赤松健さんのマンガ図書館Zが、将来的に大変なことになると思う件

菊池 健2015年09月30日 印刷向け表示
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赤松健さん(以降赤松先輩*)の「マンガ図書館Z」が、ベールに包まれていた新仕様とビジネスモデルを公開しました。

そして要となる、海賊版だろうが自炊だろうが誰でも作品をアップロードできる斬新な仕組みを、赤松先輩自身がTwitterで実演するという、ネットに精通した氏らしいスタートを切られました。

もう、色々斬新過ぎて、どこを話すか難しいのですが、まずは主筋を、少々乱暴に私的要約すると、以下です。

・まず、「日本マンガ文化の正しい保存は、やはり日本の作家主導で」という掛け声。これは、漫画業界のこれまでの体質や現状を考えると、関係者や業界の支持を集めるには王道を行く考え方です。外資に4年勤めてた私としては、外国資本の怖さも含めて、理解出来るところです。

・ご本人がこの事業により大きな利益を得るどころか、どちらかといえば持ち出しでこの事業を行っているところも、日本では支持されるところかと思います。

・漫画に限らず、海賊版の撲滅は、海賊を訴追して取り締まる形から、取締りたい側が、腕の良い海賊を雇用するなど、海賊の力を逆に利用する形へ、トレンドが移行しつつあります。マンガ図書館Zの仕組みは、現在の海賊版データが集まる主流「サイバーロッカー」の、「有料化しないとダウンロード速度が遅い。」というビジネスモデルの現状の弱点を突いたものです。ここが要であり、今後のせめぎ合いの焦点になるかと思います。

・国内向けのマンガ配信については、赤松先輩自身が、有料配信しても年間1万円以内の売上なら、広告モデル化したほうが、返って収益が出るという言い方をされていました。そのラインがだいたい10年以上前の作品かどうかということのようですが、その喝破とモデル発明が、今回の作品アップロードスピードや作品アップロード数が向上する施策で、実効力を発揮し始めます。

・国外向けのマンガ配信については、作品の翻訳に、時間とお金のコストがかかることが、大きなボトルネックとなっていました。漫画が電子書籍化されても、吹き出しの中のセリフがテキストデータ化されていないために、翻訳が難事業であったマンガについて、OCRによる日本語テキスト読み込みから、50以上の言語に自動翻訳される機能を実装していることは、どれ位誉め称えても足りないくらい画期的です。技術的なこともそうですが、作品への思い入れが強い漫画家に、簡易的かつ漏れもある翻訳に同意してもらうプロセスを確立させ、既に実績を作っているという意味でも凄いことです。

さて、そんな理解を前提に、事業の肝についてと、漫画家支援者目線のことをいくつか書かせていただきます。


対サイバーロッカー戦

ブレードランナー並にサイバーパンクなタイトルですが、サイバーロッカーについては、以下のサイトが簡潔に要点を抑えていました。

サイバーロッカーとは? | DMCA侵害申立業務

動画、画像、音声、ゲームアプリなど、データファイルを誰でもアップロードでき、ダウンロードできるネットサービス。

DropBoxやFirestrageが、特定の閉じた人間が使用するものであるのに対し、アップもダウンロードもオープンで誰でも出来る。

赤松先輩のツイートによると、海賊対策の中でも、現在主流なサイバーロッカーを仮想敵として、構造の設計をされているようです。

ここで、サイバーロッカーの利用者を、想定される動機をベースにまとめてみます。 

◆ダウンロードする人の動機

  • 無料で、欲しいマンガや音楽、ゲームソフトなどが手に入る。(但し、完全に無料だとダウンロードスピードが遅い。)
  • 少しお金を払うとサクサクとしたスピードでデータをダウンロードできるようになる。(ex: 最大手業者で、有料会員料金が年間1万円ほど)

◆アップロードする人の動機

  • 自分がアップロードしたファイルがある程度ダウンロードされると、上記の有料ダウンロード会員になるポイントがたまる。
  • 更に、ポイントが沢山たまると、個々人がかなりの収入を、ポイント還元から得られる。


これに対して、マンガ図書館Z利用者側は、

◆ダウンロードする人の動機

  • 登録されているマンガは無料で読め、ダウンロードの速度制限はない。(成人向けは有料だが非常に安価)

◆作品を作った作家の参加動機

  • 海賊版では、自分には収入があがらないものが、広告収益として入ってくる
  • 自分の旧作が読まれる。ファンがネットで話題にしてくれる。(海賊版では、なかなかそうはいかないが、マンガ図書館Zを起点にした、ハッシュタグ共通化とか、コミュニティ化などは可能。)
  • 自分の旧作が読まれる。もしかすると新たな展開も?!→次節

◆アップロードする人の動機
<ファンの場合>

  • マンガについてなら、海賊版で読まれているのは気持ち悪いし、海賊版を読むのも、後ろめたい。(と、思う人もいる。)なので、作家を応援するためにも、作品をマンガ図書館Zにアップロードしたい。

<作家自身や関係者の場合>

  • 海賊版でしか消費されなかったものを、自分の収入に繋げられる。
  • 海賊版の画質などのクオリティがひどい。あれが人に読まれるのは我慢なら無い。綺麗な画像をアップして、読者に読んで欲しい。

というところでしょうか。

やはり課題は、このマンガ図書館Zにアップする人たちの動機だと思います。

よりゲーム的な仕組みになったり、経済的メリットに繋がる形になると、爆発的になるような気がします。アップした人が、ある作品の最初のコミュニティリーダーになれるとかですかね。自分のBlogのPVやSNSのフォロー数向上に繋がるものだと、動きが活性化するような気はします。

「原作枯渇?」マンガ原作の国内展開と海外展開

最近、国内ではアニメやドラマ・映画など、制作費のかかる映像化をするにあたり、「良い原作」が足りない「原作枯渇」ということが言われています。この「枯渇」には2つの意味があります。

「良い原作」が足りないとはどういう状態でしょうか?
1、純粋に面白い原作が足りない?
 2、既にファンのついた、映像化すればヒットする可能性が高い原作が足りない。

 

は、実際にはそんなことないと思うんですよね。マンガHONZでレビューを書いていても、日々思いますが、面白いマンガは新旧問わず世に多いですが、単に多すぎて人の目に触れて無いだけだと思います。と申しますか、日々膨大に新作が発表されていく中で、今回のマンガ図書館Z事業により、ほとんど忘れ去られていたであろう旧作品も、更に人目に触れる機会が向上します。「単に面白い原作」は、特に日本には溢れており、更に溢れていくわけです。

記事:プロ漫画家は日本に何人いるのか?
毎日30冊以上のマンガ単行本が発刊され、作品も作者も溢れています。旧作の電子書籍化も、一ヶ月に1万冊を超える時もあるとか。

もう一歩踏み込むと、マンガ単体で言えば、面白い作品そのものはいくらでもあるけども、それが人の目に触れ、話題になっていく過程で、ネットとどう付き合うかということが、最も重要なポイントになります。一言で言えば「いかにネットで作品を知らしめるか?」です。(マンガHONZは、ネットとマンガの関係性がそうなることを見越しての取組です。)

ここで肝心なのは2だと考えます。例えば、アニメを1クールつくるには、数億円の予算がかかります。これだけの予算を集めて使うには、原作が面白いことは勿論として、マンガやラノベの時点で既にファンがついていることは非常に重要です。もし、マンガ図書館Zで作品が話題になり、ネットで話題になったものが、なんらかのきっかけで再度映像化されることがあったらいかがでしょうか。

草薙素子は「ネットは広大だわ。」と言いました。
日本のマンガ原作は、アニメ化されたものや、国内でヒットしたものを中心に、翻訳され海外に展開していきました。今回のマンガ図書館Zの展開は、ネットによる国内での旧作掘り起しは勿論、海外に向けての、膨大なマンガ原作の開放という側面も持ちます。

ラノベですが、最近では『All You Need Is Kill』という作品が、国内の映像化を跳び越して、いきなりハリウッド映画の原作になったことが記憶に新しいです。割と昔のマンガが映像化される事例は、もう珍しくもありません。

ハリウッドや、伸張著しい中国映画界などの海外の映像事業者にとって、日本の旧作マンガが次々自動翻訳されるこの事業は、パンドラの箱が突然開いたに等しいことだと思います。無料で大量の原作が読めるし、ファンの反応もネットで見れるしとですね、これ、大変なことだと思うんですよ、皆さん。

そして次の動きは?

すぐとはいかないと思いますが、マンガ図書館Zにより、ネットとマンガの事業的な本当意味での融合が一歩進んだ後に、作家側の立場から見て重要になるのは、エージェントの存在だと思います。

絶版化した作品に映像化オファーが来たら?30年前の作品にネットで人気が出てきちゃったんだけども、キャラを使ってグッズを作ったり、作家さんを呼んでイベントやったりは出来ないのか?

この辺り、公式サイトやツイッターを持ってる作家さんには、複雑だったりやっかいで玉石混交なビジネス話が直接どんどん入ってきますでしょうし、作家さんが亡くなられていたり、ネット上の接点を持たず、現役で作品を作って無い場合、どんどんマンガ図書館Zに問い合わせが来るでしょうね。その辺り、強かな赤松先輩がどんな準備をされているのか、非常に興味深いところです。

また、漫画家支援のトキワ荘プロジェクトとしては、これまで、住居支援漫画制作講座支援イベントなどの間接的な支援に力を入れてきましたが、今後はこういったネット経由や由来のIP展開にも直接的な漫画家支援が出来るように、事業の幅を広げていこうと考えております。ご興味ある方は、お問い合わせください。近々、色々と発表・ご報告が出来ると思います。

  

(*)赤松健先生は、筆者の中学校の先輩です。

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赤松先輩といえば、この「マンガ図書館Z」事業の他にも、児ポ法対策のロビー活動や、TPP関連に、日本マンガ協会における理事として、漫画家の健康保険料を下げる為の活動「文芸美術国民健康保険組合」いわゆるブンビの普及などでも精力的に活動されています。いますですが、皆さん、更にその上に、なんと、週刊少年マガジンに週刊連載でマンガを連載してらっしゃるんですよ。(いや、これだけでも大変なことなのですが、すごいですほんとに。)

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 私は以前、トキワ荘プロジェクトにて「文芸美術国民健康保険組合」の運営を、行おうかと検討したことがあるのですが、悩んでいるうちに赤松先輩が漫画家協会でやってくださいましたので、ならもう良いかぁと、検討を辞めたのでした。

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