『殺し屋1』『ホムンクルス』の鬼才・山本英夫が放つ今風ヒーローは、「オタク」で「卑怯」?『HIKARI-MAN』

小禄 卓也2015年10月30日 印刷向け表示
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先日、殺し屋が1年間の休業でひっそりと暮らす南勝久さんの『ザ・ファブル』を紹介したが、殺し屋漫画の代表作として忘れてはいけない作品がある。山本英夫さんの『殺し屋1』だ。

殺し屋1 第1巻 (ヤングサンデーコミックス)
作者:山本 英夫
出版社:小学館
発売日:1998-06
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歌舞伎町のハグレ者グループと、超絶マゾヒストの垣原が率いる暴力団・安生組との抗争を描いた同作品は、体に熱した油を掛けたり舌を切り落としたり乳首だけ切り落としたりと、あまりに過激な描写が多い。それでも、殴られたり暴行される姿を見て欲情するサディスティックな殺し屋イチと、体中を傷付けられることに快感を覚えるマゾヒストの極み・安生組若頭の垣原という対称的な異常性愛者同士の邂逅がもたらすストーリー展開が絶妙で、漫画好きの中でも名作として語られている。

山本さんの描く漫画は、キャラクター、設定、物語、どれをとっても普通じゃない。描写の過激さとは裏腹に、現実の歌舞伎町と絶妙にリンクする世界観や、ヤクザvsハグレ者という組織同士の抗争の裏側にある超個人的な欲望が渦巻く人間の業を描くなど、実に緻密で繊細な設計がなされている。まさに奇才と呼ぶにふさわしい漫画家だ。

ホムンクルス(1) (ビッグコミックス)
作者:山本英夫
出版社:小学館
発売日:2003-09-01
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そんな彼が今描いているのが、『HIKARI-MAN』という作品で、テーマとして選んだのは、「ヒーローもの」だ。秋葉原が舞台の同作は、オタクで童貞で空気のような存在の高校生・白池光が、ひょんなことから体中に電流を走らせ、「HIKARI-MAN」として夜な夜な悪い奴らをやっつける、というストーリーである。

見た感じは冴えない感じの主人公。秋葉原が舞台というのも物語に関係しているようだ(『HIKARI-MAN』1巻より引用)
リアルでは貧弱だが、格ゲーはめっぽう強い主人公(『HIKARI-MAN』1巻より引用)

もともと静電気体質だった主人公は、ひょんなことから体全身に電気が流れ、電流のあるところを自在に行き来できるようになる。しかも、HIKARI-MANのうちは、得意の格ゲーよろしくリモコン操作で自身の体を自由自在に動かせるのだ。

透明人間ならぬ電流人間がここに誕生した(『HIKARI-MAN』1巻より引用)

自分の身元がバレないなら、真っ先に行のは間違いなく気になる女性の部屋である。僕も行ってみたい(『HIKARI-MAN』1巻より引用)

こうして彼はHIKARI-MANとしてわるいやつらを成敗しにいく。

HIKARI-MANをアーケードスティックで操作するなど、ハード(本体)とソフト(HIKARI-MAN)としての関係性が成立している(『HIKARI-MAN』1巻より引用)
まさに秒殺!向かうところ敵なしかも(『HIKARI-MAN』1巻より引用)

HIKARI-MANは、まだまだ謎に包まれているためその全貌は掴めないが、特徴として「電流が通っているところなら自由自在に移動できる」、「痛みを感じない」、「本体に戻ってきたら痛みを感じ始める」、「格ゲー用のアーケードスティックで操作できる」、「強い」、「電流は消耗していく(0%になる?)」、「見た目は透明人間が光をまとったような感じ」、「HIKARI-MANとして戦ったデータは、時々本体にメモリとして記憶される」といったところまでは判明している。

本体である白池光は学校や放課後に不良グループにいじめられているため、HIKARI-MANとなって彼らに復習するのだが、その様子を見ていると、なんかちょっと卑怯っぽい空気を感じるのは僕だけだろうか。僕の知っているヒーローとは少し違う気がする。

自身の身元を隠したヒーローなら、スパイダーマンやバットマン、グレートサイヤマンなどたくさんいるが、それでも彼らは自分の身ひとつで戦っている。一方HIKARI-MANは、半ば幽体離脱状態のようなスタイルで戦っているため、ハード(本体)とは別物であると考えてよい。この、身を削っているようで削っていない感じが、ジワジワ来る。

本体としての白池光は、いじめられっ子そのもの。しかし、その体にも徐々にHIKARI-MANの影響が出始める……(『HIKARI-MAN』1巻より引用)

『HIKARI-MAN』は、文字通り電気化した人間である。そして舞台は秋葉原で、主人公はオタク。こうして見てみると、今のインターネットの世界にも、物理世界ではないにしろ『HIKARI-MAN』のような存在は多いのではないだろうか。自分の中の正義を振りかざして匿名で他人を攻撃することで欲求を満たすような人たちのことだ。「なんか卑怯だ」と僕が直感的に思ったのは、今のHIKARI-MANにそれを重ねてしまったからかもしれない。

メディアのインタビューで山本さんは、「電気という人間の感情と対局にある無機質なものを比較対象として置くことで、人間を描きたい」と話している。それを考えると、『HIKARI-MAN』はこれから先、どんな風に展開されていくのかがまったく読めないところ。

そして山本さんは、「今までの作品に比べて明るいものにしよう」とも話しているが、週刊誌での連載を追いかけている限り、早くもその目論見は崩れつつある。クラスのいじめっ子グループのリーダー・瞬也の悪い先輩、その名も蛇伊也(だいや)君が登場し、物語は徐々にダークサイドへの扉を開こうとしている予感。結論として、次の展開が待ち遠しくなっている。

HIKARI-MANは電気がなくなったらどうなる?主人公自身は強くなるのか?このままダークサイドの世界に引きずり込まれていく?ちょっとエッチな展開はある?

いまだ謎の多い『HIKARI-MAN』だが、2巻からグッとおもしろくなってきている。今後の展開から目が離せない。

HIKARIーMAN 2 (ビッグコミックススペシャル)
作者:山本 英夫
出版社:小学館
発売日:2015-09-30
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