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『ダンスチーム ラブジャンクス』笑顔の天使たちが踊るとき

ダウン症のある子たちと共に

東 えりか2015年10月6日
ダンスチーム ラブジャンクス ダウン症のある子たちと共に

作者:牧野アンナ
出版社:角川春樹事務所
発売日:2015-10-01
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2015年3月21日、「世界ダウン症の日」が制定されてから10年目の記念に「ONE+LOVE WORLD」というイベントが、かめありリリアホールで行われた。これは若い世代に歌とダンスを通じて、ダウン症のある子たちのありのままの姿を見てもらおうと企画されたものだ。プロのシンガーやダンスチーム、有名なキッズダンサーとともに、本書の主人公である「ダンスチーム LOVE JUNX」の選抜メンバー「BREAKINチーム」が大トリで出演した。2002年、牧野アンナがダウン症のある子たちにダンスの指導を始め、ダンススクール「LOVE JUNX」結成から13年、彼らのダンスに世界は驚愕した。

ダウン症は体細胞の21番染色体が1本余分に存在し、計3本(トリソミー症)持つことによって発症する先天性の遺伝子疾患である。

一般的に、肉体的成長の遅延、特徴的な顔つき、軽中度の知的障害などに特徴づけられるが、個々のばらつきが大きいとされている。希望者には出生前診断の羊水検査を受けることができダウン症だとで確定された場合、出産をするかどうかは自身の判断となる。日本における患者数は約5万人。ダウン症自体に治療法はないが、大人になってから心配される合併症の治療は確立されつつある。

ただ、ダウン症のある子たちはとても明るい。「笑顔の天使」と呼ばれるくらい、周りの人々を明るくする。多少、手足が不自由であっても、音楽を聴いてノリノリになる姿を見て、牧野アンナは彼らとともに歩むことを決めた。

「LOVE JUNX」の指導者、牧野アンナの父親は沖縄アクターズスクール校長、マキノ正幸である。曾祖父は「日本映画の父」牧野省三、祖父は映画監督のマキノ雅弘、祖母は女優の轟夕起子。芸能界のサラブレットだ。

幼いころから父の指導の下、芸能界にデビューを果たした。スクールからの出身者には安室奈美恵、MAX、そしてSPEEDたちがいる。彼らを目指せと多くの生徒が通うなかで、アンナはカリスマインストラクターになっていく。

だが実際は父親の強烈な呪縛があった。幼くして両親は別居、アンナは父親の片腕として働かなくてはならないと思い込んでいた。そんなアンナを父は利用した。生徒とスクールとの間にある軋轢をすべてアンナを使って解消しようとしてきたのだ。

父の横暴をすべて受け止め、生徒たちの防波堤になってきたアンナもついに限界が来た。30歳の時に出会ったダウン症のある子たちへの指導。ダウン症についての知識が何もない中、いつも通りに教え始めた。しかし、彼らの反応は思ってもみないものだったのだ。

見本を見せようと踊りはじめると、みんな自由気ままに踊りはじめるではないか。指導者なんか見ていない、一緒に楽しく踊るという姿が、片意地を張っていたアンナの力をすっと抜いた。彼らは楽しいと思ったら逡巡しない。それだけに舞台に上げるための練習や技術アップは大変だが、楽しさが上回った。「LOVE JUNX」のスタートだ。

彼らとのかかわりの中で、アンナは大きく成長していく。幼いころから芸能界に身を置いていたから、人と人との関わりに疎いところと過敏なところが彼女の中に同居していた。だが、ダウン症のある子やその親たちとの接触によって、人生観もかわっていく。もともととても素直な性格だったのだろう。障がいを持つ子から絶大な信頼を得ていくにつれ、指導者として育てられていくのだ。

ダンスの技量も普通の人と変わらないほど上達したメンバーを集めて、プロのクラスを作る。その決意がまたひとつ彼女を向上させた。どうしても、もっとうまく踊りたいという子供たちに対しては、親から離れるよう指導した。離れらないのは親の方だ。決して付いてこないようにといった合宿でも、陰に隠れて様子を見守る親たちがいた。それも徐々に子離れが進み、選抜メンバー「BREAKINチーム」をはじめ。彼らの実力は多くの人に認められることとなった。今年の「24時間TV」でも、AKB48と踊る姿は障がいをもつ者には見えなかった。

現在の牧野アンナは原点であるインストラクターとしてAKBやSKEの振り付けも行っている。母親にもなった。書家の金澤翔子やモデルのマデリン・スチュアートの登場でダウン症のある人たちを巡る状況も変わってきた。

今では生徒たちの中からレッスンアシスタントも育ってきた。ブレイクダンスもできるし、腹筋も割れていてアスリートのようだ。彼らは後輩のあこがれの的になる。彼らのダンスをぜひ見てほしい。【注意!音が出ます】

 (写真は編集部よりお借りしました)