殺せんせーの無免許疑惑から考える学校との関わり方『暗殺教室』 あなたの学校にこんな先生はいますか?

今村 亮2015年11月13日 印刷向け表示
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あなたの教室にこんな先生はいますか?

シリーズ累計1350万部。実写映画化。今や週刊少年ジャンプの看板作品として不動の存在となった『暗殺教室』。

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)
作者:松井 優征
出版社:集英社
発売日:2012-11-02
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 この作品は、名門私立中高一貫校である椚ヶ丘中学校の3年E組に、一風変わった先生が赴任するところからスタートします。その名も「殺せんせー」。

ある日のホームルーム、月を爆破し、一年後に地球を爆破することを宣言し、防衛省に厳戒態勢で取り囲まれた謎の生命体が、教壇に現れます。どう見ても普通じゃない先生です。

人生オワタ\(^o^)/「エンド」のE組

普通じゃないのは、先生だけではありません。3年E組もまた、普通のクラスではないことが明らかになります。この椚ヶ丘中学校には、ピカピカの本校舎からずいぶん離れた裏山の旧校舎に、学力競争に敗北した生徒が追いやられ、あらゆる差別に晒される落ちこぼれクラスが存在します。それが「E組」だったのです。

こんな風に差別されます。

なんともまあ腹立つモブキャラです。

もちろん『暗殺教室』に描かれる椚ヶ丘中学校は、あくまでフィクションです。

しかし、高い壁で学園の空気を封鎖して、見えない序列をつくって、その同調圧力の中で教育を遂行していく・・・偽悪的に描かれたこの学校は、現実の一面を忠実に比喩しているところがまた本当に恐ろしいわけです。

ミッション:卒業までに先生を暗殺せよ!

そんなE組の中学3年生たちに課せられたミッションは、卒業までに先生を暗殺すること。しかもその報酬がすごい額。

地球が崩壊するか?それとも百億円を獲得するか?人生オワタと諦めていた中学3年生たちの運命の歯車は、急速に動き始めます。

殺せんせーとは何者なのか・・・なぜ3年E組にこだわるのか・・・生徒たちは地球を守ることができるのか・・・渚くん可愛すぎるんじゃないか・・・そして松井優征の真骨頂たる、狂気じみた脇役たち。『暗殺教室』にはたくさんの読みどころがあります。

が、ちょっとまて、その前に確認させてくれ。

ちょっとまて、殺せんせーの教員免許は?

ところで教育NPOではたらく筆者としては、職業病的に気になってしまうことがあります。殺せんせーは、教員免許を持っているのだろうか?

学校教育法の第一条に定められている幼稚園・小学校・中学校・高等学校・中等教育学校・特別支援学校で教職に就くには、教育職員免許法にもとづいて免許状の取得が必要です。

生まれた地域や、出会う教員の資質はさまざまですが、その偏りを最小化して、すべての子どもに一定の質の教育を届けるためには、担い手をプロフェッショナルで固める免許制度は重要です。これは日本の学校教育において、戦後復興期から重要とされてきた考え方です。

なので、中学校の教員免許を取得するのは大変です。大学の教育学部等、文部科学省が認めた教育機関に進学し教員養成教育を経る必要があります。この課程をクリアするには、一般的な卒業単位の1.5倍ほどの単位を得る必要があるので、教員志望の大学生は遊ぶ暇が一気になくなります。

殺せんせー、あなた、ぜったい無免許でしょ・・・?

 

無免許疑惑は、殺せんせーだけじゃない!

無免許疑惑は止まらない。殺せんせーの赴任は、椚ヶ丘中学校の学園人事全体に多大なる影響を与え、他にも幾人かの教員が加配されています。

たとえばこの人。E組副担任として体育教師をつとめる、防衛省の烏丸さん。

軍人なので、めっちゃ強い。

それから、英語教師をつとめる東欧出身のイリーナさん。
英語の教え方は本格的なのですが・・・

さすがハニートラップを得意技とする殺し屋。語学力を裏づけるのは豊富な犯罪歴です。

しかも、ハタチらしい。その歳で教員免許を取得できるのか・・?

それから、防衛省から来た体育教師の鷹岡さんですが、

もうね、この人にいたっては、

免許以前に人格に難あり。

これって合法なの?専門家に質問してみた。

こんなときは専門家を頼りましょう。

グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」
作者:松田 悠介
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2013-04-12
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というわけで、認定NPO法人Teach for Japan代表の松田悠介さんに質問してみました。こちらは「教育への情熱がある人材を、学校現場に2年間、教師として赴任させる」活動を行っている認定NPO法人です。

「まず、殺せんせーやイリーナ先生は教員なのか、ただの外部講師なのかを確認する必要があります。社会人講師やALT(Assistant Language Teacher)など、外部人材でも免許を持たずに教壇に立つことがありますが、この場合は免許を持った教員が付き添うことが原則となります。彼らは1人で授業をしていますか?」

はい。1人で授業しているように見えます。

「そうであれば、特別免許状を授与されている可能性が高いですね。」

 特別免許状?

「特別免許状は、学校教育が社会の変化に柔軟に対応していくことをめざし、昭和63年の教育職員免許法の改正により制度化されました。普通免許状を取得していなくとも、都道府県教育委員会の行う教育職員検定をクリアした者に免許状を授与することができる制度です。」

そんな裏ルールが!それなら殺せんせーも教壇に立てますね。

「はい。ですが特別免許状は、制度ができたからといって、実際にはなかなか機能してこなかったのが実態です。中学校においては、制度開始からの25年の間、授与ゼロの年も多く、累計でもたったの46件しか認められていません。この数は全中学校教諭の0.001%以下です。」

「この現状を重く見た文部科学省は、平成26年に制度の活用を目指した指針を作成しています。私たちTeach for Japanもまたこの制度の活用を促進しながら、魅力的な社会人経験者を教壇に立たせるべく活動しています。椚ヶ丘中学校はこうした全国の流れに敏感に学校経営を進めていると見るべきでしょう。」

なるほど。さすが敏腕で名高い浅野理事長。

松田さん、お忙しいところ解説ありがとうございました!

教育のプロじゃない先生が関わる暗殺教室で、生徒は成長する。

殺せんせーも、烏丸先生も、イリーナ先生も、3年E組の先生たちは普通免許状を持った教育のプロではありません。しかしそれぞれが、自分の道を譲らずに歩んできたプロフェッショナルです。

そんな彼らが真摯に向き合うことで、3年E組の生徒たちは見違えるように成長しています。

いつしか「エンドのE組」は学力でも学年トップを獲得します。

そこにあったのは、暗殺という絆でした。

僕たちにも、教壇で出来ることがある。

少子高齢化、グローバル化、複雑で答えがない時代がはじまっています。教育を先生方に丸投げするだけでは、この時代を乗り切るには難しいのではないでしょうか。だからこそ、みんなで学校に関わっていくことが必要です。殺せんせーや、烏丸先生や、イリーナ先生は、決して完璧な教師ではありません。それどころか、大いに欠陥のある不十分な人間です。それでいい。暗殺者にだって、軍人にだって、誰にだって、誰かの才能を引き出すやり方があります。

『暗殺教室』が示しているように、実はそのための制度はすでに整えられています。しかし制度はなかなか活用されない。リスクへの懸念のほうが先行するからでしょう。

だからこそ、その流れを推し進めるための教育NPOはがんばります。松田さんのTeach for Japanや、私の職場である認定NPO法人カタリバがそれにあたります。

教育に関わることで成長する。

そして『暗殺教室』において見逃せないのは、3年E組の教壇に立つことを通して自分の弱さに向きあっていく先生たちの姿です。教育に関わることは、関わる側を成長させていきます。

暗殺者として生きるしかなかった自分に自信が持てないイリーナ先生は、生徒たちとの関わりを通して少しずつ過去を消化しながら、未来へと回復していきます。

不器用でツンデレな烏丸先生もまた、少しずつじわじわと自分の感情をあらわにする自分を認めていきます。教育は人の心を溶かしていくのかもしれません。

学校をみんなで支える社会をつくる。それは同時に教える側を支えるためでもある。そういう理屈は、教育NPOが説教臭くプレゼンするよりも、『暗殺教室』が雄弁に語っている。だから僕は今日も漫画を読むのです。

 (すべて画像は 松井優征『暗殺教室』集英社)

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