これで十分知ったかぶりできる『この世で一番おもしろい統計学』のすゝめ マンガにしかできない統計学の教科書

東海林 真之2015年09月03日 印刷向け表示
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やれビッグデータだ、やれ統計解析だと、ひと昔前から注目度が急速に高まった「統計学」。その数字が戦略を決めるんだとか、統計学が最強の学問だとか言われており、関心をもつ人も多かったと思います。ところが、改めて「統計学の基礎を分かっている?」かと問われると、ぼんやりとしか理解していない人は多いのではないでしょうか。

大学では統計学なんぞまったく関わったことのない人でも、日々ビジネスを進めるにあたり、データ分析をせざるを得ない場面は往々にして登場します。うちの会社で扱っている商品が一番売れている場所はどこ? どんな人に売れているの? どこに重点的に広告を打てばいい? この事業がイケてるとプレゼンするためには、どうすれば?

そんなデータ分析の現場に携わる人が増えている一方で、実際のところ、どれだけの人が統計学を(基礎でも)分かって分析しているのでしょうか。分析チームやコンサルタントにお任せ!でいいのでしょうか?

とりあえず基礎だけでも押さえておきたいという人に、このマンガを激しくおススメします。そのおススメ理由は主に3つ。それをこれから語っていきます。
 

この世で一番おもしろい統計学――誰も「データ」でダマされなくなるかもしれない16講+±
作者:アラン・ダブニー 翻訳:山形 浩生
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2014-01-31
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おススメ理由その1:著者と訳者が専門家!

このマンガ、ひと目見ればわかるのですが翻訳ものです。著者のアラン・ダブニー氏はテキサスA&M大学所属の統計学者で、特に生物学と統計学の融合分野であるバイオ・インフォマティクスでの業績が多い人。生物統計学の博士号を持っています。

そして訳者が、山形浩生さん。ほら、この時点でおすすめでしょ?と個人的には思うのですが、訳者の略歴も紹介しますと、東大とMITで修士課程を修め、大手調査会社に勤務しながら、科学、文化、経済などの翻訳と執筆活動を行うかたです。訳書が多すぎて紹介しきれないのですが、有名なところだと『その数字が戦略を決める』、『クルーグマン教授の経済入門』など、そして今年前半に大きな話題をさらった『21世紀の資本』があります。

要は、海外の統計学の専門家が書いた分かりやすい本(マンガ)おもしろいと目を付けた名訳者が訳したということです。そしてこの訳者は、ご自身も調査会社で普段から統計分析を行っているときたもんだ。

どうです。この時点で、まぁ間違いないと思いませんか。
余談ですが、おもしろい翻訳本の見つけ方に「訳者で探す」という方法があると私は思っています。例えば、経済の分野では山形浩生さん、科学の分野では青木薫さんの訳書は外れがない。訳がすばらしいことももちろんですが、訳す時点で本人たちの"目利き"がなされているので、その選書が信用できるのです。まだ読んだことがない人は、このお二人の訳書をぜひ読み漁ってみてください。
 

おススメ理由その2:入門書に適した、思いきりのよい論点の絞り込みが分かりやすい!

マンガ巻末にある「訳者解説」にも書かれているのですが、この本の特徴は、とにかく思いっきりポイントを絞ってあることです。

よくある統計学の入門書は、教科書のように、網羅性がある一方で分かりづらい記述になりがちです。例えば、いきなりパラメトリック手法とノンパラメトリック手法のような用語が出てきたり、バリエーション豊富な「検定法」が語られだしたり。いや、これらを知ることは確かに重要なのですが、入門者はまずは全体像を見渡せないと道に迷ってしまいます。

その点でこのマンガは、道筋がシンプルです。限られた標本を見て母集団について何かを言えるようにするのが統計学。この道筋からブレません。この点について「訳者解説」から引用してみましょう。

標本と、無作為抽出について説明したら、ヒストグラムの作り方を説明する。標本数も、サンプリング理論に深入りせずに、30あればいいよ、とあっさり投げ出す。そしてその後(中略)、すべて正規分布に落とし込む。これによって正規分布以外の余計な分布談義は無視できて、その後はすべて正規分布だけで話がすんでしまう。(中略)

たぶん本当に統計学を知っている人なら、統計学にも推計統計学と記述統計学があるんだけどなー、とブツブツ言うところだろう。(中略) 本書は、そういうのをすっとばす。まず、大枠での考え方をつかもう。本書はそれだけに特化する。

(訳者解説より)

もちろん、前述したような「教科書」としての見方でみると、この本は漏れていることが多いでしょう。検定法を幅広く説明したりしないし、標本の分布も正規分布以外には述べません。Appendixで必要最小限の数学的知識や数式に触れてはいますが、それもわずか12ページだけです。

けれど、とにかく初心者は道に迷いがちなのです。その点で、統計学の根底をまず一つの道筋で示すことには、意味があります。一つの道筋が見えれば、その先にある統計学のジャングル奥深くへと踏み込むこともできるでしょう。標本を元にどう信頼区間が設定できるのかそれをもとにどう仮説検定が行われるのかこの点(だけ)を徹底的にまずは理解する。これが、入門書としての本書の良さなのです。

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『この世で一番おもしろい統計学』 p.146
 

おススメ理由その3:マンガだから分かりやすい!

今さらかもしれませんが、この本は「マンガ」です。つまり、言葉だけでなく、絵でも説明がされています。統計学の入門書として、これが分かりやすさに直結します。

例えば基礎の基礎、平均値とメジアン(中央値)を説明するページでは、グラフと言葉だけで説明するよりも絵があることでメッセージが伝わりやすくなっています。1ページの中に、説明とグラフとケーススタディも含むこのページ。「歪んだデータだとメジアン(中央値)のほうが有意義かもしれない」と、あっさりと見てとれます。

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『この世で一番おもしろい統計学』 p.60

母集団平均(母平均)のありかを推定するときも、信頼度を計算するときも、このとおり。統計学の入門とマンガ仕立ての説明とは、意外にも相性がいいのだと、本書を読んで感じました。

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『この世で一番おもしろい統計学』 p.124

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『この世で一番おもしろい統計学』 p.134

最後に

クドいようですが、本書はあくまで「入門書」です。一方で、本書で書かれている「限られた標本を見て母集団について何かを言えるようにするのが統計学の基礎」だということを、おぼろげにしか分かっていない人が多いのも事実でしょう。

入門書だからと言って、あなどるなかれ。まずは本書を読みとおし、理解し、その上で「実務として統計学を使うためには、この点とこの点を補う必要があるな」と分かるようになるところから始めてみてはいかがでしょうか。

統計学が最強の学問だとしても、そうでなくても。データ分析に少しでも関わる人は、読んでおいて損のない本(マンガ)だと思います。

この世で一番おもしろい統計学――誰も「データ」でダマされなくなるかもしれない16講+±
作者:アラン・ダブニー 翻訳:山形 浩生
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2014-01-31
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