ボードゲームが現実を戦略的に生きるためのシミュレーターになるって本当?『放課後さいころ倶楽部』

宮﨑 雄2015年10月07日 印刷向け表示
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放課後さいころ倶楽部 1 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
作者:中道 裕大
出版社:小学館
発売日:2013-09-12
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ぼくのとりあえずの結論としては、コンテンツとは現実の模倣=シミュレーションである、というものです。

 

 

川上量生さんの新書『コンテンツの秘密』からの一文です。本書はトトロのフカフカボディに対する宮﨑駿の考察など、いちジブリファンとして心踊る内容に満ち溢れていたのですが、一番興味を惹かれたのは”コンテンツ”という概念を定義するこの一節でした。

 
なぜなら、仮にこの川上さんの論を正とするならば、最高のコンテンツが決定するからです。ここはマンガHONZですが、残念ながらマンガではありません…究極の現実シミュレーターたる最高のコンテンツとは、ボードゲームなのです。

  

ボードゲームは模倣する

それは決して、僕が個人的にボードゲームを愛好しているからだけではありません。川上さん曰く、人はなにかを理解できた時に快感を覚えるようにできているそうです。そして、人がもっとも理解できないのが、”現実”です。そんな人の性質を踏まえ、あらゆるコンテンツとは、現実を模倣して、人が現実を理解しやすくする(快感を覚える)手助けをすることが目的なのではないか、という問いが『コンテンツの秘密』で挙げられていました。

ジブリ作品というコンテンツがいつまでも誰にでも愛されるのは、現実を人の目がそのまま見る以上に理解しやすい形で描いているからだそうです。例えばいわゆる「ジブリ飯」は、食べ物の美味しさを現実以上に理解させる描き方だからこそ魅力的なのです。

前置きが長くなりましたが上記の定義を踏まえると、最高のコンテンツはどうしてもボードゲームになります。それは、優れたボードゲームが例外なく現実の”ある部分”を見事に模倣し、理解させ
てくれるからです。それを教えてくれるのが『放課後さいころ倶楽部』です。

 

 ボードゲームは主役を張る

『放課後さいころ倶楽部』は「女子高生たちが主に放課後にボードゲームに興じる様を描いている」の一言で説明できてしまいます。学園モノとして恋愛や転校生などの要素を押さえたストーリーながらも、最終的には皆でボードゲームしてます。つまり、ボードゲームが主人公のマンガです。女の子の可愛さも『放課後さいころ倶楽部』の魅力のひとつですが、主人公だからしょうがない。

ボードゲームといっても『将棋』や『囲碁』といったメジャーものではありません。日本での一般的な知名度はあまりない作品(ボードゲームは”作品”なのです!)が主に登場します。

『放課後さいころ倶楽部』1巻より引用
 

 

本作におけるボードゲームたちです。『ごきぶりポーカー』『お邪魔者』…などどれもが名作です。右下の『ミラーズホロウの人狼』は、今流行りの人狼ゲームのはしりとなった作品なので、もしかしたらギリギリご存知の方もいるかもしれません。ですがマイナーゲームかよ…と思わないでいただきたい。これらすべてが、現実を最高に模倣するのです。

 

 

 ボードゲームは最高である

というわけで、最高の現実の模倣であるボードゲームが模倣している現実とはなにか。それは人生です。それも、人生の素晴らしいとこ良いとこ取りです。

 

「人生?なら『人生ゲーム』でいいじゃん!?」という突っ込みは少々お待ちください。『人生ゲーム』はたしかに素晴らしいゲームです。しかしプレイヤーが遭遇する各種イベントそのもの(結婚や家を買うとか借金をするとか)が人生を模倣しているのみであり、ゲームの進行・勝敗はすべてルーレット、つまり運で決まる構造になっています。でも、そんなの人生じゃないでしょう。

 

『放課後さいころ倶楽部』に登場するような優れたボードゲームが必ず押さえているのは、ゲームの進行・勝敗が運の他にも実力・戦略の力に左右されるということです。現実でも、勝利あるいは成功を手にするのは実力・戦略・運を兼ね備えた人ではないでしょうか。そして、この3つがうまくかみ合った勝利を手にした時の喜びは、人生の喜びと言えると思います。

 

つまり優れたボードゲームでは誰もが、実力・戦略・運を駆使して人生の喜びをシミュレーションできる構造になっているというわけです。これを最高のコンテンツと言わずして、なにを最高とすればいいんでしょうか?

 

わかりやすい例を『放課後さいころ倶楽部』に登場する『マラケシュ』に見てみましょう。『マラケシュ』はモロッコの都市マラケシュで一番のじゅうたん商人になることを目指すボードゲームです。プレイヤーはさいころを振って商人をフィールド上で動かし、自分の絨毯を敷き詰めていきます。ただし商人を動かして、他人の絨毯を踏んでしまうと持ち主にお金を払わなくてはなりません。これを繰り返し、最終的にいちばんお金(ディルハム)を持っていた人の勝利となります。

 

1巻最初の話で、同級生を追いかけてボードゲームショップに迷い込んだ2人の女の子が店長とプレイします。

 

 

 

『放課後さいころ倶楽部』1巻より引用
 

 

「ようしゃはしない。」コワモテのくせに大人げない発言です。しかし、自分の実力を出し切って戦うからこそ、得られる勝利の味も格別になるのです。店長は2人にそれを知ってほしかったのでしょう…(たぶん)

 

 

 

『放課後さいころ倶楽部』1巻より引用
 
 

 ”多少の出費より先の儲けを考えて!!”こんな発言ができる女子高校生が、いまどれだけ日本にいることか…ボードゲームのプレイ経験によって身につけられた戦略的思考であることは間違いありません。

 

嗚呼!この思考が4年前の僕にもあれば!学生時代はアルバイトや授業で無駄に頭と体を使うこともなかったはず。ありもしないレールに乗って、多少の出費を惜しんでしまった!この子並みの戦略思考があれば、きっと学生ローンからの融資で起業して、今ごろ高田馬場一の商人になっていたに違いありません!!嗚呼!!

 

 

 

『放課後さいころ倶楽部』1巻より引用

 

先パラグラフでは戦略的女子高生への羨望で理性を欠いた発言をしてしまったことをお詫び申し上げます。閑話休題。

実力を出し切り、考え抜いて戦略をつくしても、最後にモノを言うのは運。ピンチは凌げばチャンスに変わる。勝利のために冒すべきリスクを選択し、さいころを振るのです。そして、、、

 

 

『放課後さいころ倶楽部』1巻より引用
 

勝利!!スキンヘッドを抱える店長は気の毒ですが、女子高生たちは人生の喜びをかみしめています。勝利を抱き合って喜びあえるのも、対面でなければプレイできないアナログボードゲームの魅力のひとつだと思います。見事です。見事な描き方です『放課後さいころ倶楽部』!

 

 

と、ここまで読んでいただいておいてなんなのですが、僕の文章を読んでいただいてもボードゲームの何が面白いのかイマイチわからないと思います。ですが、ボードゲームとはそういうものです。結局のところ自分がやってみなければわかりませんし、やってみたらメチャクチャ楽しいものです。だからもし、人生の喜びから遠ざかってしまっている方がいたら、『放課後さいころ倶楽部』で良いゲームを探して、ぜひプレイしてほしいと思います。

 

『放課後さいころ倶楽部』1巻より引用

 

コンテンツの秘密―ぼくがジブリで考えたこと (NHK出版新書458)
作者:川上 量生
出版社:NHK出版
発売日:2015-04-10
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 冒頭で引用した新書です。トトロのフカフカの謎だけでなく、なぜジブリ作品が何度見ても飽きないのかも解明されています。

放課後さいころ倶楽部 2 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
作者:中道 裕大
出版社:小学館
発売日:2014-02-12
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放課後さいころ倶楽部 3 (ゲッサン少年サンデーコミックス)
作者:中道 裕大
出版社:小学館
発売日:2014-07-11
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出版社:中央公論新社
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