河川の氾濫を見て想う。300年前の薩摩隼人の執念~宝暦治水 『風雲児たち』3巻&4巻

山田 義久2015年09月11日 印刷向け表示
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 今週、台風に伴う豪雨が河川を氾濫させ、全国各地で被害をもたらしている。
水と緑に溢れる日本。しかし、まるでその日本が日本でいるための代償のように、今回のような水害が我々を苦しめ続ける。

このような水害を見るたびに、私は300年前の江戸時代中期、泥にかじりついて水害と戦った薩摩藩の男たち、薩摩隼人の執念を思いだす。
所謂、宝暦治水である。

歴史マンガの金字塔『風雲児たち』の3巻、4巻には、その雄姿が見事で描かれているのだが、マンガ図書館にこのエピソードだけ切り取られてすべて掲載されている。この機会にぜひ読んでほしい(前後の歴史の流れを追うには『風雲児たち』を通読するのがおススメ)。
300年近く前のこの事件をきっかけに鹿児島県と岐阜県は今に至るまで仲がいいらしいし、両県民にとってはこの出来事は常識らしい。確かに見ていて胸と目頭が熱くなるものが、そこにある。

関ヶ原の戦いにおいて、敗走しながらもその戦闘力により徳川家康を震え上がらせた薩摩藩。その薩摩藩をなんとか弱体化させたいと考え続けた幕府は、すべて実費で木曽三川(木曽川・長良川・揖斐川)の治水事業を命じる(←公共事業なのに国からの援助なし)。

遠路はるばる薩摩藩士達が現地に赴き、工事が始まっても、幕府はこれでもか、これでもか、というくらいの執拗な嫌がらせをする。しかし、誇り高い薩摩隼人達は耐えに耐え、切腹52人、病死32人、また記録されていない多数の事故死を出しながら、自分達の誇りと、そこに住む住民たちのために工事を完成させる

中心人物は、薩摩藩家老の平田靱負(ひらた ゆきえ)。完全に薩摩藩をつぶす目的の工事命令であることを百も承知ながら、立ち向かうことを選ぶ。そして、現地で水害で苦しむ人びとのために全力を尽くすように臣下を説き伏せる。

しかし、現地では想像を越える過酷な生活が待っている。作業員を雇うのはもちろん、食事をする、布団を借りる、たき火をするにもすべて代金を支払わせられる。資材の仕入れにも、幕府ご用達の業者から高い値段で仕入させられたりと、それはそれはわかりやすい妨害工作、嫌がらせを受け続ける。

 

誇り高い薩摩隼人。幕府からの度重なる嫌がらせ、または一緒に働いていた作業員の裏切り等、耐えがたい事態になり、切腹をもって抗議を始める。しかし、平田は事故死として処理する。切腹が幕府に対する批判・抗議と捉えられ、幕府の思うつぼになることを恐れたのだ。葬儀をしようにも、幕府と敵対する勢力と関わることを恐れる寺からは、墓地の貸出も断られる。唯一、そと時それを見かねた海蔵寺には、今でもその時に散った薩摩藩士の墓が残っているらしい。

なかでも凄まじい作業がこれ。巨大な岩を船に乗せ、目的地に船底に穴を開け、渦に巻き込まれる前に泳いで帰ってくるというもの。この作業でも相当犠牲者が出た(そりゃそうだ)ようだが、我々が普段行ききする河川にも、このような先人達の自己犠牲があるのかも、と想像するだけでも胸熱くなる。


工事は少しずつ進み、完成も見え始める。しかし、幕府の嫌がらせはさらに厳しくなる。今度は約20万両(80億円~200億円)という巨額の工事代金を追加請求してくる。幕府の「薩摩藩を潰す」という確固たる覚悟を感じた平田は命を賭してで金策に走る

その金策の成果もあり、治水工事は無事完成し、薩摩藩士達は故郷に戻っていく。彼が金策をするために何をしたかは、この話の中で一番心揺さぶられる場面なので是非本作を読んでほしいが、彼がしたことを知った時、薩摩藩士達は初めて男泣きしたという。

この悲劇は、その後も幕府を刺激しないように秘密とされた。やがて薩摩藩は明治維新で幕府を倒すことになるが、その時もこの宝暦治水を知る人は残っていなかったらしい。唯一語り継いだのが、工事の恩恵を受けた地域の村人だった。 

川と日本人の関係、その歴史に深い含意を持つこのエピソード。ぜひ一読してみてはどうだろうか。

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 宝暦治水について、小説で読みたい方はこちら。

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