夢はみんなで作る研究所! クマムシ博士の野望 『クマムシ研究日誌』著者インタビュー

柴藤 亮介内藤 順2015年06月12日 印刷向け表示
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地上最強の生物「クマムシ」を長らく研究されてきたクマムシ博士こと、堀川大樹氏。最新刊『クマムシ研究日誌』では、クマムシとの出会いから研究の最前線まで幅広く紹介されているが、将来的には「クマムシ研究所」の設立も目指しているという。今回は、クマムシ研究の未来について伺うべく、研究室へとお邪魔してきた。聞き手は、新編集長・内藤 順と新メンバー・柴藤 亮介。話は盛り上がり、予想外の方向へ...。※レビューはこちら

クマムシ研究日誌: 地上最強生物に恋して (フィールドの生物学)
作者:堀川 大樹
出版社:東海大学出版部
発売日:2015-06-02
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ー上半期は、お笑い芸人・クマムシが空前のブームとなりましたが、どのようにご覧なられていましたか?

クマムシ博士:いや〜 もう、ありがたい限りですよ。自分の愛するクマムシについて、ただで宣伝していただいているようなものですからね。何の研究をしているかと尋ねられた時にも、話の早さが全然違います。ちょうど昨年末、彼らがブレイクする直前に一度お会いさせていただいたりもしました。

ークマムシ博士は、大学4年の時に、「乾眠」と呼ばれるクマムシの復活劇を見て、クマムシ研究者へのキャリアを歩むことを決意したと伺います。あれから13年、現在はどのようなことに興味を持って、研究を進められているのでしょうか。

クマムシ博士:いま興味を持っているテーマは、クマムシがカラカラになっても乾眠で生き延びられるメカニズムを解明することです。クマムシを乾燥させても、水の代わりにさまざまな種類のタンパク質が細胞を守ってくれるため、乾燥耐性を獲得していると言われてます。しかし、乾燥耐性を持つと考えられている遺伝子を、ヒトの細胞に入れて乾燥耐性を保てるかというと、現時点ではまだ成功していません。まだ研究自体が入り口の段階なので、わからないことが多いんですよね。

もし将来的に、乾燥耐性を持つ「クマムシ因子」のようなものが見つかれば、クマムシのような耐性を持つ臓器を3Dプリンタ等で作ることも可能になるかもしれません。倫理的な問題はあるにせよ、ゆくゆくはクマムシ人間ができる日を夢見て研究しています。でもやっぱり、乾眠クマムシが水を吸って動く姿は何度見ても感動しますね。

ークマムシは知的好奇心を刺激する研究テーマであると同時に、再生医療など実用面におけるポテンシャルも高い分野ではないかと思います。にもかかわらず著書の中で、研究費獲得へ様々なハードルがあることを言及されていたのが非常に印象的でした。その原因は、どのようなところにあると思われますか?

クマムシ博士:以前、日本学術振興会特別研究員制度という文部科学省による若手研究者養成事業に応募した時には、クマムシのような耐性を持つ生き物は地球だけではなく宇宙まで含めた生態系を見て研究したら良いということを主張したんです。いわゆる宇宙生物学(Astrobiology)の範疇に収まるような話ですね。ただ、この分野自体の歴史が浅く、日本での研究者人口も少ないため、なかなか審査員の方々に話を理解してもらえなかったんです。

宇宙生物学の論文誌にも研究成果が掲載されたのですが、当時指導を受けていた先生にも「この雑誌はちゃんとした雑誌なの?」と言われたくらいです(笑) アメリカでは高校生でも宇宙生物学という言葉に馴染みがあるくらい広く知られているのですが、日本では新しい分野への理解が乏しく文化の違いを感じました。

ー日本とアメリカでは、新しいものに対する反応が大きく違うんですね。クマムシ博士の現在の活動を考えると、アメリカで独立したほうが活躍しやすい印象を受けましたが、なぜ日本で活動されているのでしょうか?

クマムシ博士:Mackenzie CowellというDIYバイオ(※)の世界的な先導者がおり、アメリカに留学していた2008年頃、彼から個人でバイオ研究を進めるアイデアを説明されたことがあります。ただその時はDIYバイオという概念が、なかなかピンとこなかったんですよね。起業家のようにDIYバイオのビジョンを語っていたのですが、どのようにビジネスにするのかが全く見えませんでした。質問をしても「これはビジネスじゃないんだよ!」みたいに言われたことを覚えています(笑)

ただ、フランスにいった段階(2011年)で、彼の真意がようやく理解できました。もし、アメリカにいた時におもしろいと感じていれば、そのままアメリカで活動している可能性があったかもしれません。ただ、ありがたいことに日本でもクマムシや僕を応援してくれるファンの方も増えてきて、そういう意味では日本でも活動しやすいですね。僕がプロデュースしているクマムシキャラクター「クマムシさん」のグッズを買っていただいている方も少なくないですし。
(※)DIYバイオ:組織の中ではなく個人でバイオ研究を進めていこうとする流れを指す。

ーもし、クマムシ博士がアメリカのDIYラボでプロジェクトを立ち上げるとすると、どのようなことが考えられますか?

ヨコヅナクマムシ

クマムシ博士:現在の日本での活動と同じように、クマムシのプロモーション活動をやりたいです。アメリカは比較的マーケットが大きく、話題性もあるので、活動の広がりを期待できるのではないかと思います。クマムシに興味のある方と一緒に採取活動を行ったり、標本作成方法を教えたりしてみたいですね。また、クマムシ展を開催するのもおもしろいと思います。そして何よりも、そういう環境で似た志を持つ仲間に囲まれることが、新しいアイデアを出やすくするのではないかと思います。

将来的に考えている「クマムシ研究所」は、大きな施設に白衣を着た研究者がたくさんいるというよりは、こじんまりした部屋に数名の研究者がいるようなものをイメージしています。でも、それですらなかなか実現が難しい現状です。「お金はいらないよ。研究ができれば良いよ。」という市民研究者が増えれば良いのですが、土日に趣味で研究をするような人も日本ではあまりお目にかかれません。というより、バイオ研究の場がないので、やりたくてもできないんですよ。

NASAでは、ある朝いきなり知らないおじさんが来て、ボランティアで研究していることがありました。連続起業家で10個くらい会社を起こして、ロケットのエンジン開発をしていた人のようです。このようなアメリカでの「ムーブメント」を日本でも起こすことができれば変わってくると思うのですが…。

ー近年、オープン・サイエンスの動きが注目されていますが、ネット上で人々の人的・金銭的サポートを受けながら、研究を進めていく方法をクマムシ研究に適用すると、どのようなことが可能になりますか。

クマムシ博士:人的なサポートという面では、YouTubeなどでクマムシをつかまえる方法を配信して、全国の方々にコケを採取してもらい、研究所に送ってもらったりするのも面白いですね。解析に時間はかかりそうですが…。また、研究資金的なサポートとしては、クラウドファンディングに注目しています。

たとえば、雲仙に生息するとされる「オンセンクマムシ」というクマムシがいます。クマムシって、ぶよぶよしたタイプとカッコ良いタイプの二つに分かれているのですが、オンセンクマムシはその中間のタイプなんですよね。ただ、このオンセンクマムシを記載した元の論文には問題点があったり、実際の標本もないんです。なので、クラウドファンディングで研究資金を募り、そのリターンとして「オンセンクマムシ採取+いろんなクマムシを記載しようツアー」といったことが出来れば、結構面白いのではないかと思います。 

academist(※柴藤が運営しているクラウドファンディングサイト)で研究資金が実際に集まっている様子をみて、日本もまだまだ捨てたものではないなと思いました。時間はかかりそうですが、これからの「ムーブメント」を作っていけるように、クマムシ研究とそのプロモーション活動を頑張っていきたいと思います。

ーさてクマムシ博士は、読書もお好きだと伺いましたが、最近面白かった本は何でしょうか?

クマムシ博士:”ニート”で有名なphaさんが書かれた『持たない幸福論』ですね。新刊にこだわらなければ、『バイオパンク』も面白かったです。先ほどお話したMackenzie Cowellも、本書に登場しているんですよ。

バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!
作者:マーカス・ウォールセン 翻訳:矢野 真千子
出版社:NHK出版
発売日:2012-02-21
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ーおっ イケますね! では、HONZにも書評を書いてもらえませんでしょうか?

クマムシ博士:考えておきます(笑)

クマムシ博士のような独立系の研究者は日本国内でまだ少ないし、DIYバイオに関しても普及しているとは言い難い状況だ。しかしクマムシ博士の取り組みをはじめ、学術研究における「ムーブメント」は少しずつ起きている。誰もが、好きな時に、好きな研究に参加できるような日は、意外とすぐに訪れるのかもしれない。

そして後日クマムシ博士から「HONZメンバーになります」との回答が。クマムシ博士の書評は後日公開予定。乞うご期待!
 

堀川 大樹 1978年東京都生まれ。2001年からクマムシの研究を続けている。北海道大学で博士号を取得後、NASA宇宙生物学研究所やパリ第5大学を経て、現在慶応義塾大学SFC研究所上席所員。クマムシ研究の傍ら、本を書いたりクマムシキャラクター「クマムシさん」のプロデュースをしている。ブログ「むしブロ」、有料メールマガジン「むしマガ」を運営。 

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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出版社:中央公論新社
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