『独裁国家に行ってきた』204カ国を旅した筆者が語る

2015年11月11日 印刷向け表示
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独裁国家に行ってきた

作者:MASAKI
出版社:彩図社
発売日:2015-07-24
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204カ国。本書の著者が訪れたことのある国の数だ。限りある人生のなかでは、訪れることのできない国、自分自身の目・耳で感じることのできない世界が山ほどあるのだろう。いや、たとえ同じ国を訪れようとも、タイミングや、そこでの人との出会いが異なれば、見える世界や抱く印象は異なってくる。だからこそ、他者の旅行記は、自分が知らない世界、味わったことのない経験に触れられる貴重な資源だ。まして本書は「独裁国家」にフォーカスした旅行記で、取り上げられている国の多くが、一生を通じても訪れる可能性が低いと思われる。

本書で紹介されている「独裁国家」は、トルクメニスタン、リビア、北朝鮮、ジンバブエ、サウジアラビア、ベネズエラ、キューバ、ベラルーシ、シンガポール、ナウル、コンゴ、ブータン、リベリア、シリアの全15カ国。

日本だったらありえないことだらけ

「独裁国家」と聞いて最初に思い浮かぶのはどんなイメージだろうか。強権政治。賄賂が横行している腐敗した社会。未発展で貧しい国…。そんなマイナスのイメージが強いのではないだろうか。本書でもそうした“予測通り”の負のエピソードはたくさん詰まっている。

「この国ほど、出国できてほっとした国は204カ国行ってきた中でも他にない」と著者が語るベネズエラ。社会主義の独裁国家であるこの国では、貧富の差がものすごく激しく、一般の観光客や富裕層が集まる地域には、先進国さながらのショッピングセンターやホテルが集まる一方で、スラム街では道端に死人が倒れていることも珍しくない。殺人発生率はなんと日本の50倍だ。宿のすぐ近くで待ち伏せされ強盗に遭っても、宿の従業員は見て見ぬフリ、警察も自分が殺される可能性があるため、すぐには駆けつけてくれない。早くこの国を出ようと画策するも、どこへ行っても賄賂を要求されるばかり…。なにしろ本物の警察さえも”カツアゲ”をしてくる国だ。

「世界一危険で世界一残虐な国」とされるコンゴでは、正式なビザをもっていたにも関わらず不当に拘束されて監獄に入れられるし、経済が破綻して自国通貨がめちゃくちゃになったジンバブエでは、「50セント」と書かれた白い紙切れをお釣りとして渡される。イスラーム教徒以外の入国を厳格に制限しているサウジアラビアでは、パソコンやUSBを勝手に調べられ、少しでもいかがわしいと判断された画像は断りなく削除される…。

日本では考えられないような出来事の数々に、筆者と共に時に冷や汗をかき、時にハラワタを煮えくり返らせながらも、それらの国々への完全な「嫌悪感」は不思議と湧いてこない。あやういバランスのもとで国のカタチを必死に守ろうとする地道な努力や、国に翻弄された末のヒトの“ありさま”が、どこか他人事ではないように感じるからかもしれない。

「貧しさ」にお金をあてがうことは正義なのか

世界で唯一「解放奴隷」が作った国リベリア。その首都モロンビアで筆者が直面したのは、どんな状況でも、何を話していても、最後には「金をくれ」と要求してくる人々だった。周辺国やそこへの移動手段について親切に教えてくれていたのに…。日本人の知り合いもいて、心をある程度開いて話をしていたのに…。みんな最後には、何かと理由をつけて「金をくれ」とせびってくる。そのウソの理由を追及すると、さっきまで「フレンド(友達)」だと言っていたのに「BAD MAN(悪い男だ!)」と怒り出す。

貧しい国であることは事実だが、そこで100円をあげたとして何になるのか。「GIVE ME(くれ)」と言えばもらえるんだという考えを植え付けるだけではないか。そう筆者は問いかける。

この国の章のタイトルは「世界で最も復興が難しい西アフリカの国」。そしてまとめの部分で筆者は次のように書いている。

日本国民には、リベリアに政府開発援助を1円たりとも出さないように要請したい。・・・どう考えてもこの独裁国家が、受け取った援助金をちゃんと国のために使うとは思えないのだ。

お金のみの支援は良い未来に繋がるのか。国の施策にも、草の根レベルでの「支援」にも通じる普遍的な問いであろう。

先日、私がキューバに行った際に教会で話しかけてきた女の子。「ポテトチップスが食べたい」と。

豊かさとは、幸せとは何なのか

個人的に一番印象深かったのは、太平洋に浮かぶ島国のナウルだ。ナウルは良質のリンが“かつて”大量に採れた国だ。1990年代後半からはリンが枯渇していき、それまでに得ていた利益も後先考えずに使ってしまったせいで、経済は破綻。この国でよく使われるのが「USED TO BE(かつて、そうだった)」という言葉。“かつて”は図書館があり、“かつて”は全家庭に車があり、“かつて”は労働するのは外国人だけだった…。

そんなナウルでは、今も人々の労働意欲は低く、朝食さえも自分たちで作らない。経済は国際援助に頼り、通貨はオーストラリアドルを使い、国内物質は輸入に依存。料理も雑貨も文化も何も「ナウル独自」のものはない。だがそうした国の状態をナウル人はまったく気にしていない。生活のペースは非常にゆったり。「今がよければいいじゃないか」。資源によって育まれたこの国の気質は、資源が枯渇しても、生き続けている。

著者は本書のなかで何度も「鎖国された国こそ、人がスレていなくて温かい」と述べているし、ブータンや北朝鮮では、外の世界から切り離されているからこそ、今の生活への満足感や幸福感を持っていたり、国への愛情や忠誠心を育めていたりする。どんな社会や生き方が「豊か」で「幸せ」なのか。日本の暮らしと照らし合わせて考えずにはいられない。

私がキューバで出会った女性たち。平日の昼間から、まったりとおしゃべり

15カ国の旅を追体験し終えて気づいたのは、「独裁国家」を見つめていたようで、私たちにとって当たり前に存在している「民主主義」や「資本主義」へ疑問を投げかける自分だった。本書を読み終えたときあなたは日本を、そして世界をどう感じるだろうか。
 

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