『ザ・フィフティーズ1: 1950年代アメリカの光と影』 アメリカンドリームはこうして創られた

村上 浩2015年09月02日 印刷向け表示
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ザ・フィフティーズ1: 1950年代アメリカの光と影 (ちくま文庫)
作者:デイヴィッド ハルバースタム 翻訳:峯村 利哉
出版社:筑摩書房
発売日:2015-08-06
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 マクドナルドや和民など、早く・安く・多くの胃袋を満たしてきたチェーンレストランの不調がニュース紙面を飾っている。日本人の食はこれからどのように変化していくのか。日本の高度成長期を支えた郊外団地から人々が流出し、残った住民も高齢化が進んでいるという。人口減少局面を迎えた日本人は、今後どんな家に住むことになるのだろう。

食や住居だけではない。テレビや車など、戦後の生活の重要な位置を占めていたはずのものが、その役割を小さくし始めている。その傾向は若者でより顕著であり、この流れは加速していくはずだ。ある分野の衰退を別の角度からチャンスととらえ直し、新たな世界を思い描くことで、将来のビジネスの種を探している人も多いだろう。しかし、先に目を向けるばかりが未来への備えとなるのではない。“当たり前”が生み出され、拡散し、常識として定着した経過を知ることで、新たな未来を自らの手でつくりだすヒントが得られるはずだ。本書は現代の起源を教えてくれる一冊なのだ。

本書のテーマは1950年代アメリカ。この時代に、ファストフード、郊外の集合住宅、テレビ、性の開放、米ソによる核開発やショーアップされた政治など、その後の社会の基礎となるものが次々と生み出されたのだ。知れば知るほどに驚かずにはいられないほど、大戦という世界規模の混乱を乗り越えたこの時代のアメリカを震源地として、多くのものが誕生している。そこには、壮大なビジョンを抱えたビジネスマン、自らの信念を決して曲げることのなかった科学者、大戦を経験し新たな世界を描こうとする政治家がいた。

1993年にアメリカで出版された原書は、過去何度か邦訳されたが、現在はいずれも絶版である。新たに訳し下ろされたこのちくま文庫版には、明治大学名誉教授・越智道雄と映画評論家・町山智浩の対談が付されており、本書の持つ現代的意味がより明確にされている。一戸建て、自動車、テレビに代表されるアメリカンドリームは世界中に拡散し、日本もその夢を追い続けた。しかし、それはあくまで「50年代の表層部分で」あると越智氏は喝破し、「素晴らしい50年代というのは実は虚像だったという事実を暴くのがこの本」であると町山氏は述べている。

泥沼のベトナム戦争を描いた『ベスト&ブライテスト』などの傑作ノンフィクションを数多く生み出したピュリッツァー賞受賞者である著者が再現する50年代は刺激的で、半世紀以上経過した現在でもある種の輝きを放っているように感じられる。何よりもギラギラとした熱気に満ちた個人にスポットライトが当てられ、一人ひとりの人生の積み重ねとして時代が描写されていくので、ぐいぐいとストーリーに引きこまれていくのだ。

ダグラス・マッカーサー元帥や赤狩りで知られるジョーザフ・R・マッカシーのような脂っこい政治家、水爆開発戦争で人類全体の未来を左右する研究を行っていたエドワード・テラーに代表される科学者、さらにはマクドナルドに大成功をもたらしたレイ・クロックのようなビジネスマンなど、本書には多くの偉人たちが登場する。中でも、個人的にもっとも興味を引かれたのは、「レヴィットタウン」を作り上げ、個人レベルにまで資本主義を根付かせたレヴィットだ。この男を著者は以下のように描写している。

アメリカの世紀と呼ばれる二十世紀において、最初の偉大な実業家がヘンリー・フォードだとしたら、ふたりめはほぼ間違いなくウィリアム(ビル)・J・レヴィットだろう。

戦前から住宅建築の仕事をしていたレヴィットは、第二次大戦の只中でも、戦後の住宅のあるべき姿を強烈にイメージしていた。多くの戦友たちはこの戦争が終われば結婚し、多くの子どもをもうけ、自分だけの城を欲しがるはずだと確信していた。そしてレヴィットは、その住宅の新たな姿を実現するための術を持ち合わせていた。海軍設営隊員として太平洋戦線へ送られた彼は、命がけで「住宅の低コスト大量生産に関する実験を行い、その結果を仲間たちと分析」することで、住宅業界に革命をもたらす手法を確立していった。

大戦開始前にマンハッタンから20マイル程度離れたヘムステッド近郊地の購入選択権を入手していたレヴィットを阻むものはなく、戦後直ぐに“自分の街を創る”という夢へと突き進んでいく。アメリカの基準ではこれほどなく絞りこまれた4部屋少々という設計で低価格の第一次レヴィット住宅は当初から圧倒的な成功を収め、1949年事務所がオープンしたその日に1,400件もの契約が結ばれた。実は、本当の困難は販売ではなく、施工に潜んでいた。アメリカにはそもそも熟練工が少なく、なによりピーク時には1日に36戸もの住宅を完工させるという規模が前代未聞だったのである。レヴィットは戦中から練っていた革新的製造手法で、史上空前の需要に答えていく。

最終的に、第一次レヴィットタウンの住民数は8万人以上にまで拡大した。レヴィットが火をつけた都市部から郊外への大移動はアメリカ全土へと拡大し、1950年からの30年で郊外人口は6000万人も増加した。郊外の一戸建ては手の届くアメリカンドリームの象徴となったのだ。しかし、都市から郊外への移動は多くの副作用を伴った。核家族が増え、親族同士のつきあいは少なくなり、女性の社会進出を停滞させた。1人の男の強固なビジョンと卓越した実行力が、アメリカ社会のあり方を大きく変えたのだ。

現在進行形の大きな変化は、次にどのような変化をもたらすだろうか、どのような副作用をもたらすだろうか。新たな時代が創りだした50年代アメリカで何が起ったのかを知れば、激変する社会の見通しが少しは良くなるはずだ。

年収は「住むところ」で決まる  雇用とイノベーションの都市経済学
作者:エンリコ・モレッティ 翻訳:池村千秋
出版社:プレジデント社
発売日:2014-04-23
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居住地と年収の意外な関係を膨大なデータをもとに描き出す。アメリカの都市は変化し続けている。レビューはこちら。 

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作者:町山 智浩
出版社:集英社
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アメリカ社会のあまりに多様な現実が描き出される。レビューはこちら

ザ・フィフティーズ2: 1950年代アメリカの光と影 (ちくま文庫)
作者:デイヴィッド・ハルバースタム 翻訳:峯村 利哉
出版社:筑摩書房
発売日:2015-09-09
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第二巻は9月9日に発売予定。

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