ませるものだから、登場人物のセリフ自体も、つい論理的になっちゃいがちなんですよね。でも、人間が会話の中で吐き出す言葉って、論理じゃない言葉が多いはずですよね。このシーンの「50音で入れろて言うてるやろがぁ」は論理っぽい意味は全くすっとばしていながら、それ以外のテンションとか、気持ちとか、ゆっこの人間そのものが全部入ってる感じがするんですよ。

もう、読んだ時は興奮しちゃって、その少し前のページから何回も読み直しちゃいましたね。「頭」じゃなくて「心臓」で読まされた感じでした。このドライブ感を出せる東村さんは、本当にすごいと思っています。

主に泣いてます(1) (モーニング KC)
作者:東村 アキコ
出版社:講談社
発売日:2010-08-23
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<後編ここまで>

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インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、番野

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