高校生の甘酸っぱい三角関係をフィボナッチ数列が紡ぐ。なさそうで存在した数学恋愛マンガ「数学ガール」

工藤 啓2015年06月19日 印刷向け表示
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数学ガール 上<数学ガール> (コミックフラッパー)
作者:日坂 水柯
出版社:KADOKAWA / メディアファクトリー
発売日:2008-11-22
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数学ガール 下<数学ガール> (コミックフラッパー)
作者:日坂 水柯
出版社:KADOKAWA / メディアファクトリー
発売日:2009-07-23
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 放課後の図書館。数式展開を続ける「僕」の前に突然現れたミルカさん。彼女は僕に数学しか口にしない。それに対して僕も数学で答えていく。

「1,1,2,3,5,7,13,21,…」

1,1,の後、ふたつの数を加えたものが次の数になる「フィボナッチ数列」を活用した4つの数列クイズ。ミルカさんの口から紡がれた数列は、

「6,2,8,2,10,18,12,10,6,…」

ひどい問題だと言いながら、「十進法展開した円周率πの各桁を2倍した数列である」と答えた僕に、ミルカさんはそっとキスをする。

そんな僕に思いを寄せる一つ下の後輩であるテトラちゃん。算数は得意であったが、中学、高校と数学が苦手になっていく。テトラちゃんは放課後、僕のもとに教科書やノートを持って相談にくる。数学と、”僕とミルカさんの関係”のどちらもわかりたい一心で。

「素数って知ってる?」とテトラちゃんに聞く僕は、【例示】と【定義】の違いを語りつつ、「正の整数Pが、1とPのみで割りきれるとき、Pを素数と言う」ことができるかどうかを話す。

「正の整数Pが、1とPのみで割りきれるとき、Pを素数という。ただし1は除く。」をひとつの例として示した僕に、テトラちゃんは顔を赤らめながら問うのだ。

「正当な理由、原理的説明、論理的証拠を示してほしい」と。

僕はテトラちゃんに、素因数分解の一意性について優しく理解を促していく。言葉を厳密に、大切にあつかう数学について語る僕の傍で微笑むテトラちゃん。彼女の椅子が突然蹴り上げられる。

何が起こったのかわからないまま床に座るテトラちゃんなど初めから存在しないかのように、「1024の約数の和」の回答を求めるミルカさん。僕は戸惑いながらも「2047」と答える。


数学ガールは参考書ではない。ゆえに、私のように数学が不得手な人間が一度読んだところで「数学ができるひと」にはなれない。むしろ、僕とミルカさん、そしてテトラちゃんが織りなす思春期的な恋愛三角関係に懐かしさを感じながらも、避けて通って来た数式や公式がノイズとして繰り返し「数学ができない自分」を現実に引き戻す。

中学、高校時代、想いを寄せる相手と「世界でたった二人だったら」と妄想したことはないだろうか。自分の部屋に二人だけだったら。どこかの小さなアパートで二人暮らしていたら。無人島に二人だったら。妄想するのは勝手であり、勝手に妄想して盛り上がっていたあの頃。

僕とミルカさん、テトラちゃんの関係性に、「僕」も似たようなことを想う。

「世界に人間がたったふたりしかいないなら、人間の悩みは随分減るんじゃないだろうか」

そんなことを図書室でぼんやりと考える僕のナナメ前にちょこんと座る数学ガールは言葉をかける。

「<世界に素数がふたつだけなら>という話をしよう」

※フィボナッチ数列にまったく関心はないが、「フェルマーの最終定理」や「ゲーデルの不完全性定理」なら話は別、という方にはこちらがおススメです。
 

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