女子高生を乳牛に見立てて炎上したブレンディのCMに足りない唯一のもの。藤子・F・不二雄『ミノタウロスの皿』と比べてみる。

今村 亮2015年10月15日 印刷向け表示
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炎上してYouTubeから削除されたブレンディのCM

みなさんは観ましたか?大炎上したブレンディのCM。


舞台は、どこにでもある卒業式。

しかし、ただひとつ違っていたのは、生徒が鼻輪をつけていること。
しかも生徒たちは、名前ではなく番号で呼ばれています。

ひとりひとり壇上に上がり、校長先生に進路を言い渡される生徒たち。
ある生徒は動物園、ある生徒は闘牛場。


ある男子生徒は「田中ビーフ」と言い渡され、壇上で暴れだす。



そう。これは卒業式ではなく、「卒牛式」だったのです。


そして、この日のために努力を重ねてきたヒロインが言い渡される進路は・・・


「ブレンディ」。歓喜に涙がこぼれる。

そして校長先生がひとこと。
「濃い牛乳を出し続けるんだよ」

唐突に商品名。ブレンディ「挽きたてカフェオレ」

 

このCMはなぜ気持ちが悪いのか?

このCMは、はっきり言って気持ちが悪い。高校生に鼻輪をつける描写はグロテスクだし、女性を乳牛にたとえる品性の下劣さにはゲンナリするし、高校生の生殺与奪が大人に支配される世界観はムカムカする。

・・・あれ?

でもこれって、僕が大好きな「あの漫画」と何が違うのだろうか。

藤子・F・不二雄『ミノタウロスの皿』

ミノタウロスの皿 (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)
作者:藤子・F・不二雄
出版社:小学館
発売日:1995-07
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食べる側-食べられる側の関係性をひっくりかえすやり方で、読者の常識を反転させようと試みる漫画作品は少なくありません。『寄生獣』、『進撃の巨人』、『レベルE』などなど。

中でも僕が大好きな作品は『ミノタウロスの皿』です。ブレンディのくだらないCMが流れる45年も前、若者が荒れ狂う時代のまっただ中1969年に、あの『ドラえもん』や『オバQ』作者の藤子・F・不二雄が放った異色短編です。

牛の容姿をした異星人が暮らす星に不時着するところから始まるこのSF短編は、『猿の惑星』の公開が1968年であることを踏まえると、そのパロディとして描かれたのかもしれません。

ブレンディのCMに怒る前に、一呼吸ついて、今一度読み返すべき価値があるはずです。さっそく
内容を見てみましょう。

ブレンディのCMと比較しながらご覧ください。
(ごめんなさいネタバレ含みます)

宇宙旅行中に不時着した星で、


主人公はミノアという少女に助けられるが・・・・


彼女はその星の家畜であることがわかる。


彼女を救うために、主人公は奔走するが・・・


そもそも、自ら食べられることを望んでいるミノアを説得できず、

結局、為す術もなく、彼女は食べられてしまう。


 

ブレンディのCMとの共通点

ブレンディのCMと『ミノタウロスの皿』は、やはり似ています。

「食べる」という日常の行為に光を当てているのが両作の共通点です。牛の擬人化という手法によって、その残酷さを日常から引きずり出すことに成功しています。

僕たちは牛乳を飲み、牛丼を食べながら生きています。スーパーをぶらつくと、そこにはチーズやバターやブレンディやオージー・ビーフの切り落としが、さりげなく並んでいます。そのさりげなさに覆われて普段はつい忘れていますが、これは生命の収奪です。

また、食べられる側のヒロインが、自らそれを望んでいるという都合の良い設定も、両作の共通点です。ブレンディの少女は、自分が搾乳されることを涙を流して喜びます。ミノアもまた、おいしく食べられることを生きる意味だと信じています。とても醜悪です。

ブレンディのCMに足りないのはツッコミだった

では、両作の違いとは何なのでしょう?

それはツッコミ役です。『ミノタウロスの皿』は、主人公目線で描かれるので、終始ツッコミが機能する物語です。

読者が言いたいことを、このように主人公が代弁してくれます。


ほら、こんなに感情豊かにツッコミしてくれます。


そうそう!今それ思ってた!


そして主人公の視点で描かれた物語は、地球に帰還する宇宙船の中で終幕します。ステーキをほおばるこのラストシーンは秀逸ですね。

(ここまで画像は全て藤子・F・不二雄『ミノタウロスの皿』)

宇宙の漂流の果て、異星での生活を経て、ミノアを救いたくとも救えずに、ヘトヘトになった主人公にとって、このステーキはどれだけ美味しかったことでしょうか?

結局、自分も牛を食べて生きている。それが『ミノタウロスの皿』のオチです。美談を挟む余地はありません。『ミノタウロスの皿』は、一貫して、食べることの愚かさを読者につきつける風刺です。

ブレンディのCMは、視聴者の違和感が放置される。

しかしブレンディのCMには、その異様な世界にツッコミをなす主人公がいません。

生徒に鼻輪がつけられ番号で管理される醜悪さ、そのままでいいの?
進路が先生に支配される不条理、そのままでいいの?
食肉工場へ送られる男子生徒の不憫、そのままでいいの?
自らすすんで搾取を求めるヒロインの悲劇、そのままでいいの?
「濃い牛乳を出し続けるように」という校長の下品なセリフ、そのままでいいの?

・・・視聴者が感じる一連の違和感を、誰も突っ込んではくれません。

視聴者を置き去りに、式典は歓喜に包まれ、ヒロインは搾乳される未来に感動して涙し・・・。もう頭が痛くなるくらい絶望的なラストシーンです。そして「挽きたてカフェオレ」という商品ブランドが宙に浮いたまま、物語はぷつりと途切れてしまいます。

不条理すぎて、ふるえます。

しかも、『ミノタウロスの皿』のヒロインは肉牛の比喩として描かれますが、ブレンディのCMにおいて少女は乳牛の比喩として描かれます(カフェオレのCMなんだから仕方ない)。そのせいで、なんというか、ほんと、無駄にエロい。なんなの、少女の胸をアップするカメラワークの数々。これもまた不快です。

だから、視聴者がツッコむしかない!炎上必至の構造。

主人公がツッコんでくれないので、視聴者が自らツッコミ役になって、ボケを回収するしかありません。このCMはおかしいだろ!と。そして炎上していきます。

もしかしたらブレンディのCMは、不条理劇としての完成度は高いのかもしれません。視聴者に、ツッコミというカタルシスを与えずに、その不快な後味を放置するのですから。最強にサディスティックですね。

ちなみに、このCMが「挽きたてカフェオレ」の売上に貢献するかというと、疑わしいと感じざるをえませんが、もしかしたら、炎上マーケティングの成功にほくそ笑んでいる広告人がいるのかもしれません。ちくしょう、まんまとマジレスしちまったよ。

例題:もし藤子・F・不二雄がオチをつくったら?

どんな画を付け足すでしょうか。僕もひとつ描いてみました。

テーマ「卒業式が終わった後、主席の男子生徒だけ校長室に招かれた」

ブレンディをきちんと黒幕化して、「悪夢はつづく・・・」みたいな邪悪な雰囲気をかもしだしたら物語が少しスッキリするのではないかという案です。みなさんも、超絶ヒマなときがありましたら、例題にチャレンジしてみてください。

ちなみに『ミノタウロスの皿』は短編集でして、本作をふくめて珠玉の13作が収められています。どれも日常の軸をぶらしにかかる怪作ですが、ブレンディのCMのような不快な放置プレイはありませんので、安心してお読みください。

というわけで、NPOカタリバ今村亮がレビューさせていただきました。中高生とともに活動するNPOの現場から感じたことを、漫画のレビューを通して毎月お届けいたします。ご指導よろしくお願いいたします。

ミノタウロスの皿 (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)
作者:藤子・F・不二雄
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