『亜人(デミ)ちゃんは語りたい』で学ぶ、人生に折り合いをつける方法。

佐藤 樹里2015年11月06日 印刷向け表示
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包帯でぐるぐる巻きのクラスメイトが登校してくると、見るからに痛々しい。腕の骨折や足の骨折で何重にも巻かれた白い布は、周りの人が気遣うためのじゅうぶんすぎる理由になる。「どうしたの?」「大丈夫?」心が優しくなくてもこのくらいの言葉なら誰でもかけられる。移動教室で手伝いが必要ならば誰かが手伝う。本人にしてみれば不幸でしかないが、「目に見えるつらさ」に対する日本人の優しさはわかりやすい。インフルエンザにかかった時の周りの優しさもわかりやすい。日本人は標準化が大好きだから、わかりやすい指標にはとても素直に従う。それとは反対に、「目に見えないつらさ」には厳しい。たとえ心が包帯でぐるぐる巻きであろうが、劣等感という名のかちかちのコンクリートで心が覆われていても、立って歩いて息をしている限り健康そうに見えるので誰も気遣わない。けれども誰でも心の弱い部分は持っているので、本当は気づいて優しくしてほしいのではないだろうか。匿名でしか本音を出しにくくなっている現状を見ていてそう思う。

『亜人(デミ)ちゃんは語りたい』では「亜人(デミ)」と呼ばれる変異したキャラクターたちが登場する。彼女たちは認知されているものの、存在する確率は極めて低く、いわばマイノリティとして生活している。バンパイア、頭と胴体が分離したデュラハン、雪女ちゃん、人をみだらな気持ちにしてしまうサキュバス。それぞれが外見的または内面的に特色を持っている。

( 亜人ちゃんは語りたい 1巻 )

彼女たちは極めて個性的なのだが、個性的でありすぎるがゆえにコンプレックスをかかえている。しかしながら、個性に関して悩むのは誰しも経験することではないだろうか?なかなか成長しない身体や、周りに合わせられない自分。勉強についていけなかったり、みんなができることができなかったりと、「人と違う自分」に違和感を持つことは誰でも経験する。このマンガに出てくる「亜人(デミ)」は、もしかして私たちのいびつな心を身体の形として表現しているだけなのではないだろうか。包帯ぐるぐる巻のクラスメイトがわかりやすく怪我をしているように、亜人(デミ)ちゃんはわかりやすくコンプレックスをかかえている。そして「人と違う私って何かおかしいのかな」と感じてしまう女の子に、先生が人生での折り合いのつけ方を教えていく。

( 亜人ちゃんは語りたい 1巻 )

”人付き合いは「どれくらいまで許容できるか」を探るのが大事なんだろうと思う”

本質的なところは、現実の学校生活となんら変わらない。思春期特有の悩みも、それを解決へと導き、癒やしてくれる教育者の姿もベストな形で揃っている。

外見的なコンプレックスをかかえた人も、精神的な問題をかかえた人も、この世に生きるひとりひとりが何らかのマイノリティであり、亜人の性質を持ちあわせて生きているのではないだろうか。だから『亜人(デミ)ちゃんは語りたい』を読むと、登場キャラクターたちが人生に折り合いをつけているのと同時に、気づくとこちらまで癒やされてくる。

近年特効薬のあるインフルエンザよりも、普通の風邪が重篤化したほうが、抑える薬しかなくてつらいという話を聞いたことがある。確かに私もインフルエンザにかかった時、検査の段階でインフルエンザの陽性を願ったことがある。インフルエンザならば学校が欠席扱いにならないからだ。つらいのは変わらないけれど、少しいびつな構造だと思う。けれども、インフルエンザもノロウイルスも一般化されていなかった頃、毎年やたらとつらいのに周りが理解してくれず、風邪だと済まされてきてしまった人たちがいるはずだ。いまの世の中は心が病んでいて、個別に吐き出す場所を求めさまよっているように感じる。10年後、20年後には小さなSOSがすぐに解決の道へとアクセスできる世の中になっていればいいなと願う。

( 亜人ちゃんは語りたい 1巻 )

いまは発言するのに勇気が必要だけれど、亜人(デミ)ちゃんのように勇気を出してしてほしいことを言えば、世の中は意外とやさしくしてくれる。そんなときに、考慮は待つものではなく「なんだ、気づかれていなかっただけなんだ。言わなくちゃだめなんだ。」と気づくものだ。

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