我こそは中二病である(だった)!という人に読んでほしい。 遠藤 浩輝『EDEN 〜It's an Endless World!〜』

筧 将英2015年06月29日 印刷向け表示
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EDEN(1) (アフタヌーンKC)
作者:遠藤 浩輝
出版社:講談社
発売日:1998-04-21
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田舎の小学校中学校に育ち、その中でそれなりに勉強もできた私は、ちょっとした万能感も持っていました。私も多くの男子が通る“中二病(厨二病)”というやつだったんだと思います。

  中二病(ちゅうにびょう)とは、「中学2年生頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動」を自虐する語。転じて、思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄したネットスラング。「病」という表現を含むが、実際に治療の必要とされる医学的な意味での病気、または精神疾患とは無関係である。(wikipediaより)

幸いにも進学校に進み、まわりの優秀さから自分の限界を知ることで中二病は終わりましたが、今回紹介する作品は中二病時にどハマりし、中二病の期間を延長させた作品、『EDEN 〜It's an Endless World!〜』です。

2100年頃、世界にウィルスの大流行が起こり、帝国主義的な巨大政権が世界を握る近未来が舞台になっています。麻薬カルテルのボスを父親に持つ少年、エリヤの死闘と成長が描かれ、第1話(いきなり116ページ!)は主人公のエリヤの父、エノアの少年時代の物語、第2話以降でエリヤの物語となる構成。全18巻の中で、最初は幼かったエリヤがさまざまな経験を経て、(かなり悪どく)成長していくところが物語の見どころです。

物語全体として非常に難しい問題(経済格差や人種差別)を扱っており興味深いのですが、
それは完全においておいて、ここで紹介したいのは、中二を夢中にさせるくすぐりポイントです。
 

中二病くすぐりポイント①:戦争

 

男の子って銃とか戦争に興味を持つ時期ってありますよね。自分で手に入らないものに憧れたりするのがこのころの男の子。

この世界では、攻殻機動隊のように、全身義体、サイボーグになることができ、脳、脊髄以外すべてを機械にすることができます。多くのシーンで、人間の脳に線をつなぎ、それで何かを操作する、ロボットを操る、などが描かれます。もう、中二にはキュンキュン。上記はIQ210のソフィアが敵のハッカーが打つ24個のロケットをすべて解析して落とすシーン。

他にも第1話から登場する、ロボット「ケルビム」という自律学習式の並列処理型A・Iのロボットがいます。このケルビムによる戦闘シーンはけっこうグロいです。が、絵のタッチのおかげか、比較的拒否感なく見られると思います。
 

中二病くすぐりポイント②:命のはかなさ

中二病にかかるころって、自分の祖父母や親戚の方が亡くなったときに葬式にいくことで、死ぬことをリアルに想像する時期ですよね。そこで自分が生きていることを意識するというか。

この作品において生きること死ぬこと、その二つについてシンプルで、バンバン人が死にます。さっきまで出ていた主要キャラがあっけなく死にます。けっこうビックリします。多くの人が死んでいくことで、多くのキャラクターが貪欲に生きていくことが際立つ、そこに中二病の僕は惹かれたんだと思います。
 

中二病くすぐりポイント③:セックスセックスセックス

中二病なんてものは極論エロに目覚めたけれど、それが達成されないから起こるものだと思っているのですが、ここももちろんくすぐりポイント。

作品の時代背景的に、娼婦が多く登場します。序盤から登場するヘレナという主人公のお姉さん的存在が娼婦だったり、娼婦の職場で主人公が働いたりしているので、そのあたりの描写に遠慮がありません。

ということで、この漫画に多いのがセックスのシーン。毎巻出てくるほど多くはないのですが、妙に人間らしく描かれており、生と死を際立たせます。(画像はあえて入れなかったので作品でお楽しみください)

最大の中二病くすぐりポイント:あとがきの文章

中二病にはたまらない作品、EDEN。
でもこの作品の醍醐味は、実は違うところにあったりします。 

実はこの漫画の醍醐味はこのカバーの折り返しの文章です
(上記画像の右側にあるびっしり書かれた文章です)

まず読んでもらったほうがよいので、2巻分のあとがきをご紹介。

例えばTVの企業CMでよくある、赤ん坊を抱く母親の映像。「我々は環境のことを考えています。」「子供たちの未来のことを考えてます」というイメージ戦略だということはよくわかっている。それでも、仮に、その母子がオーディションで選ばれた赤の他人同士だと知ったら、僕たちはどう思うか?「裏切られた」とまでは思わないまでも、なんとも言えない疎外感を感じないだろうか?あたかも自分の中の「母子の愛」という幻想が商売に利用されてしまった、という。

そう僕たちは決して商品化されない「何か大切なもの」を持ちたがっている。それは「幼少期の感動」とか「日常の中のささいな喜び」とか「癒し」だったりするのだが、そんなの今や、映画やTVドラマや小説やマンガやゲームやポップミュージックの中ですっかり商品化されてしまっている。つまり「癒し」のような、本来商品化されるべきでないと思われていたものが商品化された時、「決して商品化されない、かけがえのないもの」が、より本物の「癒し」として高い価値を持つ。わかりやすい例は「性」だろう。売春、風俗、SM、コスプレ、フェチといった「商品化された性」が氾濫すればするほど、市場はいまだ開拓されていない“ピュア”な領域を求めて動き出す。

少年や少女の「これから経験する事」が、現実より先にドラマや映画の中で描かれる。それによってステレオタイプ化した陳腐な「喜怒哀楽」はパロディとして「笑い」の中で消費される。そして市場はいまだに「言葉に置き換えられていな“ピュア”な感情」を「植民地化」すべく動き出す。

僕は漫画家だ。言うまでもなく、先に述べた「感情の植民地化」の一端を担っている。つまり、「自分自身の切り売り」というヤツ。「自分で望んだことだろ?」と言われればそれまでだし、矛盾するようだが、「自分の中の大切な、かけがえのないもの」は他者に共有されないと生きている意味がなかったりもする。そう、コミュニケーションとしての表現の本質と、商品化は全く別の話だ。コミュニケーションは、あなたに一生消えない傷を負わせる事だってできる。「感動」?「切なくて悲しくて」?そんなものをお手軽に、漫画の中で得ようなんて、大間違いだ。


‘01年7月22日 遠藤浩輝

最近「平手打ち」を見ない。みんな、俺の見てない所で平手を打ってるの?俺の中で「平手打ちの似合う女=いい女」という定義があって、できればその後に「いくじなし!」の一言を付け足してもらいたい。「えっち!」でもいい。「変態!」でも構わない。本当に変態だと思ってんのなか、平手ではなく拳が、いやスタンガンの電流がおそって来るやもしれぬ。とにかく「平手打ち」とは闘魂注入なのである。「しっかりせんかい!」なのだ。「平手打ち」に似た技に「カラテチョップ」があるが、これに至っては、最近さっぱり噂が無い。

「チョップ」という、漢字に置き換えできない語感が弱そうに聞こえるからか、K-1でも総合系でも「チョップ」を使用している選手はいない。正確にはボクシングにはそういう名の打ち方があるらしいが、俺が言っているのは力道山のそれだ。辞書で引いたら「ぶった切る」という意味だぞ「チョップ」!「掌打」に敗けるな「チョップ」!話を戻そう。

アントニオ猪木と全ての女性には「平手打ち」をする権利がある。がしかし、「平手打ち」の似合う女は少ない。下手すると殴り返される。そのため、女性は「平手打ち」の後、目に涙を溜めて見つめ返す、という技が生まれる。こうなると相手の男は最早女を抱きしめる以外に道は無い。そしてペガサスの飛翔の様なセックスシーンに突入するのだ!そんなドラマツルギーが今、鋭く求められているような、ないような、そんな素振りだ、この時代。

自分の小学校時時代にも「平手打ち」の似合う同級生の子がいた。運悪くその子の隣の席だった俺は、歌の時間に歌詞を間違えては「平手打ち」、授業中に股間をいじるなと言われては「平手打ち」の毎日だった。きっと俺にホレていたのだろう、この文章の流れからいって。この彼女の「このクズ!」という言葉の裏には、「もうほっとけないんだから♥」という想いがあったのだと、そう解釈することが、今の自分にとって鋭く求められているのではないのか?あの「平手打ち」を喰った食後に抱きしめていたら、ひょっとして二人でペガサスの背に乗って光を放ちながら天に昇っていたのではないか?そう思って止まない32歳なのです。

‘03年1月18日 遠藤浩輝

いかがでしょうか。もうまったくマンガの中身とは関係無い(笑)

通常の作品のあとがきはあって数行、無いものもありますが、EDENに関しては、びっしり文字数で500〜1000くらいの内容が書かれています。ちょっとしたエッセイぐらいの分量です。

中高生からすると漫画を描いている筆者というのは非常に遠い存在です。(もちろんおとなになっても遠いは遠いですが、距離感はわかりますよね)つまり、通常は作品から何かを感じるしかないのです。しかしEDENの場合には、自分を夢中にしている作品を描いている筆者の考えを、「あとがき」から知ることができます

あとがきの中身は、作者の生い立ちに関する話が多く、子供のときに叔父の会社が倒産した話、遺産相続の泥沼の話、性癖の話、自己啓発的な内容もあったりしますが、「筆者の生きていく中で感じたこと」が書かれています。直接的には全く物語と関係がありません。

このあとがきが中二病患者にもたらすことは、「あんな作品を書いている筆者も、人間なんだ、悩みを持っているんだ」と知り、それにより絶妙な“信頼感”“親近感”をいだくことになります。そこにこの作品に夢中にさせる力があるんだと思います。

おとなの皆さんの楽しみ方ですが、あとがきで作者も作品を「自分自身の切り売り」といっているように、「作者の自分自身」がどう切りだされて、物語のどこにそれがあるのかを、あとがきを手がかりに見つけ出すというのが、レビューの役割として正しいと思います。

ただし、非常に残念なことですが、今回のレビューに際して、kindle版を購入しましたが、このあとがきは含まれていませんでした。ぜひ機会がある方は、紙で読んでいただければと思います。でもこの後書きがなくても非常におもしろい作品です。

中二病をくすぐる作品『EDEN 〜It's an Endless World!〜』でした。本当におすすめ。
 

EDEN(1) (アフタヌーンKC)
作者:遠藤 浩輝
出版社:講談社
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EDEN(2)
作者:遠藤浩輝
出版社:講談社
発売日:1998-10-20
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EDEN(3)
作者:遠藤浩輝
出版社:講談社
発売日:1999-05-19
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著者の短編集も非常におすすめ。 こっちもけっこうエロ描写多いです。

遠藤浩輝短編集(1)
作者:遠藤浩輝
出版社:講談社
発売日:1998-04-23
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 あと、著者が今連載しているのはこちらの作品。 格闘系で完全に毛色が違います。

オールラウンダー廻(1)
作者:遠藤浩輝
出版社:講談社
発売日:2009-04-23
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