自意識ビンビンで感じやすい君に電気ショック!『隠慎一郎の電気的青春』 暴走する自意識と戦う放電男子の青春

園田 菜々2015年10月21日 印刷向け表示
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場が温まってきたあたりで自分に回ってくる自己紹介が苦手です。すべって場を冷やしてはならないというプレッシャーから動悸息切れがすごいし痰は絡むし。といって戦陣切って最初に自己紹介をするのも同じくらい緊張する。だから、2番目くらいがちょうどいい。

自分にばかり意識が向きすぎていると、どうしても感じやすくなってしまうものです。ひとの目ばかり気にしているひとって、大概どうでもいい些細なことに一喜一憂して、とても感情が忙しい。心休まる暇がない。
そして、そんな「自意識」に手足を生やしたかのような主人公、隠慎一郎くんが登場する『隠慎一郎の電気的青春』。
 

隠慎一郎の電気的青春(1)
作者:ツナミノユウ
出版社:講談社
発売日:2011-11-07
  • Amazon Kindle

 この漫画、とにかく目立ちたくない隠くんがとにかく目立ちたくなくて仕方ないストーリー。

というか、目立つと、放電するのです。

 (ツナミノユウ『隠慎一郎の電気的青春(1)』)

すごい。この設定の無駄遣い感。わりとよくある自意識過剰男のギャグ漫画のはずなのに、放電という要素があるだけで、トンデモ漫画のように思えてしまう。この漫画はとにかく目立ちたくない隠くんが目立ちたくないのに目立っちゃって放電してしまうストーリー。
ただ、読んでいるうちにだんだんと、この一見よくわからない放電設定とか、一貫して根本の部分が何も成長しない隠くんとか、その演出自体がまさしく自意識の本質をついているのではないか、と思ってしまう。

なんというアナーキーな振る舞い!

ちなみに、自意識の本質とは微塵も関係ないですが、地味に一番好きなシーン。

 (ツナミノユウ『隠慎一郎の電気的青春(1)』)

 (ツナミノユウ『隠慎一郎の電気的青春(1)』)

私はこの「なんだいまのウィンウィンは!」というセリフでじわじわと1時間にやにやしてしまいまして、正直このセリフを読んだだけでも買う価値あったな、という感じです。いや、もちろん全編面白いですよ。ずーっとじわじわとにやにやしてしまう。
そして時々苦笑する。
でもなんだか、ちょっと共感してしまう。
 

自意識が猪突猛進の隠くんと冷静なクラスメイト

目立ちたくねえぜ!みんな僕を見ないでくれ!みたいなひとって、思いがけず注目を集めた途端、意外とまんざらでもなさそうだったりしますよね。
ただ、隠くんの目立ちたくない気持ちはわりと徹底していて、ある意味好感がもてます。というか命狙われてるんじゃないの、と思うほどに怯えていて、少し肩の力を抜いてほしいような。

 (ツナミノユウ『隠慎一郎の電気的青春(1)』)

ただ、この漫画、ひたすら隠くんの自意識が暴走していく中で、クラスメイトはかなり冷静に眺めている。この構図が一切崩れない。隠くんがひたすらぐるぐるとパニックに陥っている中で、極端なほどにクラスメイトは冷静なんですよね。

 (ツナミノユウ『隠慎一郎の電気的青春(1)』)

「どうせ誰も見てないんだから」という戯言が通用しない世界

よく自意識過剰なひととかあがり症なひとに対する、「どうせ誰も見てないんだから」っていう決まり文句ありますよね。
でも、それ隠くんに言っても無駄なんです。だって誰もが見てしまうほどに電気を発してしまうのだから。というか、見てますよね。クラスメイト、めちゃくちゃ隠くんに注目しているんです。


読んだ当初は、この電撃設定って単なる変化球かな、程度に思っていたのですが、読んでいるうちに意外と自意識の本質を突いているのでは、と思うようになりました。
そのきっかけは、隠くんが目立つということ以外で放電してしまう場面。

 (ツナミノユウ『隠慎一郎の電気的青春(1)』)

 (ツナミノユウ『隠慎一郎の電気的青春(1)』)

恋もある意味自意識との戦いですよね。「あのひとは私のことをどう思っているんだろう」って、相手の気持ちが見えない分、自分で自分を客観的に見ようとして自意識がぐるぐるしてしまうものだと思うのですが。

そして、だいたい片思いでばれてるものですよね。私はばれなかったことがないですし、人の片思いも大体気づきます。誰にも気づかれていないだろうなんて思っていても、けっこう裏ではひそひそと言われているわけです。
気がつくと相手を見てうっとりとしていたり、目が合うと挙動が不審になったり、ぎこちなくなったり、可愛い顔を作ったり、可愛い女の子の前でつい格好つけてしまったり、話し方が流暢になったり、滞ったり、痰が絡んでエヘン虫になったり。
隠くんは、この自意識のバレバレ感を、放電という体質で可視化しているのではないかと思うのです。「どうせ誰も見てないんだから」が通用しない世界。それはこの作品内に限らず、わりと現実世界も通用してないと思うんですよね。
わりとみんな見ているし、その照れとか自意識過剰な部分を隠そうとしている姿こそ目立ってしまうわけです。目立っちゃいけない目立っちゃいけないと思うほどに。
そして意識しすぎている分、些細なことも地球規模に感じてしまうわけです。
というか、実際どうなのかなんてわからない以上、自分が注目されていると思ったらもう注目されているんですよね。


 (ツナミノユウ『隠慎一郎の電気的青春(1)』)

そう、目立つくらいなら0点を取ってもいいし、地球が滅亡してもいい。
些細なことも地球規模。なんて徹底した自意識過剰なんでしょう。

ただ隠くん、モテるんですよね。

 (ツナミノユウ『隠慎一郎の電気的青春(1)』)

今後、隠くんがちやほやされすぎて、世の自意識過剰者が調子に乗り始めないことを祈ります。私も含めて。

蝉丸残日録(1)
作者:ツナミノユウ
出版社:講談社
発売日:2015-07-23
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つまさきおとしと私
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