【臨時ニュース】統合幕僚監部報道官、11月8日午前5時発表。 『空母いぶき』を中心とする海上自衛隊 第5護衛艦隊群は今8日未明 先島諸島海域において中華人民共和国人民解放軍と戦闘状態に入れり

角野 信彦2015年11月08日 印刷向け表示
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本日未明、人民解放軍のステルス機「殲撃20」が、先島諸島・宮古島の航空自衛隊のレーダーサイトおよび与那国島の陸上自衛隊分屯地をミサイル攻撃し、中国人民解放軍上陸部隊によって、宮古島、与那国島、多良間島の3島が不法占拠された。航空自衛隊の偵察機によると、尖閣諸島の魚釣島・南北小島には既に大隊規模の人民解放軍の海兵が上陸し、巨大な五星紅旗が掲げられている。海上自衛隊の空母いぶきを中心とする、第5護衛艦隊群は現場海域に急行している。

かわぐちかいじ『空母いぶき』2巻

・・・・と、オーソン・ウェルズのラジオドラマのように始めてみたが、彼がH.G.ウェルズの『宇宙戦争』を臨時ニュース風にやって、全米にパニックを引き起こしてから77年がたつ。『市民ケーン』で有名なオーソン・ウェルズが、ラジオで火星人が来襲したと伝えて、ラジオを聞いていた人たちが恐慌を起こした1938年の事件だ。

僕らは「火星人来襲」と聞くと、「なにを荒唐無稽な」と言って笑うのかもしれない。なにせ日本の領土に攻め込まれるような戦争は70年も経験していない。第二次世界大戦を兵士として経験した人たちはほとんど90代になっている。僕は40代だけれども、戦争というものはほとんど「火星人来襲」と同じレベルで考えてきた。

そんな僕の「平和ボケ」した頭をシャキッとさせて、現実を直視し、考える機会を与えてくれたマンガが今回紹介する『空母いぶき』だ。『沈黙の艦隊』『ジパング』と戦争と個人、国家と個人をテーマに大作を描いてきた かわぐちかいじ の新作で、今作の舞台は航空母艦になる。

僕がこのレビューを書いているときにも、こんな記事が夕刊フジのトップを飾っている。

2015年11月5日付 夕刊フジ

かわぐちかいじは預言者ではないかと思うぐらい、状況が似ている描写が2巻で描かれている。ぜひ、該当ページを読んで、あなたが自衛隊員ならどうするか?究極の葛藤を想像して欲しい。

ところで、空母は攻撃型空母と護衛空母というのが存在する。空母に関する政府見解が防衛省のホームページに載っているので引用する。

(1) 保持できる自衛力
わが国が憲法上保持できる自衛力は、自衛のための必要最小限度のものでなければならないと考えています。その具体的な限度は、その時々の国際情 勢、軍事技術の水準その他の諸条件により変わり得る相対的な面があり、毎年度の予算などの審議を通じて国民の代表者である国会において判断されます。憲法 第9条第2項で保持が禁止されている「戦力」にあたるか否かは、わが国が保持する全体の実力についての問題であって、自衛隊の個々の兵器の保有の可否は、 それを保有することで、わが国の保持する実力の全体がこの限度を超えることとなるか否かにより決められます。

しかし、個々の兵器のうちでも、性能上専ら相手国国土の壊滅的な破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、直ちに自衛のための 必要最小限度の範囲を超えることとなるため、いかなる場合にも許されません。たとえば、大陸間弾道ミサイル(ICBM:Intercontinental Ballistic Missile)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されないと考えています。

 
防衛省・自衛隊 憲法第9条の趣旨についての政府見解

http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon02.html

1978年に最後の攻撃型空母を退役させたイギリス海軍が、垂直離着陸機しか運用できない護衛空母で臨んだ島嶼の防衛・奪還作戦がある。1982年4月に起こったフォークランド紛争だ。この紛争の原因を見ていくと、現在の尖閣諸島をめぐる問題に似ているので驚かされる。

1976年にクーデターで成立したアルゼンチンの軍事政権の経済運営が行き詰まり、フォークランド紛争の前年のインフレ率は130%、GNP成長率はマイナス6%、失業率は30%にも達していた。政権への不満が高まると、軍事政権はマルビナス諸島(フォークランド諸島のアルゼンチンでの呼称)の奪回のキャンペーンを張り、民衆の政策への不満を、イギリスとの軍事対決へと向けさせる。アルゼンチンの民間人がマルビナス諸島に上陸して国旗の掲揚を行ったり、それをイギリスの警備隊が退去させたりするなかで、反英感情がピークに達する。

一方で、1982年にイギリス海軍の予算削減にともない、後にフォークランド紛争で活躍することになる護衛空母のハーミーズやインヴィンシブルなどが削減されることが発表され、アルゼンチンの駐英海軍武官によって本国に報告される。イギリス海軍の弱体化を見て取ったアルゼンチンの軍事政権の戦闘意欲が高揚していた。

さらに、アルゼンチンは、国連安全保障理事会で自国が「侵略国」と認定されることは、ソ連の反対があるので、無いだろうと見ていた。しかし、ソ連は北方領土などの自国にとっての領土問題を懸念して投票を棄権してしまい、安全保障理事会で「侵略国」認定されてしまう。アルゼンチンとは違い、中華人民共和国は安全保障理事会の常任理事国である。人民解放軍が引き起こすどのような戦闘行為に対しても、それを非難する決議は拒否権によって可決されないだろう。

南極に近い2,000人足らずの人口しか無い島嶼を侵略したり、防衛したりする経済的な意味は両国にとって極めて小さかったにも関わらず、このような大きな戦闘が起こってしまったのは、その戦闘による政治的価値が大きかったからだと考えられる。アルゼンチンの軍事政権にとっては経済運営への不満から国民の眼をそらす好機に写っただろう。一方のイギリスのサッチャー政権は、国営企業の民営化や社会保障費用のカットなどによって労働組合との対立が先鋭化していた。そうした国内の情勢がサッチャー首相の政策判断に全く影響しなかったといえば嘘になるだろう。

その上で、アルゼンチンが英国海軍の海外展開力を、英国海軍の削減計画を聞いて低く見積もったこと、国連安全保障理事会はソ連によって決議という錦の御旗を出すことはないだろうという予断が重なり、フォークランド紛争は勃発した。こうした事実と現在の日本と中国の状況を比較しながらこのマンガを読むと、考えさせられる場面が多い。中国が尖閣を占領する政治的なきっかけはまだマンガのなかで描かれていないが、人民解放軍海軍武官などの気になるキャラクターが出てきて、次の巻が待ち遠しい。

かわぐちかいじ『空母いぶき』2巻

イギリスがこの紛争に勝利出来た戦術的な理由を一点だけ挙げるとすると、それは原子力潜水艦4隻が、対潜能力がほとんど無かったアルゼンチン海軍の制海権を完全に奪ったからだと言われている。アルゼンチンの使用可能な航空戦力はイギリスがフォークランド紛争に展開したものの10倍近くあり、アルゼンチン海軍の航空母艦がフォークランド紛争に使用されれば、イギリス軍はそうとうの苦戦が強いられたであろう。

よく知られているように、防衛という観点でみると、海上自衛隊の対潜能力は世界でもトップレベルにある。そうした対潜戦闘などの描写も使われている兵器も含めてものすごくリアルに描かれている。そうしたリアルさと、マンガならではのカタルシスのバランスの良さはさすが かわぐちかいじ だと思わせる。

 
かわぐちかいじ『空母いぶき』1巻

先日、永江一石さんが紹介してくれた、石破茂さん原作のマンガ『国防』もマンガHONZ経由でたくさんの人に読んでいただいたらしい。この『空母いぶき』はステルス戦闘機や海上自衛隊の空母運用、与那国島での陸上自衛隊分屯地など、近未来に実現することが決まっていたり、実現することが予想されることが盛り込まれている。国防というものを、マンガで、しかもリアルな兵器まで登場し、ドキドキさせるストーリーで学べるというのはこの本以外にはない。ミリヲタだけに読ませておくのは惜しい。ぜひ手にとって国防を考えるきっかけにして欲しい。
 

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作者:かわぐち かいじ
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