人を信じる強さを僕に もののけを信じる強さも僕に『夏目友人帳』 だれも生きることをあきらめてしまわぬように

岡田 篤宜2015年08月29日 印刷向け表示
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夏目友人帳 (1) (花とゆめCOMICS (2842))
作者:緑川 ゆき
出版社:白泉社
発売日:2005-10-05
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  • 紀伊國屋書店
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 このマンガを読んでほしいのは、「挫折から立ち直りつつある人」です。挫折から立ち直りつつある人は、挫折した理由を考え、自分を変えようとしてきた人たちだと思います。その過程には、これからの人生に意味を持つ「出会い」を経験した人もいるはずです。

「出会い」を繰り返しながら、立ち直ってゆくこのマンガの主人公を見て、きっとあなたは「あの人に出会えてよかった」という気持ちになります。読み終わったら、その大切な誰かへの感謝の気持ちで「あたたかい」気持ちになっています。『夏目友人帳』はそんなマンガです。

僕自身も就職活動に失敗して、挫折を味わうことになりました。就職活動で、いままで自分が勉強以外に何もしてこなかったことを痛感したのです。だから、とにかく街に出て、なんでもみてやろうと思いました。今まで自分がやったことのないことにチャレンジしようとしました。

そこで僕は、一人旅にでることを決め、なぜかカンボジアに行くことにしました。その旅行中に、友人をカンボジアへ迎えに行く元新聞記者や、現地で飲食店を開いている日本人、元教師でホワイトなこともブラックなこともやっているIT企業の経営者に会いました。三人から話を聞くだけで新鮮な気持ちになり、そして同時に「なぜこんなにもワクワクするのか」と思ったものです。

引きこもりだった自分が「人と会うのが楽しい」と思うようになるなんて、思ってもみませんでした。カンボジアでの出会いのせいか、気づくと、自分からどんどん知らない世界を見に行ってみようと思えるようになっていました。

『夏目友人帳』もまた、主人公が多くの出会いと別れを繰り返しながら、自分の力の限界を越えようとし、世界とむきあっていく物語です。

緑川ゆき『夏目友人帳』1巻

 

ヒトはだれかに出会って変わっていく

主人公の夏目貴志は小さいころから「見えないものが見えてしまう」少年です。誰もいないところを指さして、「あそこに変なのがいるよ!」と言っていました。しかし、そのせいで周りの人たちから気味悪がられ、両親もいなかったことから親戚中をたらい回しにされていました。また、学校でもクラスメートから「妖怪が見える」ということで「嘘つき」呼ばわりされ、いつもひとりでした。

緑川ゆき『夏目友人帳』1巻

 貴志には何が他人に見えていて、何が他人に見えていないのか分かりません。自分が見ている世界と他人が見えている世界の違いを、幼いながらに実感します。「どうして自分にはヘンなものが見えてしまうのか」、「自分の頭がおかしいんじゃないか」、いつも一人だった主人公は誰にも自分を理解してもらえず、不安な気持ちでいっぱいでした。

「一人で生きていきたい」それが主人公の願いでした。一人で生活できれば、影口を叩かれることも、自分をよく思わない人たちの世話になることもない。ツライことから逃げられると考えていたのです。

そんな彼の考え方が変わるきっかけになったのは、祖母の遺品である「友人帳」の力について知ったからです。彼の祖母である夏目レイコは、貴志と同じく妖怪が見える人でした。そして、妖怪たちに勝負を挑んでは打ち負かし、勝った証として妖怪の「名」を奪い集めました。それが書いたものが「友人帳」なのです。

名を取られた妖怪は、「友人帳」の持ち主に対して絶対服従しなければなりません。この力を悪用させたくないと考えた貴志は妖怪たちに名を返すことにしました。

緑川ゆき『夏目友人帳』1巻

 

信じたい気持ちが苦手を乗り越えていく

「苦手だからといって逃げない」姿勢を貫く主人公が、自分にはとても共感できます。苦手だからといって何もしなかったら、ずっと苦手のまま変わらないからです。じつは僕も主人公と同じく、人付き合いがあまり得意ではありません。でも、旅先で迷子になっているときに道を教えてくれるひとがいるだけで感謝の気持ちでいっぱいになります。苦手だった人間とも妖怪とも、分かり合うことができるという強い意志を、僕は第5話のエピソードで感じました。貴志はこういいます。

『友人帳』には人に見切りをつけたレイコさんの悲しみがいっぱいつまっている

 
 

 緑川ゆき『夏目友人帳』2巻

その気持ちが、読んでいる自分に流れて込んできた気がしました。「何が他人に見えていて、何が他人に見えていないのか分からない」ことはコミュニケーションにとって大きな障害になります。そんな理由で人と通じ合うことを諦めなければならなかったレイコの悲しみを知り、貴志は自分のかかわった人や妖怪とも分かり合いたい、自分にできることをできるだけやりたいと思い、行動するようになるのです。

 

自分を変えたいと思うなら、知らない人と出会えばいい


僕がカンボジアでの経験から「いろんな人に会いたい」と思うようになったように、貴志もまた「友人帳」に残されたレイコの想いと「出会う」ことによって、人に対する考え方を変えることができました。

よく考えて見れば、妖怪の世界でなくても、人になにが見えていて、なにが見えていないのかを知ることはできません。妖怪ほどではないけれども、風貌・服装も人それぞれです。なにを見ているのか、どういう想いでいるのかを知ろうとすること、知らせようとすることから逃げないことの大切さを、この妖怪の物語は伝えようとしているのではないでしょうか。

夏目友人帳 (2) (花とゆめCOMICS (2969))
作者:緑川 ゆき
出版社:白泉社
発売日:2006-08-05
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夏目友人帳 19 (花とゆめCOMICS)
作者:緑川ゆき
出版社:白泉社
発売日:2015-05-01
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