今週の予告SOLD OUT:2015年8月16日週
- ソマリランドと喧嘩両成敗

内藤 順2015年08月22日 印刷向け表示
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「面白そう!だけど買えないっ!」でおなじみのこのコーナー。今週はヤル気満太郎です。なんといってもHONZで好評連載中の『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(略してセカムロ)の発売を目前に控えているわけです。あの歴史に残る大技「予告SOLD OUT」を繰り出すなら今週しかない!という絶好の機会が到来しました。

世界の辺境とハードボイルド室町時代
作者:高野 秀行、清水 克行
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2015-08-26
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ただ、ここで一つ大きな問題が生じます。巷で話題の「お前、得意気に予告しているけど、レビュー書いてないじゃん」問題です。このままだと原稿の名義人である「集英社インターナショナル」さんが幻の奥義の使い手ということになってしまうのですが、先方としてもさぞやありがた迷惑なことでしょう。つい先日も担当編集の方に「そろそろ、重版かけちゃいましょうか」と意味不明の指令を出して、苦笑いされたことは記憶に新しいです。

そこで、今回は『世界の辺境とハードボイルド室町時代』のきっかけとなった二冊の本を中心に関連書籍を紹介することで、やってる感を存分に演出していきたいと思います!

謎の独立国家ソマリランド
作者:高野 秀行
出版社:本の雑誌社
発売日:2013-02-19
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『謎の独立国家ソマリランド』は、高野秀行がアフリカ東北部のソマリア共和国へ赴き、現在に至るまでの成り立ちを追い求めた冒険記である。長らく無政府状態が続くソマリア共和国の中で、まるで天空の城ラピュタのように平和を維持する独立国家ーーーそれがソマリランド共和国の正体であった。

今回あらためて『謎の独立国家ソマリランド』を読み返してみると、既に『世界の辺境とハードボイルド室町時代』へのレールがビシバシ引かれていたことに気付かされる。こういう再発見が、新刊から旧刊へ遡っていく時の醍醐味と言えるだろう。

ソマリア内戦も応仁の乱も共通しているのは戦争の中心地が都だったことだ。普通、ある場所で戦争が行われた場合、そこが荒廃すれば、他の地域に舞台は移る。でも都が主戦場になると、いくらそこが荒廃してもどちらかが完全制圧するまで舞台が移らない。

この一節に見られる「空間から時間への変換」が、不特定多数の対象を追いかける時に発揮される、高野秀行の真骨頂である。さらに驚くのは、応仁の乱との類似性に気付きを得ながら、細川勝元と山名宗全の知名度に配慮して、もう一段階「時間から時間への変換」を施しているところだ。

かくしてソマリア戦国史は、室町時代から平安時代へとタイムスリップし、ソマリランド、海賊国家プントランド、戦国南部ソマリアの三カ国が、藤原氏、源氏、平氏になぞらえながら描かれていく。これだけで、ただの記号のようなソマリアの氏族たちは、よく見知った文脈の上に置換される。

戦国時代や内戦状態の国は、その混沌さから複雑きわまりない状態に感じてしまいがちだ。この混沌を無秩序と捉えてしまうと何も見えてこないが、多秩序と捉えるところがポイントである。空間を時間に変換することはそれぞれのパワーバランスや攻防を見極めやすくし、その中から人の心の機微が見えてくるのだ。(※HONZのレビューはこちら → その1その2

喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)
作者:清水 克行
出版社:講談社
発売日:2006-02-11
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一方で清水克行の『喧嘩両成敗の誕生』。こちらの本は未読であったのだが、もっと早く読むべきであったという後悔の念が尽きない。今の日本社会に脈々と受け継がれてきた「喧嘩両成敗」という民事トラブルのソリュ−ション。これがどのようなプロセスを経て形成されてきたかを、徹底的に解明した一冊である。

時は室町時代にまで遡るのだが、京都という場所を基点にすることで様々なものが見えてくる。京都という都市はそれまでも公家や自社の拠点であったわけだが、室町時代から新たに武家も政治拠点にし始めた。

その結果、京都は公・武・寺・社、それに一般庶民という異なる多様な社会集団がひしめき合う場と化したのである。ただでさえ血気盛んで、復讐心も強かったと言われる室町時代の人々。多様な社会集団が入り混じれば、トラブルが頻発することは想像に難くない。

そしてこれらが解決されるまでのメカニズムを見ていくうえでも、場所の視点は欠かせないものになる。

縁もゆかりもないにもかかわらず、お尋ね者を屋形の主人が匿ったという話が、この時代においては枚挙にいとまがなかったという。そして、どれだけ凶悪な犯罪を犯したものでも「たのむ」と言われれば主従の関係こそ発生するものの、イエの中に匿うことが常であったのだ。

このように、当時のイエという空間は公権力も介入できない特有の場所であったことが推察される。また、これ以外にも神社の境内なども聖域(アジール)され、幕府の侵犯を許さなかったという。

これらの事実から分かるのは、制定法の及ばない空間があちこちに存在し、公権力も多様な価値の一つに過ぎなかったということである。それゆえ当事者同士が紛争を解決することを余儀なくされるケースが多く、結果として喧嘩両成敗が成立してきたのだ。

中でも「やられた分だけやり返す」というのみならず、「やられた以上のやり返しを戒める」という抑止的な意味合いを持っていたことからは、喧嘩両成敗の意外な一面が垣間見えた。

時代を空間的に見ていくことで浮かび上がってくるのは、さまざまな法体系の中で複数の秩序が揺らぎながら、ある一点に着地したということである。実践知の中で最大公約数的なところに落ち着いたプロセスを見ていく中に、きっと室町時代特有の面白さを見出すことが出来るだろう。

高野秀行と清水克行。それぞれがソマリランドと室町時代にどっぷり入り浸りながらも、現代日本との間に優劣をつけることなく、空間・時間の相対化を楽しんでいる様子が伺える。

「日本はダメだ」や「昔は良かった」ではなく、特有の衡平感覚で違いそのものをセンス・オブ・ワンダーと捉える感受性、違いのルーツを冒険しながら追い求めていく点において、両者の姿勢は重なりあう。

そしてこの二冊を読めば、高野秀行氏と清水克行氏が同じようなものを逆方向から見ており、まるで必然のように『世界の辺境とハードボイルド室町時代』(略してセカムロ)が生まれたことが理解できるだろう。 

さらに、この他にも関連書籍はまだまだある。好き勝手に組み合わせて、自分自身の手で魔球対決を演出してみるなど、ディープな読書にどっぷりと浸っていただきたい。

ミャンマーの柳生一族 (集英社文庫)
作者:高野 秀行
出版社:集英社
発売日:2006-03-17
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ちなみに、空間→時間の変換能力は『ミャンマーの柳生一族』でも遺憾なく発揮されている。ミャンマーの軍事政権を徳川幕府に変換するあたり、目から鱗が落ちる思いだ。
 

耳鼻削ぎの日本史 (歴史新書y)
作者:清水 克行
出版社:洋泉社
発売日:2015-06-04
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中世における刑罰としての耳鼻削ぎの事例を追いながら、その中に優しさも見出す。麻木久仁子のレビューはこちら

幻獣ムベンベを追え (集英社文庫)
作者:高野 秀行
出版社:集英社
発売日:2003-01
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日本神判史 (中公新書)
作者:清水 克行
出版社:中央公論新社
発売日:2010-05-25
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アヘン王国潜入記 (集英社文庫)
作者:高野 秀行
出版社:集英社
発売日:2007-03
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大飢饉、室町社会を襲う! (歴史文化ライブラリー)
作者:清水 克行
出版社:吉川弘文館
発売日:2008-06

⇒次回予告:まさかのボスキャラが登場。伝説の奥義を取り戻せ!

HONZ編集長 内藤 順

※アマゾンの在庫状況は執筆時点のものです

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