あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!「おれは『死刑執行中脱獄進行中』を読んでいたと思ったら いつのまにか"ジョジョ"を読んでいた」

宮﨑 雄2015年11月11日 印刷向け表示
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死刑執行中脱獄進行中―荒木飛呂彦短編集 (SCオールマン愛蔵版)
作者:荒木 飛呂彦
出版社:集英社
発売日:1999-11
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「荒木飛呂彦ってジョジョの人でしょ?」


『ジョジョの奇妙な冒険』のアニメがブームになったとき、そんな事を言う人を「こいつはメチャ許さんよなああああ」って思っていた時期が僕にもありました。バックブリーカー食らわせる勢いでした。
たしかに『ジョジョ』の作者だけど、『ジョジョ』だけの人じゃあないんだよ、と。荒木飛呂彦は偉大な芸術家なんだ。荒木飛呂彦の世界は容易に語りうるものじゃあないんだよ、と。

しかしそんな僕は、教典を歪んだかたちで解釈して人に布教するタイプの迷惑極まりない異端者でした。愛するものは深遠でなければならないという、思い上がりも甚だしいテーゼにとらわれた愚かな子羊でした。本質を突いていたのはまさに”荒木飛呂彦=ジョジョの人”というシンプルな等式だったのです。この真理に気づかせてくれたのが、『死刑執行中脱獄進行中』でした。

『死刑執行中脱獄進行中』とは

『死刑執行中脱獄進行中』は荒木飛呂彦が描く珠玉のストーリー集「死刑執行中脱獄進行中」に収録される短編です。本書には他にも、極限状態における猫と人間の心理バトル『ドルチ』やジョジョ4部に登場したある人物のその後を描く『デッドマンズQ』、そして『岸辺露伴は動かない』シリーズの記念すべき第一作『エピソード16・懺悔室』が収められています。雑誌掲載時にはアンケートで他作品をブッちぎりで超越していたであろう名作ばかりです。
『死刑執行中脱獄進行中』は、それらの中で表題と巻頭を飾るというどエライ作品なのです。

この説明だけでも『死刑執行中脱獄進行中』のオモシロさが十分伝わったかもしれません。しかしこの作品の素晴らしさの本質はそこじゃあありません。なんと、35ページという短さの中に荒木飛呂彦作品、つまり『ジョジョ』の魅力が凝縮されているのですッ!!

この見出しを見て 続きを読んだとき お前らは


ネタバレを食らうことになります。ご注意ください。この先の文で35ページの短編のオチを容赦なくバラします。我慢できる方のみ、続きにお付き合いください。


はい、それではあらすじから参ります。主人公は2ページ目でいきなり死刑宣告を受けてしまった男、囚人27号。彼は自分に対してナメたウソをついた女の子を殴殺した罪で投獄されましたのです。彼自身はウソをつきますが、他人にウソをつかれるのは絶対に許せなかったからです。

『死刑執行中脱獄進行中』より

『死刑執行中脱獄進行中』より

判決後、囚人27号は監獄にブチ込まれます。しかし収監されたのは…

『死刑執行中脱獄進行中』より


どうみても高級マンション。トイレにはウォッシュレットもついていて、彼がシャバで住んでたアパートよりもぜんぜん豪華です。

しかし、何かがおかしい。電灯をつけようとしたらスイッチからスズメバチ、ご飯を食べようと椅子に座ったらバラバラに壊れて脚が体に突き刺さる…そして寝転んだ床からは肌を焼く酸が染み出て…

『死刑執行中脱獄進行中』より

そう、彼が収監されたのは、監獄ではなかったッ!『処刑室』だったッ!死刑は既に、執行されていたッ!
気づいた時には既に遅し、次々と迫る処刑。命からがら逃げ込んだ先も、ソファー型電気椅子!
しかしそれで終わらないのが荒木作品。囚人27号はまさかの機転でしっかり切り抜けます。
すると、、、

『死刑執行中脱獄進行中』より

ピンチの後にはチャンスが来るもの。なんと、電気椅子が爆発した衝撃で部屋の壁に穴があいたのです。しかし…?

『死刑執行中脱獄進行中』より

『死刑執行中脱獄進行中』より


囚人27号は逃げ出しません。家具が処刑道具だったように「穴のフチから”ギロチンの刃がストーン!”と落ちてくるから」です。そして、”オレは…人をだますかもしれないが だまされるのは大嫌いだ”というモノローグ。
思い出されるのは冒頭の『オレはウソをつくかもしれないがウソをつかれるのは大嫌いだ』というセリフ。つまり、彼が脱獄しないのは「騙されるのが嫌だから」なのです。「ギロチンに首を落とされること」よりも「”ギロチンなんてない”と思わされて首を差し出すこと」に耐えられないのです。彼は自身が犯した罪の理由を分析し、きちんと言語化できています。自分の魂の在り方に直結すると察知しているからこそ、女の子のウソを許すことができなかったのです。魂の尊厳が守られさえすれば罪など関係ないのです。
そして50年。彼の姿は滑稽ではありますが、同時に僕の目に眩しく映ります。だって、今の僕にこの先50年間ブレないものがあるでしょうか。ここを譲ったら魂が死んでしまうと言えるような在り方を、持っているでしょうか。きっと、それがあったらどんな人生でも一流の人生だと言えると思います。

一流の生き様、その名も”ジョジョ”


彼のようなカッコいいキャラクターがワンサカ登場する国民的漫画があるのてすが、ご存知でしょうか?ハイ、正解!…そうッ!『ジョジョの奇妙な冒険』です。
『ジョジョの奇妙な冒険』のキャラクターは誰もが皆、一貫した価値観に従って生きています。自分で決めた自分の生き方に、正直に、ブレることなく殉じる覚悟を持っています。正義か悪かは、世間一般に照らし合わせて是か非というだけの区別でしかありません。物語における主人公視点の置き方の違いでしかありません。
であれば“ジョジョ”とは、そんな一流の生き様を指す一般名詞といっても良いのではないでしょうか。もちろん『ジョジョの奇妙な冒険』作中における「ジョジョ」は、主人公となるジョースターの一族を意味する固有名詞です。しかし、『ジョジョの奇妙な冒険』という題の物語に登場するのはジョジョだけではない。歴代ジョースターが勝利を収めるのは、そんな”ジョジョ”たちのなかで圧倒的に“ジョジョ”的であるからなのではないでしょうかッ!?
現実に生きる僕らはきっと、嘘吐き野郎です。意識せずとも他人も自分も裏切っています。ブレずに生きるのは本当に難しいことです。だからこそ、ブレなくて、それゆえに勝利を掴む“ジョジョ”達に憧れるのです。

だめ押しにもう一本。なんと過去に荒木飛呂彦ご本人もインタビューで「ジョジョしか描けない」という発言をしています。もう、お分かりですね。この言葉は『ジョジョの奇妙な冒険』しか描けないという意味ではありません。
「ジョジョしか描けない」それは、どんなキャラクターを描いても“ジョジョ”という一流の生き様を見せる人物になってしまうーそんな荒木飛呂彦の類まれな才能と性(さが)を端的に表した発言だったのです。つまり、”荒木飛呂彦=ジョジョの人”なのです。囚人27号も"ジョジョ"なのです。

というわけで"荒木飛呂彦=ジョジョの人"を証明するために『死刑執行中脱獄進行中』を思いっきりネタバレしてしまいました。しかし前述のとおり、「死刑執行中脱獄進行中」は他にもベリーナイスな短編を収録しているので、ひとつでも未読の方にはメチャオススメです。
しかも、しかも!『死刑執行中脱獄進行中』は11月20日(金)から森山未来さん主演の舞台が始まります。舞台という現実と非現実の狭間にて、“ジョジョ”がどう表現されるのかが楽しみでしょうがありません。観に行かれる方は予習がてらにもぜひぜひ。大阪公演のチケットは売り切れてしまったとのことですが、東京公演はまだ残っているそうです。観るなら急げッ!Go Ahead!!

死刑執行中脱獄進行中―荒木飛呂彦短編集 (SCオールマン愛蔵版)

作者:荒木 飛呂彦
出版社:集英社
発売日:1999-11
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変人偏屈列伝 (愛蔵版コミックス)

作者:荒木 飛呂彦
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