『ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!』世の中で一番面白いゲームは?

2015年5月26日 印刷向け表示
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ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!

作者:4Gamer.net編集部
出版社:KADOKAWA
発売日:2015-04-24
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著者の川上量生は会社経営者として一般には知られているが、そのアイデンティティや考え方を構築したのはゲーマーとして過ごした時間であった。そのゲームというのは流行りのソーシャルゲームではなく、一世を風靡したファミコンでもない。戦略を練り、熟考を要するボードゲームやパソコンでのオンラインゲームである。だからといってはなんだが、立て続けに出版された他の著作より中身は深く広く、そして多い。560Pもある。Kindleなら1Pあたり約3円である。

タイトルの『ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!』は連載のテーマそのままで、まるでビジネス書のような煽りタイトルなのだけれど、ビジネス書を期待していると内容はいたって不真面目に感じるだろう。タイトルからかけ離れた内容である理由はゲーマーとしての自慢がしたいという不純な動機からはじまっているからだ。しかしその内容に予想以上に反響があり、連載は延長し、4年もの歳月を経て完結した。

各対談は冒頭から終わりまで既定路線をたどらず、予定調和がまったく感じられない。事前に決まっていたテーマから大きく話が逸れて盛り上がり、インタビュー時間の終わりが近づいてきて、突然、無理矢理に締めくくる。編集者が本当にまとめるのに頑張った本に違いない。しかし、これがこの本の面白さなのである。がちがちの段取りを組まないことで、予定調和からは生まれない面白さを引き出そうとしている。決まりきったストーリーと結論はなく、毎回の連載テーマから得られそうな内容の期待を裏切られ続けるが、どこか腹落ちする納得感がある。

その根底にあるのは、「分かりそうで、分からないもの」、という独自のコンテンツの定義かもしれない。なぜ「分かりそうで、分からないもの」に人は惹かれるのだろうか。それを語りだすときに、生物の「進化」や「順応」にまで話は飛び、分からないものを分かろうとする機能は生存競争の中で人間が獲得した特性ではないかと仮説立てる。理解の限度を超えたものは関係がなくなるが、微妙なもの、つまり「分かりそうで、分からないもの」は進化のために生き残りに有利なはずだから、記憶に留めておくようになった。分かるものは情報としての価値を失っていく。だから、普遍的な名作は原理的には存在せずに、時代や環境によって、コンテンツの有り様は変化していく。つい、納得してしまう解釈である。

ときにクリエーターは自分でも先の正解がないまま物語を描いていることがあり、それは読者にとっても正解が知り得ないことになり、それが分かりそうで分からないものになっている。作者でもどうなるかわからないドキドキ感やライブ感がコンテンツを面白くする。本書が面白い理屈が、期せずして説明されている。

さて、著者のゲーマーとしての真骨頂はゲームのプレイヤーとしてより、戦わないでよい、憎まれないおいしいポジショニングをゲームを俯瞰したところで築くことに発揮される。新しいゲームの遊び方を開拓する、メディアとして新聞のような媒体を発行する、廃課金者として大人気なく資金をゲームつぎ込みチームの士気をあげる、どれも視点がずれているので、自慢されても自慢されたように感じない。ちなみに、本書編集者である平氏が画期的なプレイスタイルを編み出し、著者をゲームのプレイヤーとして引退に追い込んだ張本人である。

ゲームの話と打って変わって、真面目な話になると、会員登録者数3000万人を超えるニコニコ動画とニコニコ超会議が話題の中心になる。サービスをつくるときには掲げたテーマは「Googleのようにコンピュータ中心ではなく、人間を中心にしたサービスを作ろう」 というスローガンだった。機械と人間の未来にまったく明るい展望を抱いておらず、さらにyoutubeという絶対的な覇者がいた動画共有サイトのフィールドで、長期的な競争で勝てるか、差別化できるかを徹底して考えた上でのサービスだった。

しかし、ニコニコ動画が成長していく中で、ニコ動がコンテンツ産業を破壊しているのではないかと考え、ニコ動にハマりすぎた人間が多数生まれて、日本の国力を失っているのではないかと懸念した。良い答えを見いだせず、売却しようかなと考えたこともあったそうだ。しかし、それはニコニコ大会議というイベントをやって、「これは日本のために凄く重要なサービスになり得る」と確信が持てた、ようだ。もちろん、その確信には独自の論理がある。ニコニコ大会議及び超会議が確信をもたせた理由は、3年連続でニコニコ超会議直後に開催された対談記事を読んでほしい。

あとがきを含めると24もの放談・対談があり、SF作家の藤井太洋とはかなり真面目な著作権の行く末やデストピアの話をし、ジャーナリストの津田大介とはその廃ゲーマー人生録を引き出すことに徹する。ドワンゴの社員との対談から、著者が社長らしい仕事をやっていなかったということが伝わってくるし、昔のドワンゴがどれだけ「き◯がい」な会社だったかが分かってしまう、そんなこと話していいのか、と読んでいるほうが心配になる。そして、対談のラスボスとして登場するのは任天堂の社長岩田聡。しかし、本書には未掲載であり、その顛末が記されている。

最後まで予定調和を許さない、分かるようで分からない本である。

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