もし、教師が生徒のために使える予算が青天井だったら。法でさえ金でねじ伏せる『吊金先生』

工藤 啓2015年11月12日 印刷向け表示
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吊金先生(1) (講談社コミックス)
作者:加茂 ユウジ
出版社:講談社
発売日:2015-08-17
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GDP比の公教育支出はOECD諸国最下位レベル。いじめの認知件数18万5千件。6人にひとりの子どもが貧困状態。学校や教員に過剰な責務が課されるなか、この10年間で教師の精神疾患患者数は3倍近く。さらに財務省が小・中学校の教職員を4万人程度削減する案も浮上しており、ひとも予算も精神も削られながら、目の前の子どもたちのために奮闘しているのである。

全員とは言わない。(個人的には反対であるが)自らの身を削り、生徒と向き合い、不眠不休で子どもたちの人生に関わっている教師たち。生徒たちを取り巻く諸問題の解決に汗水を流す。ひっ迫する財政、削減される公教育費。予算がないなかで使えるのは教師自身の時間のみ。それでも24時間では足りないほどに教室内外には問題が山積している。

ここでふと思うことがある。教育費に多くが割かれ、教員一人ひとりに対し、子どもたちのために必要であればその額は青天井でよい、という予算がついたとしたら、現存する子どもたちの問題はすべて解決できてしまうだろうか。『吊金先生』は、まさにそれをシミュレーションした漫画である。

校長に大金を積んで教員として採用させた吊金(つりがね)先生は、すべての問題はお金で解決できることを信念にしている。問題児が多いとされるクラス担任を任されると、新任挨拶として生徒に10万円を渡す。

吊金先生1巻

吊金先生1巻

とりあえずの目標は担当クラスを一番にすること。成績はトップで、いじめのない明るいクラス。体育祭だって一位を狙う。おもむろに、黒板に掲示されたのは賞金表。学年1位は100万円、20位から30位で5万円と、生徒が頑張れるように一生懸命に考える。

吊金先生1巻

ある女学生は、お付き合いしている先輩にはめられ、ヌード写真を撮らされそうになる。そこに現れるのが吊金先生。そしてその先輩の携帯が鳴る。母親から自分の部屋で火事があったとかなかったとか。吊金先生は僕たちに教えてくれるのだ。世の中にはお金さえ払えば何でもやってくれるひとがいっぱいいると。

1袋ウン万円もする“ある粉”を紛失したと言いがかりをつけられ、返せない額の費用を変えさせるため夜の系列バイトで働かされそうな女学生。近くにいた女性教師は正義感を持って警察に通報するというも「ケーサツが怖くてヤクザやってられっかよ」と、ただただ動けなくなる。もちろん現れたのは吊金先生。現れたときには問題は、もちろんお金で、解決済み。男たちの「大元(ボス)」との交渉で、全てのブツを購入。危ないクスリを売る縄張り、クスリ、所有権も全部キャッシュで買い占める。

吊金先生1巻

情熱を持って生徒と向き合おうとする若き女性教師。生徒のためなら法律でさえも金でねじ伏せる吊金先生。まったくアプローチの異なる二人の教師と問題を起こす・抱える生徒たちが織り成すまったく新しい学園ストーリー。

吊金先生1巻

教育年齢にある子どもたちが悲惨な事件や事故に巻き込まれる報道があるたび、お金(予算)があれば救えた命も多々あったのではないだろうかと思うことがある。吊金先生のようになんでもお金で解決する考え方は、この国では共感されないかもしれない。しかし、『吊金先生』を読むと思わざるを得ないのだ。お金があるだけで相当数の子どもたちの命と笑顔を守ることができるのではないかと。
 

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