『アルタイ』by 出口 治明

出口 治明2015年05月13日 印刷向け表示
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アルタイ
作者:ウー・ミン 翻訳:さとう ななこ
出版社:東京創元社
発売日:2015-01-29
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ルネサンスの工房を彷彿とさせるルーサー・ブリセット・プロジェクトの4人組が傑作「Q」を世に問うて10年。本書は、後継ユニット(ウー・ミン)の4人組が、「Q」のいわば続編として構想したものである。一般に、傑作の続編は退屈なものが多い。しかし、「アルタイ」はそうではない。全く独立した物語として、極上のエンターテイメントに仕上がっているのは、さすがという他はない。

ところで、アルタイは、スルタンの鷹匠の愛鳥(隼)の名前。「アルタイ相手なら何もする必要はない」「こいつの本能が、こいつを飛ばせ、獲物に爪を突きたてさせる。人間がやるべきは褒美をくれてやることだけなのだ」。

1569年、6月23日、老いたベアトリーチェがコンスタンティノープルで物語の幕を開ける。彼女はガリラヤで最期を迎えたがっている。第一部は「私の星」。ヴェネツィアの国営造船所が爆発する。ヴェネツィアの諜報部員マヌエルが、その出自(ユダヤ人)故にスケープゴートに仕立て上げられる。マヌエルは逃げて逃げてコンスタンティノープルまで辿り着く。ベアトリーチェの甥、大富豪のヨセフ・ナジが彼の保護者となる。ルドヴィコ(イスマエルと名乗っている)は、イエメンでナジ家の商売を取り仕切っているが、ベアトリーチェの手紙を読んで急いでガリラヤにかけつける。しかし、間に合わなかった。イスマエルは、その足でコンスタンティノープルに向かう。

第二部は「世界の修復」。全欧州のユダヤ人の保護者を自認するヨセフは、(旧約聖書のヨセフのように)スルタンのセリム2世に気に入られている。ヨセフは、マヌエルやイスマエルの助けを借りて、キプロスにユダヤ人の王国を建国しようと夢想する。つまり、迫害を受けているユダヤ人のために世界を少しだけ修復しようとするのだ。ベアトリーチェの娘でヨセフの妻であるレイナやレイナの侍女ダナ(マヌエルと恋愛中)が不安気に見守っている。夢を実現するためには、オスマン帝国が、ヴェネツィアと戦って先ずキプロスを奪い取る必要があるのだ。ヴェネツィアとの協調を望む大宰相ソコルルとヨセフは権謀術数の限りを尽くして戦う。ヴェネツィアの猟犬だったマヌエルを、ヨセフは隼のように上を向かせて飛ばした。戦いに邁進する男たちと平和を願う女たち。その争いの中でマヌエルはダナを失う。ダナもガリラヤに去る。

第三部は「ファマグスタ」。阿鼻叫喚の戦いが行われたキプロスのファマグスタ。そこでマヌエルとイスマエルが見たものは。そしてあのレパントの海戦が続く。男たちの夢の果ては。アルタイはどこへ飛んでいくのだろうか。1571年12月11日、万感の想いと共に物語の幕は閉じる。単に面白いだけではない。人はアルタイのように自由になれるのかどうか、読み終えて、深い余韻が残った。 

出口 治明
ライフネット生命保険 CEO兼代表取締役会長。詳しくはこちら

*なお、出口会長の書評には古典や小説なども含まれる場合があります。稀代の読書家がお読みになってる本を知るだけでも価値があると判断しました。   
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