美しい少年が繕う心のほつれ『トゥインクル・キャンディ』 小学生の独占欲の醜さ、あるいは憂いを帯びた半ズボン美少年の至高性

兎来 栄寿2015年09月14日 印刷向け表示
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トゥインクル・キャンディ (幻想コレクション)
作者:雲之助
出版社:祥伝社
発売日:2015-09-08
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「兎来さんはどうやって面白いマンガを見付けるんですか?」
とたまに問われることがあります。

当たり前のようですけど、沢山書店に行くこと。
直接書店員さんに尋ねることもありますが、書店に赴いて書店員さんの意志が込められた棚を見るという行為そのものが、書店員さんとの濃密な非言語的コミュニケーション。
マンガを読むのも好きですが、コミックコーナーの棚を見るのも大好きです。どこかに出掛けたら、その地域の書店には思わず足を運んでしまいます。

「『死にたがりの尺度』発売に際して『coyote』が併売されてる!」
「このタイミングで『ヒビキのマホウ』を1,2巻も平台に置くか~!」
などなど、明確な意志や愛を感じる棚に出逢えると本当に嬉しくなります。

マンガサロン『トリガー』を運営していて、自分で棚を作って本を並べる作業は大変な部分もありますが、とても楽しい所でもあります。

今は、月に1000冊以上の新刊が出る時代。小さな書店の限られた平台や新刊スペースに置ける本は極僅かです。次から次へと発売されるビッグタイトルの波に、1週間もすれば新刊コーナーはすっかり様変わりしてしまいます。そんな中でも、単巻100万部を超えるような作品の隣に置かれ続け、その存在を世界に知らしめようとされている物語。

そうして、全くのノーチェックだった一冊に出逢えた時の悦び、あまつさえそれが素晴らしかった時の悦びたるや格別です。月に2回、新刊発売表とにらめっこしてチェックを欠かさない私でも「あ、これ出てたんだ!」と書店で初めて気付くことはままあります。素晴らしい世界と出逢えないという不幸を一つでも少なくするためにも、なるべく書店には通うようにしています。

今回紹介する『トゥインクル・キャンディ』も、とある書店で面陳されているのを見て存在を知ることができた作品です。その宝石のように美しい表紙に惹かれて手に取りました。

『トゥインクル・キャンディ』雲之助著

表紙のみならず、中も光の煌きを感じさせてくれる美しい作画に惚れ惚れします。

雲之助先生は普段はBLをメインで描かれている方ですが、今作は初めての「少女漫画」というカテゴリ(余談ですが、成人向けやBL、百合などをメインに描いている先生の初の一般向け作品ってそれだけでグッと来るものがありますよね)。これが、男女問わずにお薦めできる素敵なお話でした。

制御不能の幼い支配欲

この物語は、不思議な力を持ったコンペイトウと、それを与えられた主人公の少年・広瀬泉を中心に描かれる群像劇です。様々な人々の心のほつれを、老成した泉の言葉と一粒のコンペイトウが繕っていきます。

恋愛要素も含まれますがメインではなく、多くの人が人生で経験する悲哀への向き合いや交感が描かれるので、汎く男性にもお薦めできる作品です。

特に私が強く心に残ったのは、2話で描かれる女の子のお話でした。

闊達な男の子・繕一と日々とても仲良く過ごしていた真理菜。しかし、泉が転校して来てからは繕一は泉とばかり遊ぶようになります。以前のように絡むことができず、真理菜のイライラは募って行きます。しかし、自分を差し置いて繕一と仲良くしているにも関わらず、繕一に対して素っ気ない対応もする泉。ある日、真理菜は泉に感情をぶつけてしまいます。

『トゥインクル・キャンディ』雲之助著

『トゥインクル・キャンディ』雲之助著


幼い頃に特に顕著な、友人への独占欲。私自身が泉たちと同じ年の頃に投げ掛けられた独占欲を思い返して、目を細めます。同性の友達であっても、まるで恋人同士のように嫉妬心を抱く。抱かれる。あったなぁ、そんなこと……。懐かしくなって十数年会ってない幼馴染の名前を不意にFacebookで検索してみたら、元気そうに生きているのを確認できました。ネット社会すごい。

誰かの特別でありたい、一番でありたい、と思う気持ちは自然なものですし、人を想う気持ちは美しいものです。が、少し傾くだけでこうも醜くも見えてしまう。誰かへの想いはその人の為にあるべきですね。その人が幸せになることでなく、その人といることで自分が幸せになることに固執し過ぎると大切なものを見失い、失ってしまいます。

と、今となれば冷静に言えますが、未成熟な頃はそんな風に感情をコントロールはできません。解ってる、自分でも解っているんですよね。その傲慢さの愚かしさが。けれど、嫌でもそんな想いに囚われてしまう。そして、そんな自分が嫌で仕方なかったりもするんですよね。うんうん。在りし日の想いに重ねて、心の奥底を焦がされるような節でした。

美少年好きに推したい広瀬泉くんの魅力

本作の見所の一つは、主人公・泉の達観した発言の数々です。

『トゥインクル・キャンディ』雲之助著

『トゥインクル・キャンディ』雲之助著

『トゥインクル・キャンディ』雲之助著


憂いを含んだ美少年、最高か……

カバー裏のオマケにて、雲之助先生はこう語っています。

中々描くチャンスがなかった顔面がきれいな少年を山程描けてありがたかったです
顔面がきれいな少年は良いものです
せっけんの匂いがします(断定)

この文章を読んだ時、私は雲之助先生と時間・空間を超越して握手したような気分になりました。

あたかもスナフキンのように人生や人間について語る、老成した白皙の美少年の素晴らしさ。渚カヲルくんに魂を奪われたことのある人ならば、言葉でなく心で理解できるはずです。泉はもう少し表情豊かですけど。

引っ越してきて、近所に住む繕一と仲良くなり繕一に「泉が弟だったら良かったのにな」と言われた時の反応。

『トゥインクル・キャンディ』雲之助著

こういう時にこそ「心がぴょんぴょんする」という表現を使うべきかもしれません。Grande!

あまりにあざといように見えるかもしれませんけど、この前後の会話、そしてこのエピソードのラストを彩る一コマは本当に美しいんですよ……。常に明るく見えながらも陰を抱える繕一と、それを察して僕の前では本心をさらけ出しても良いと言う泉があまりにも、良い。

実は帯を外すと、泉は半ズボンを履いていて太腿がのぞく訳ですが、これは帯を半透明にするなどしてもっと訴求すべきポイントだったのではないでしょうか? いや、敢えて見せずに剥いて初めて見える生足の趣を醸したかったのか。そうだとしたら祥伝社、恐ろしい子……!

美少年好きでなくともお薦めしたい作品ですが、美少年好きには強く強くお薦めします。

悲愴の美学

それにしても、なぜ人の心が傷付けられ、悲嘆に暮れる姿がこんなにも美しいと感じられるのか。それは宝石にも似た話かもしれません。ダイヤモンドも、原石のままでは炭素の塊。ブリリアントカットを施し、光を受けてそれを返せるようになってこそ、人々を魅了する輝きを放つようになります。

人生は傷付くことの連続であり、様々な辛みや悲しみに出遭い、打ちのめされそうになりながらも乗り越えることで人は生きて行く。そうして成長して行く人の姿は、そこで見せる笑顔は、やはり美しく、それ以前よりも価値を持つものだと思えます。

ただ、傷付いた瞬間は痛みが人を支配し、余裕を持って考えるということができなくなります。『トゥインクル・キャンディ』は、そんな心の痛みを抱いている時にそっと寄り添い、あたたかく包み込んで痛みを和らげてくれるような作品です。

コンペイトウはポルトガル語で砂糖菓子を意味する「Confeito」が語源になっています。それが故か、作中に登場する菓子店「エストレーラ」はポルトガル語で「星」。そして、最後のページには「Estou satisfeito!」の文字が。「Confeito」と韻を踏んでいるこの文字列が意味する感情に、私も読んだ後になれました。

祥伝社の本は大きい書店でないと探すのは大変かもしれませんが、多くの人にコンペイトウを渡すように差し出したい一冊です。

こっちにおいで (Dariaコミックス)
作者:雲之助
出版社:フロンティアワークス
発売日:2012-03-22
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こころの実 (キャラコミックス)
作者:雲之助
出版社:徳間書店
発売日:2013-12-25
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まったく君ってばもう (キャラコミックス)
作者:雲之助
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 BLを問題なく読める方は、過去の雲之助先生の作品にも触れてそのふわふわと暖かい世界に包まれて気持ち良くなって下さい。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
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