『ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか』 訳者あとがき&内容の一部紹介

早川書房2015年06月23日 印刷向け表示
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質問.地球にいるすべての人間ができる限りくっつきあって立ってジャンプし、全員同時に地面に降りたら、どんなことが起こりますか?

──トマス・ベネット(ほか大勢のみなさん)

答.これは、私のウェブサイトに大勢の読者から投稿される質問のなかでも、最も頻繁に来るもののひとつだ。〈ScienceBlogs〉や〈The StraightDope〉など、よそのサイトでもすでに検討されている。それらのサイトでは、運動学的側面についてはかなり詳細に論じているが、見過ごされている点もある。

では、本題に入ろう。

この質問の出発点では、地球のすべての人間が、何らかの摩訶不思議な方法で1カ所に集められている。

この一団は、ロードアイランド州くらいの広さの場所を占める。だが、「ロードアイランド州くらいの広さの場所」などという曖昧な言葉を使う必要もないだろう。ここでは具体的な話として進めていこう。彼らは実際にロードアイランドに集まったのだとしよう。


正午の時報と同時に全員がジャンプする。

他サイトでも論じられているように、全員で同時にジャンプしても地球にはほとんど何の影響もない。地球は人間全員を合わせたよりも10兆倍も重い。人間はだいたい、調子のいい日なら、上に向かって垂直に50センチメートルほど跳べる。仮に地球が剛体(力が作用しても変形しない、仮想的な物体のこと)で瞬時に反応したとしても、原子1個分も押しやられはしな
いだろう。

次の瞬間、全員が地面に戻ってくる。


理屈のうえでは、これによってかなりのエネルギーが地球に与えられることになるが、そのエネルギーはかなりの広さの面積に広がっているので、せいぜいあちこちの庭に足跡が付くぐらいのものだ。小さなパルス状の圧力が北米大陸部分の地殻全体にひろがっていき、ほとんど何の影響も及ぼさずに薄れて消えてしまう。みんなの足が着地したときには、大きな音が
鳴り響き、それは何秒か続くだろう。

やがてあたりは静まる。

数秒が経過する。全員があたりを見回す。

気まずい雰囲気が漂い、みなちらちらと他の人の様子を窺う。誰かが咳払いをする。

誰かがポケットから携帯電話を取り出す。数秒のうちに、世界中の50億台の携帯電話が取り出される。そのすべてが──この地域の中継局の信号を受けられるものも含めて──「圏外」「NO SIGNAL」など、信号が届いていないことを示す表示になる。携帯電話のネットワークがすべて、前例のない負荷でダウンしてしまったのだ。ロードアイランド以外の場所では、放置された機械類が次々と停止しはじめる。

ロードアイランドのウォリックにあるT・F・グリーン空港は、1日当たり数千人の旅客を扱う。この空港が必要な段取りを整えて(燃料を探し回り調達するための人員を派遣することも含めて)、通常の500パーセントの処理能力で数年間稼動したとしても、集まった人間の一団が目に見えて縮小することはないだろう。

近隣の空港が数カ所協力しても、事態はほとんど変わらない。このあたりの路面電車にしてもそうだ。人々がプロビデンスの深水港に停泊しているコンテナ船に乗り込んでも、長い船旅に備えて十分な食料と水を搭載するのは難しい。

ロードアイランドの50万台の自動車が略奪される。まもなく、州間高速道路I-95、I-195、I-295では地球史上最悪の交通渋滞が起こる。ほとんどの車は群集に囲まれてしまうが、幸運な数台はこれを抜け出し、もはや誰にも管理されていない道路網をさまよいはじめる。

ニューヨークやボストンを越えられる車もあるだろうが、やがてガス欠で止まってしまうだろう。この時点では電気は通じていないだろうから、ガソリンスタンドで稼動している給油機を探すよりも、乗っていた車を捨てて、別の車を盗んだほうが早くて確実だ。あなたを制止する人などいない。警官は全員ロードアイランドにいるのだから。

広がった群集の先頭部分は、マサチューセッツ州南部とコネチカット州に達する。このなかで誰と誰が出会おうとも、その2人が共通の言葉を話す可能性はほぼ皆無だし、この地域を知っている人もほとんどいない。局所的に社会階層のようなものができてはすぐ崩壊し、混沌とした状況になる。暴力がはびこる。誰もが食べ物と飲み物をほしがっている。食料品店はみな略奪され空っぽになる。新鮮な水はほとんど見つからない。そして、この状況を打開する有効なシステムはまったく存在しない。

数週間のうちに、ロードアイランドは数十億の人間の墓場となる。

生き残った人々は、世界中に散らばり、古い文明が完全な瓦礫と化したうえに、新たな文明を構築しようと苦しい努力をする。人類はどうにかこうにか存続するが、人口は劇的に減少するだろう。地球の軌道は何の影響も受けぬまま、人間が種全体としてジャンプする前と少しも変わらず回転しつづける。

しかし、少なくとも私たちは、人間全員が一度にジャンプしても地球の回転はまったく変わらないということを学んだ。

ホワット・イフ?:野球のボールを光速で投げたらどうなるか
作者:ランドール・ マンロー 翻訳:吉田 三知世
出版社:早川書房
発売日:2015-06-24
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