「キライキライもスキのうちだよ(笑)」と言ってくる奴に殺意が沸くあなたへ『私の嫌いなおともだち』

園田 菜々2015年07月17日 印刷向け表示
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私の嫌いなおともだち (ひらり、コミックス)
作者:雁 須磨子
出版社:新書館
発売日:2015-02-28
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悲しいかな。
「好き」という感情は、必ずしも好意的に受け止められるものではありません。心の底から言った「好き!」も、相手にとってはゴキブリ同然の不快感をもって受け止められるかもしれない。そりゃ当然のことかもしれませんが、やはり残酷だなあとも思います。

いくら想っていたとしても、その量だけでは相手の心に手も足もでない。どれだけ一途に想い続けても、逆に「ストーカーだ」と嫌われてしまうかもしれない。好きという感情は不安定で、大波に揺られる小舟のように、一度転覆してしまえば、途端に様相を変えてしまいます。1秒前の「すっごい好きなの!」が、突如「まじで死ねばいいのに(笑)」に変わってしまう世界。

ただ、嫌いでい続けるというのは、体力も手間も根気もいるなあ、と感じます。なぜって、1日中その嫌いな相手のことを考えたり思い出しては、心を揺り動かして腹を立て眉間にしわを寄せて口をへの字に曲げなければならないわけですから。阿呆らしいことこの上ないです。

でも最近、人を嫌いになってしまうこと、それ自体は実はすごく「可愛らしいこと」なのではないか?と、思うことがあります。そのきっかけともなったのが「私の嫌いなおともだち」という漫画。雁須磨子初のガールズラブ短編集です。相手に対して言葉にならない悶々とした感情を抱きつつ、何故かサクッと縁を切ることができない、そんな不憫な女の子たちの物語が詰まっています。

嫌う少女は動かない(立花マナの場合)

本作の表題作でもある「私の嫌いなおともだち」は、どこにでもいそうな女子高生マナと、クラスメイトの美少女茜の物語です。席が近いからという理由で同じグループに属すことになったマナと茜。とにかく、茜の性格が悪い。


 

我が道を行くといった感じで、嫌われるかどうかはあまり気にしてもいないような珍しい女の子で、まあ案の定グループからは仲間はずれとなります。

マナは、というと、離れない。決して好きじゃないはずなのに、なぜか茜の近くにい続けるのです。

茜に見つめられると、途端に固まってしまうマナ。それは日々の行動ともつながっていました。

じっと、茜のそばにいる。主体性がないといえばそれまでですが、心の中は茜の挙動一つで大きく揺れ動きます。

そして、茜に心を捕らわれているのは、グループの女子たちも同様です。離れるという選択をしたのはあくまで物理的な意味であり、心自体はまるで茜から離れられてはいなかったのです。

茜を嫌う女子たちとは対照的に、茜は自由自在に動き、思うがままに生きていきます。その良くも悪くも強い引力に、彼女を嫌う人はただじっと、完全に足場をうばわれないようにと踏ん張ることしかできない。

皮肉なことに、それほど強いパワーをもった人を嫌うというのは、いざその人に好意を寄せられると、途端に嫌いという感情が消え失せてしまったりするものです。

嫌いな人を一瞬好きになるときの世界の華やぎ。マナは常に茜の一挙一動に暗澹として、華やいで、苦しくなって……はたから見ているとどこか幸せな生き方のように思えてしまうのはなぜでしょう。

嫌う少女はじっと見る(タマの場合)

本作表題作の2話目「私の嫌いなおともだち2」は葉美という共通の友人を介して出会ったタマとスズの物語です。タマとスズは二人ともボーイッシュないでたちで、葉美に心寄せているという似た者同士。似た者同士は仲良くなるか反発し合うかの両極を行く気がしますが、タマとスズは完全に反発しあうこととなります。まあ、好きな子が一緒の子と仲良くなるというのも、なかなかないような気はしますが。

少しはにかんで笑う葉美に彼氏ができ、疎遠になった二人。しかし、タマが働いている喫茶店にスズが偶然訪れることで再会を果たします。スズが連れていたのは、葉美によく似た女の子でした。

似た者同士といいつつ、スズの方が少し子供で面倒臭い性格をしています。そんなスズにイラつきながらも、タマはスズの表情をみて、スズ以上に彼女の気持ちを推し量ることができるようになります。

まあそして、タマがスズの恋のために一肌脱ぐわけですが。とりあえず、私は「タマ、お前なんて男前なんだ…」と言って悶えつつ本を一旦閉じました。


嫌う女性は「好き」を待つ(真紀の場合)

「彼氏のDVに疲れ果て、ちょっと癒されたいから」という春子のトンデモな理由から、真紀は春子と付き合うこととなります。しかし、最近の春子さんはちょっと様子が変。なんだか上の空で、真紀のことは二の次。真紀はどこかモヤモヤとした不安に悩まされます。


 

キスをされたら一瞬機嫌は直りますが、不安な気持ちは消え去ることはありません。

 

試しに想いを寄せてくる男性と一緒に食事をしても、やはり心が動くことはありません。

春子は相変わらずの態度ですが、しかし真紀の気持ちは離れることはありません。それは、真紀がある秘密を知っていたからなのですが。

自分の心をいたずらにかきみだす恋人に、嫌いになりそうになりながら、「好き」と一言言われたら、あらゆる全ての意地悪も真紀の前からは消え去ってしまうのでしょう。

嫌うあの子はいじらしい

行き所のない怒りやもやもやに苦しみつつも、いざ相手に好意を寄せられると、何だか無性に嬉しくなってしまう。嫌いな相手を、一瞬好きになってしまうときの世界の華やぎが、この作品にはたくさん散りばめられています。
嫌いだと思いつつも、「あいつ」でも「他人」でも「ただの友達」でもなく、「おともだち」でい続ける。そして相変わらず心は掴まれたまま。
「嫌い」という感情は、実は「好き」という気持ち以上にいじらしくて健気なのかもしれないと思ってしまう。

嫌いの応酬を繰り広げる光景が、はたから見たら実はこれほどまでに微笑ましいのかもしれない。これってちょっと希望ではないでしょうか。嫌い合っている二人は、実は健気に相手のことを想い合っている
……当の本人に言ったら「うるさい、黙れ」の一言で一蹴されてしまいそうですが。

ガールズラブはちょっと…という方、雁須磨子さんは他にもたくさんの名著を生み出している(というか外れがない!)ので、ぜひ他の作品で雁須磨子デビューしてみてはいかがでしょうか。いくつかおすすめ作品をご紹介しますね。

「名前をつけて保存しますか?」

名前をつけて保存しますか? (KCデラックス BE LOVE)
作者:雁 須磨子
出版社:講談社
発売日:2015-07-13
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 家族関係をこじらせてしまって悶々としている人にオススメ。私は序盤から泣いてしまって、「雁須磨子は天才か」と再確認しました。雁須磨子は天才です。

「こくごの時間」

こくごの時間 (A.L.C.DXもっと!)
作者:雁須磨子
出版社:秋田書店
発売日:2015-02-16
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 雁須磨子の引き出しの多さに驚かされる作品。押しも押されもしない名作の魂を、雁須磨子ワールドによって、みごと現代に甦らせています。高木さん日比くんカップルには末長く幸せになってほしい。

「じかんはどんどん過ぎていきます」

じかんはどんどんすぎてゆきます (F×COMICS)
作者:雁 須磨子
出版社:太田出版
発売日:2002-10
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 ちょっとHでおばかで可愛い、THE雁須磨子作品。タイトルがいいですよね。

さらっと心の痛いところをぐりぐりとえぐってくる作品ばかりで、なんというか足つぼに行った後のような謎のすっきり感に満たされます。心のデトックスに、ぜひ雁須磨子作品をどうぞ。
 

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