それでも私たちは「脇役」にすぎない。『女子BL』の絶望と希望

ひらりさ2015年10月01日 印刷向け表示
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アラサー女の近況報告から失礼します

久しぶりに恋愛をしています。

久しぶりというのがどれくらいぶりかは伏せておくとして、とりあえず自分が「恋愛の渦中」にいるというのがとにかく久しぶりすぎて、というかもしかしたらこんなにも「渦中」なのは初めてなのかもしれなくて、 周りからは「人生楽しそう」と言われるんですけど、毎日めちゃくちゃ具合が悪いです。

あんなに非リア芸していたくせにいざ恋愛していても楽しくないのかよと責められると、もうぐうの音も出ないというかぜんぜん楽しくないわけでもないのですが、とにかく日々気持ちが悪い。

その気持ち悪さの正体に気付かせてくれたのが、先日発売されたBLアンソロジー『女子BL』です。

女子BL (シトロンアンソロジー)
作者:秀良子
出版社:リブレ出版
発売日:2015-09-28
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 「え、BLって男同士の恋愛を描くやつでしょ? どういうこと?」と思う方も多いでしょうが、 つまりこのアンソロジーは「男同士の恋愛ですすむBL世界に女子たちの視点が投入されたら」 という観点で描かれた作品をまとめたものなのです。

ボーイズラブに女は必要なのか?

そもそも、これまでに出版されていたBL作品でも、男キャラだけでなく、それを取り巻く女子が描かれているものは存在します。

もちろんそれらの女子の感情や視点を繊細に描いた作品もあるのですが、大体の場合は、
「この世界は女も存在しますよ」ということを知らせるためだけの舞台の書き割りみたいなモブキャラであったり、
妹や姉、母のような恋のライバルになる危険なく応援してくれるキャラだったり、
2人の愛の障害になるかと思いきや「実は2人の関係にドキドキしてただけなの!」というような腐女子キャラであったり、
あと攻めや受けの社会的価値を増大させるためだけのお飾りキャラであったりしていました(男同士の愛の世界でも、なぜか「女からモテる」ことがステータスになるのが、BLの不思議なところである)。

そんな状況のなかで発表された『女子BL』、発売前から一体どんなアンソロになるのか勝手に不安に思っていたのですが……めちゃくちゃ素晴らしかったです!

クラスのアイドルとして愛でていた男の子の本当の顔を知ってしまった女子、
自分を愛してしまったと言って誘拐した男と、その男を愛する男との奇妙な共同生活に巻き込まれる女子、
何をするにもいつも一緒だった双子の兄が男に告白されてしまい、兄との関係を問いなおしていく女子、
ある日訪問販売にやってきた男2人組の奇妙な関係を観察するうちに、昔の大切な気持ちを思い出す女子、
ゲイだとわかってるバイト仲間に告白して振られるもその彼の想い人(義弟)に告白されてしまう女子、


秀良子「少女C」より


志村貴子「玉井さん、恋と友情」より

……などなど、ちゃんと女子がお飾りにならず、ナマの感情や視点がありありと描かれています。

女子視点のぶん、あまり生々しい濡れ場などは出てこないので、BLを読んだことない方や、 BLがちょっと気になっている男性のBL入門にもちょうどいいかもしれません。

それでもわたしたちはバイプレイヤー(脇役)にすぎない

しかし、この『女子BL』、実はとってもおそろしいアンソロジーだと思います。

というのも、そうやって、お飾りでない、書き割りでない、ステレオタイプでない「女子」のありさまを存分に描く作品を掲載し、読者たちをその「女子」たちに感情移入させてホロリとさせておいて、最後に読者たちを奈落に突き落とす、はらだ先生の「わたしたちはバイプレイヤー」が口を開けて待っているからです。

「わたしたちはバイプレイヤー」の語り手は、文武両道で才色兼備なキラキラ美少女・姫海さん。向かうところ敵なしな彼女がひそかに恋をしているのは隣の席の「王子様」、こちらもやはり文武両道で才色兼備な皇子山くん。なぜかといえば、皇子山くんが彼氏であれば、姫海さんはさらに完全無欠の美少女となれるから。これは決して姫海さんが高慢なわけではなく、学園一の美少女という「ヒロイン(主人公)」のありかたを最大限追求するうえでの当然の帰結です。


はらだ「わたしたちはバイプレイヤー」より

しかし、姫海さんの人生に、思いがけないトラブルが。体育の時間に男子が行っていたバスケットボールのボールが彼女のほうへ飛んできたのですが、とっさに避けられずにその場でかたまってしまった姫海さんと、助けようとした男子・脇川の頭が衝突。それだけならまだしも、目が覚めた姫海さんと脇川くんの身体と心が入れ替わるという事態に……。

詳しいストーリーの顛末はぜひアンソロで確認いただきたいと思うのですが、とにかく「わたしたちはバイプレイヤー」がこちらに強烈にたたきこんでくれるのは、「どんなに繊細な感情があろうと狂おしい葛藤があろうと、BL世界においての女子(そしてBLを読んでいるわたしたち)は、やっぱりバイプレイヤー(脇役)にすぎない」ということ。うん、ごめん、そうだった。読んでるうちに忘れていたよ。

でも、その「奈落」は、実は「幸福な事実」でもあるのです。少女漫画世界では主人公間違いなしのキラキラ才色兼備な女子であっても、BL世界においては脇役。逆にいえば、わたしたち女子は、BL世界では、「女の子なら、キラキラ才色兼備になって主人公を目指そう!」という圧力から自由になれるのです。

わたしたちは、脇にいる平凡な容姿の平凡な立場の女子でいい。それどころか壁や床や障子になっていたっていい。恋だの愛だのにふりまわされないでいい。そんなのは渦中にいる男ふたりにまかせておけばいい。そのドキドキやハラハラを見守りながら消費していればいいのです。


はらだ「わたしたちはバイプレイヤー」より

それはちょっと「ずるい」ことかもしれないけれど、少女漫画脳でつちかわれた「ヒロイン呪縛」「恋愛呪縛」からの解放でもあるのです。

ああ、だから、現実の恋愛は「自分が主人公=キラキラ美少女を目指さないといけない」気がして気持ち悪いのか……!

と、気づいたところで、自分が恋愛している状態が気持ち悪いことには変わりがないのですが、本当に「キラキラ美少女ヒロイン呪縛」から脱せたならば、「別にキラキラ美少女や主人公じゃなくても、恋愛していい」という境地に達せるはずでもあります。だって、すべてのBLの核心こそ、そこにあるのだから。

もう少し、自分の現実を平凡でささやかなものとして楽しめるように、「わたしたちはバイプレイヤー」をじっくり読み返したいと思います。

女子BL (シトロンアンソロジー)
作者:秀良子
出版社:リブレ出版
発売日:2015-09-28
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