イギリス人女性冒険家が見た江戸の最後『ふしぎの国のバード』

山田 義久2015年05月25日 印刷向け表示
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ふしぎの国のバード 1巻<ふしぎの国のバード> (ビームコミックス(ハルタ))
作者:佐々 大河
出版社:KADOKAWA / エンターブレイン
発売日:
  • Amazon Kindle

日本ほど女性がひとりで旅しても危険や無礼な行為とまったく無縁でいられる国はないと思う

この言葉を残したのは、イザベラ・バード
彼女は19世紀に活躍したイギリス人の冒険家・作家である。日本をはじめ、アメリカ、カナダ、中国(清)、朝鮮、シンガポール、ベトナム、インド、トルコ、ペルシャ、モロッコ・・・など、当時としては驚異的な数の国を訪れ、見聞きしたものを記録に残した。
本作は、その中の日本についての旅行記『日本奥地紀行』(Unbeaten Tracks in Japan)を漫画化したものである。

(原著の旅行記にも冒頭に富士山に関する記述があり、この何気ない見開きはそれを示唆する 出所:第1話 横浜)

彼女が、日本に到着したのは1878年5月(明治11年)。日本はちょうど文明開化が始まって、急速に江戸の文化が失われていく最中だった・・・とはいえ、それは都市部の話で、農村部はバリバリの江戸”
それを踏まえて、彼女は開けた街道を取らず、日本の奥地を抜け、北海道(当時は蝦夷)を目指し、アイヌ集落の生活を探ることを旅の目的に設定する。

彼女の旅行記の特徴は、まぁ~細かい。目に映るもの全部書き残しているんじゃないだいろうか、というレベルの細かさだ。あまりに細かいので、彼女の旅行記は今でもアイヌの方々の当時の生活を知る唯一無二の資料になっているらしい。

そして、この『ふしぎの国のバード』の作者・佐々大河さんは緻密で膨大な彼女の旅行記のなかから、特に興味深い当時の生活のディテールを選び描かれている。読み込んでいると佐々さんが原著に対して強いリスペクトを持たれていることを感じる。その気迫が当時の生活の雰囲気を紙面に宿させているようで、引きこまれる描写が多い。

例えば、当時の移動手段といえば人力車。と、いっても浅草駅前でスマイリーに話しかけてくれる現代のものは全然違う。
当時の人力車夫はあまりに過酷な仕事ゆえに、5年程で肺か心臓が重い疾患に罹りし、死ぬといわれていた。それもそのはず、優秀な車夫は時速6kmで1日80kmも走ることもあるとのこと。恰好にも気合入っていて、髷のある頭に手ぬぐいまいて上半身裸。そしてその上半身には肩から背中にかけて刺青が入っている。刺青は侠客だけのものという先入観を軽くたしなめてくれる。緻密な描写が当時の彼らの様子を余すことなく伝えている。

(浅草の観光ガイドもこの路線でいけばどうか 出所:第3話 粕壁)

心優しい町人・村人たちにサポートされながら旅は進んでいくが、やはり住居の衛生環境などは超絶イマイチだったようで、バード女史が宿の蚊帳に付着した蚤の大群に襲われる場面もあり、なかなか背筋がぞっとする。
一方、夜中に酒飲んでどんちゃん騒ぎする姿なんて、今の日本人とほぼ一緒だなと思うし、日光の陽明門なんて今とまったく同じものなんだな。。と。いろいろ現在と当時をいったりきたりしながら楽しめる。

(今と殆ど変らない日光・陽明門 出所:第4話 日光①)
 
"モノ"だけでなく、"人の心"なども含めて、「当時から変わっていないもの」、「今ではすっかり変わってしまったもの」を感じることができる作品だ。
実は原著を読むと、ところどころ辛辣な批判を加えている箇所もある。それも含めて今後どのような表現になるか楽しみだ。あたりさわりのない歴史もの漫画かな~と思ったらいい意味で裏切られること間違いない。
今一巻終わったところで日光まで来た。蝦夷までの道のりはまだ長い。
おススメ!
イザベラ・バードの日本紀行(上) (講談社学術文庫)
作者:イザベラ・バード 翻訳:時岡敬子
出版社:講談社
発売日:2008-04-10
  • Amazon Kindle
イザベラ・バードの日本紀行(下) (講談社学術文庫)
作者:イザベラ・バード 翻訳:時岡敬子
出版社:講談社
発売日:2008-06-10
  • Amazon Kindle

 この上下巻2冊がイザベラ・ハードの日本旅行記の完訳版。紙ベースで合計1000ページ近くある。

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)
作者:イザベラ バード 翻訳:高梨 健吉
出版社:平凡社
発売日:2000-02
  • Amazon
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  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂
  • HonyzClub

 『日本奥地紀行』単体は平凡社ライブラリーから。

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